私の好きな短歌、その39

仙台の冬の夜市よいちをふたりゆき塩辛きたらを買ひし思ほゆ

 木俣修、『流砂』より。(『日本の詩歌 第29巻』中央公論社 p305』)

 解説によれば亡妻挽歌という。背景を知らなければ作者の意図が分からない歌だが、その場合でも、「買ひし思ほゆ」に、何か含みがあるということは感じる。私にとって夜市とは夏の風物詩なのだが、一首の「冬の夜市」とは歳末の、年越し準備のための夜市なのだろうか。仙台という東北の地であることも、寒さを感じさせて効果的だ。そこで二人で塩鱈をかったなあ、という回想のみで一首となし、単純さ故の深みが備わった。挽歌であることがわかればさらに悲しみが加わる。

 『流砂』は1951年(昭和26年)刊行。刊行時作者46歳。作者生没年は1906年(明治39)ー1983年(昭和58)、享年78歳。

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