私の好きな短歌、その29

村祭むらまつり鏡売かがみうりゐてれきたるむすめの顔に反射させるも

 結城哀草果、歌集『山麓』より。(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p154)

 作者がいるのは山形県の農村である。このころは、鏡売という商売があって、村祭に売りに来ていたのか。短歌を通してかつての社会の様子を知ることができるのは楽しいし、時代の記録としても必要なことだと思う。農村の娘たちは、仕事に追われる日々とは違うなにか楽しいことがあるはずと、期待して祭りに来ている。化粧もしていたかもしれない。その顔にキラキラと反射する光が射している様子が微笑ましく、見たことはなくとも、懐かしい心地になる。現代には、鏡売だけではなく、それを待ち受ける人情ももはやなくなっているようだ。
 初句と二句の「り」、三句と四句の「む」のリズムは意図的だろうか、一首の調べとなっている。

 『山麓』は1929年(昭和4)刊行で、1914年(大正3)の歌から入っている。刊行時、作者37歳。作者生没年は1893年(明治26)ー1974年(昭和49)享年82歳。

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