私の好きな短歌、その4
中村憲吉、歌集『軽雷集以後』より(『日本の詩歌 第6巻 p238』)。
病む室の窓の枯木の桜さへ枝つやづきて春はせまりぬ
『日本の詩歌第6巻』の憲吉の章では最後の歌。「窓前」という題がある。これが憲吉の人生最後の歌なのかどうかは分からないが、この桜が咲いた後、5月5日に死去したと注にある。桜の枝がつやづくとは、どんな感じだろうか。見た目に分かるものなのだろうか。晩年病がちだった憲吉は、自分の死期を感じながらこの歌を詠んだことだろう。枯木が蘇りつつある、という生命の力強さを言いながら、それははかなく散る桜である。明るい春と同時に迫ってくる、死を見つめている。
1934年(昭和9年、46歳)作。作者生没年は1889(明22)-1934(昭和9)享年46歳。
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