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「同じ穴の」(2022/10/31:岐阜高専演劇部内作家ソン「穴」)

2022/10/31に技術指導に行っている岐阜高専演劇部内で行なった作家ソン。
今回はWebのランダム単語ガチャ(https://tango-gacha.com/)でキーワードを選びました。出てきた単語は「穴」。
この「穴」をテーマに60分で書いた台本です。
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■タイトル:「同じ穴の」

  どこかの片田舎の民家。
  家族が並んでニュースを見ている。

キャスター 「本日未明、本巣市本郷の白木健三さん宅の畑で奇妙な現象が 発見されました。畑の作物は全て綺麗に抜かれ、その上で畑全体は綺麗に整えられた上、全体に大きな円のような模様のが描かれていたとのことです。また近所にすむ高井さんの話によりますと、同時刻にどこかからお囃子のような音が聞こえたとのことです。」

母 「なにそれ?ミステリーサークル?」
父 「害獣だろ?」
母 「猪とか?」
父 「そうだよ。だから嫌なんだ。あいつらはいっつも畑を荒らす。」
母 「でもそれだったらもっとぐちゃぐちゃになってるんじゃない?」
父 「あいつらもな、学んでるんだよ。あんまりぐちゃぐちゃにすると本気で追い出されるってな」
母 「いやねぇ、しかも今月でもう5件目だって」

  そこへ隣の座敷にいた婆が襖をすっと開けて登場。

婆 「ムジナ」
父 「うわぁ、びっくりした。婆ちゃん、いるなら居るって言ってよ。」
母 「おばあちゃん、どうしたの?」
婆 「ムジナが出たんじゃ。」
母 「ムジナってあの、同じ穴のムジナ?」
婆 「そうではない。お囃子に一面の原っぱ、間違いない、ムジナじゃ。じ  きにここにも来るぞ。」
父 「また婆ちゃんのおかしな話が始まった。聞かんでいいぞ、こんなの」
母 「お婆ちゃん。おトイレ行って寝ましょうか。明日もデイサービス、行くんでしょ。」
婆 「デイサービスだかデリバリーサーカスだか知らんが、そんなもんはどうでもいい。ムジナが来たら黙ってはおれん。」
父 「どういうことだよ」
婆 「あれはな、ワシがまだ乙女だった頃のことじゃ」

  どこか遠くから聞こえてくる夏祭りのお囃子の音。

婆 「あの頃はなぁ、周りには畑や田んぼしかなくて、一年中ただ畑仕事ばっかりしとったもんじゃ」
母 「え?なんか聞こえてきてない?」
婆 「だからムジナが近付いてくると楽しみでなぁ。隣の村まで来たとか聞くともう、仕事なんかはなんにも手につかなんだ。」
父 「なに?ムジナって夏祭りのことなの?」
婆 「ムジナが村まで来るとな、いつもとはまったく景色が変わるんよ。朝からずーっとお囃子の音が聞こえて、屋台の風鈴の音とか出店から漂ってくるいい匂いとか、みーんなが着てる浴衣の防虫剤の匂いと男と女の汗の匂いが合わさって、いてもたってもおれんくなるんよ。ワシは自分で言うのもなんやが、村一番の踊り手やったでのぉ。この日ばかりは人気者やったわ。」

  と、婆、父の手を取り。

婆 「徳治さん。ワシは銀次さんと許嫁やけれど、今日だけはあんたと踊りてぇんやわ。」
父 「え?俺」
婆 「じゃあ、神社の鳥居で待っとるで。」
父 「え?」

  そういうと、婆、90代とは思えない足取りで玄関から出ていく。

母 「え?徳治さんって?」
父 「いや、わからん。銀次は爺ちゃんの名前やけど・・・」
母 「って事は・・・」
父母 「婆ちゃんの昔話かぁ・・・」
母 「で?・・・ムジナって?」
父 「さぁ・・・」

  舞台、父と母を残し徐々に暗くなる。
  暗くなった舞台には提灯の灯りが点々とし始め、徐々にお囃子の音が大きくなってくる。
  やがて周囲に人々が集まってくる音がし始め、
  暗転。

  (おわり)


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