私の好きな短歌、その13

雨乞あまごひの寺の鐘りひびくなり白昼まひるの如く月てりわたる

岡麓、歌集『庭苔』より(『日本の詩歌 第6巻 p330』)。

 次女茂子の夫の郷家のある備後地方の、「湯田村」と題された一連中の歌で、詞書に「今年の旱魃は三十年来の事といへり」とある。「雨乞」が新鮮。大正14年には寺で雨ごいがされていたわけだ。
 東京生まれの作者にとっては、備後湯田村は異国の地である。旱魃に苦しむ村で、月夜に響く雨乞の鐘を聞いた作者の感慨が、写生により過不足なく表現されている。
 「白昼の如く」とあるから満月かそれに近い月齢なのだろう。月が明るい夜は、色はないが白さを強く感じるものであり、それを「白昼」という言葉で連想させている。また、三句で「ひびくなり」と言い切ったことで、余韻が下句の情景へと広がっていく。二句と三句の句跨りもおもしろい。

 1924年(大正13年、作者48歳)作。作者生没年は1877(明治10)ー1951(昭和26)享年75歳。

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