私の好きな短歌、その50

こほろぎの鳴く声とみにひそまりて庭の茂みに雨か降るらし

 土田耕平、『青杉』より(『現代日本文學大系94 現代歌集』筑摩書房 p78)

 「とみに」は急に、にわかに、の意。「雨か」の「か」は係助詞、結句の「らし」(連体形)とともに推定を表す。断定ではなく推定であることで、激しい雨ではなく優しい雨であることがわかる。草の下でコオロギが辺りをうかがっている様子が目に浮かぶ。静かな落ち着いた心で自然を感じ、古語の雰囲気を生かして詠まれた一首。

 『青杉』は1922年(大正11年)刊。刊行時作者28歳。作者生没年は1895年(明治28)ー1940年(昭和15)、享年46歳。

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