私の好きな短歌、その19

病む母の枕(まくら)にかよふ浪(なみ)の音たかければ母は眠られざらむ

 橋田東声、歌集『地懐』(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p85)より。


 一首明瞭で謎がない。ごく当たり前の言葉で出来ている。私だったら、海の名前を入れたりして独自性を出したくなるところだが、それは無用なのだろう。
 「母」が二度出てくるが気にならない。むしろ全体に母のイメージが濃くなり、効果的。波の音が「かよふ」という使い方が新鮮。「枕に」という一語も、寝ている母親の耳元までを想像させてうまい。分かりやすい歌だが、なかなか作れない歌だと思う。

 1916年(大正5年、作者31歳)作。作者生没年は1886年(明治19)ー1930年(昭和5)享年45歳。

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