大学3年生3人が、木彫りしながら人生を深掘りしてみた。
2022年度の広報誌Souffle(スフル)のテーマは「大学の内部・心まで深掘りしたい・言葉にしないとわからないこと」に決まった。学生広報委員会に所属し、編集担当の私は、ずっと前からやりたかった木彫りをしてしまおうと思い立った。木彫りワークショップの参加メンバーは、ゾウ(自分)と、チーターとウサギ。みんな木彫りは初めてだ。学生広報委員会の担当教員でもあり、彫刻がご専門の古屋先生に、私たちの木彫りを見守ってもらえることになった。
雪の中で木彫り
山梨・甲府ではあまりないくらいの積雪。私たちの初めての木彫りは雪が降るなか始まった。
まずは、マケット(彫刻制作のためのひな型)づくり。完成系をイメージしながら、粘土をこねこねしていく。粘土を本格的に触ったのは久しぶりだった。
昔、ゾウは粘土の時間が嫌いだった。思い通りの形にこねこねできないからである。だが、成人した私は知らぬ間に力をつけていて、思い通りのゾウをこね上げることができた。
チーターとウサギも、それぞれの完成系をイメージすることができた。考えてきたモチーフをもとに、試行錯誤しながら、チーターは、ブローチを。うさぎはレリーフ(浮き彫)を彫ることに決めた。
次に、木材選び。古屋先生が、自分の作品を作る際に出た端材(切れ端のようなもの)を持ってきてくれたので、その中から自分の作品に適した木材を選んでいく(ありがとうございます)。
ゾウは、少し大きめの楠(クスノキ)を。チーターは、手のひらサイズの楠を。ウサギは、楠よりもやわらかい、ヒノキを木材に選んだ。ここから、本格的な木彫り作業が始まる。
木彫り開始
まずは、ノコギリや木を抑える工具などを使いながら、大まかに木材をカットしていく。
ヒノキは木材のいい香り、楠は刃を入れるとハーブのような独特な匂いが香る。防虫剤にも使われているようである。古屋先生は「いい匂い」と言っていたが、おそらくこの匂いの好き嫌いは個人差がある。ゾウは、少し好き。
念願の木彫り。作業中に、何度も「楽しい!!」と感じ、楽しいと呟いた。
ゾウ、チーター、ウサギ、それぞれが作品の大きさに合わせて木材を切った。
みんながある程度の大きさにできたところでお昼休憩の時間とした。
雪の深掘り開始
お昼のひと休憩。
チーターは、写真を撮ることが趣味。最近カメラを買ったみたいで、「雪を撮りにいく!」とはしゃいでいた。
ゾウとウサギは、お昼ご飯を求め、大学の生協へ。
大学の生協は、生活に必要な品物たちが並ぶ。意見箱のようなものがあり、学生のリクエストに答えて商品を入荷してくれる。正面には、山梨県立大学のマスコットキャラクター「やまちゃん」のオリジナルグッズが販売されている。「やまちゃん」は、10年くらい前に当時の学生の手によって誕生したらしい。
そんな、いつもお世話になっている生協だが、今日はあまりピンとくるものがなく車で外に買い出しに行くことにした。せっかくなのでチーターを誘おうと、LINEをしたが返答がない。ゾウとウサギでマックに行った。
大学に戻ってくると、何やらチーターが慌てている。どうしたのか聞くと、なんと、雪ではしゃぎすぎたチーターが、スマホを大学の駐車場に落としてしまったらしい!駐車場には雪が15センチくらい積もり、今もまだ降り続けている。チーターとウサギとゾウ、たまたま近くにいた人も一緒に、雪の深掘りが始まった。
探しても見つからず、チーターは引き続き捜索。ゾウとウサギは木彫りに戻る。スマホが見つかることを祈りながら、しばらく木彫りをしているとチーターが戻ってきた。少ししゅんとしている。スマホはまだ見つかっていないみたいだ。ゾウは、スマホをバスに置き去りにしてしまい、そのまま行方不明になったことがある。スマホを失う悲しみはよくわかる。
だが、ここで救世主ウサギが、「友達のスマホを探す」の機能があることを発見する。iPhoneユーザーの場合、別のスマホに無くしてしまった人のiCloudのメールアドレスとパスワードを入力すれば、なんと無くしたスマホの現在地がわかるという。iCloudのメールアドレスとパスワードを忘れてしまったチーターが慌てて家に電話しながら、必要情報を入手。ウサギのスマホにその情報を打ち込むと…
「A館前にある!!!」
ウサギのデータによると、どうやら山梨県立大学A館の入り口付近にチーターのスマホがあるらしい。
私たちは急いで(ウサギとゾウは内心楽しみながら)A館の入り口に駆け出した。
A館入り口。「スマホを探す」機能により、どうやらチーターのスマホは、音を出してわたしたちを呼んでいるらしい。位置情報を見ながら、チーター、ウサギ、ゾウが詳しい所在を確認していると、
通りすがりの大学職員の方「ここから音がきこえるよ!」
チーターのスマホは、無事雪の中から救出された!
私たちは、時にあきらめながら、補い合いながら、雪を深掘りし、チーターのスマホを見つけることができた。
木彫りは完成していないし、人生も深掘りしていないのに、今日一番の達成感である。
木彫りは、2日目に突入するのであった。
木彫り2日目
前回の木彫り(雪掘り)日から2週間程度が経った。
この日、チーターは保育園実習のためお休み。チーターの様子を知る古屋先生から、「楽しくやっているみたい」という噂を聞く。ウサギとゾウは安心した。
今日は、ゾウとウサギの2人で作品づくりを進めていく。
こちらが前回までの3人の進捗。
みんな、ある程度の形はできている。ここからさらに彫り仕上げていく。
前回ゾウは、作品の大きさに合わせて、のみを木槌で叩いて彫っていく作業をしていた。個人的には、この作業が一番「彫刻をしている!!」と感じることができた。
順調に、のみと木槌。時々ノコギリを使いながら黙々とゾウを彫る。だが、途中で木が割れたり、想定以上にノコギリの刃を入れ過ぎてしまったり、失敗を何度もしてしまった。少し焦る自分に、古屋先生は「大丈夫じゃないかな?」と、心配が軽くなるような声をかけてくれた。
一度、綺麗に形ができてしまうと、大胆に削ることができなくなる。でも、大胆に削ることが必要な時もある。思い切りと直感に任せて、木槌を振り回す。
バキッ
あっ
ゾウ 緊急入院
アイデンティティを失いかけたゾウに、木工用ボンドで接合手術が施された。
ゾウの治療がうまくいくことを祈りながら、お昼休憩にする。
初めて入った近くのご飯やさんでは、ガチの木彫りのゾウがいた。
木彫り 仕上げ
どうやら、ゾウの術後の経過は良好である。割れていたことが少しわかる程度に、綺麗に接合した。
アイデンティティを失いかけていたゾウだが、時を同じくして、ウサギも左耳がとれかけていた。結構序盤から欠けそうな左耳だったため、ウサギは耳を失わないように、慎重にウサギを彫り進めていた。だが、ウサギにもついに限界がきた。
慎重に、欠けないように彫っていたが、欠けてしまえばなんてことはない。とれた左耳は奥行きとなり、逆にウサギの良さを引き立てる結果となった。
ゾウとウサギ。アイデンティティ崩壊の危機をなんとか乗り越えながら、その後も順調に彫り進めた。そして、紙やすりや蜜蝋(木の保護と、ツヤ出しのために塗るもの)で仕上げをし、初めての木彫り作品が完成した。
綺麗に撮影した作品を載せる。
(チーターはまだ未完成)
初めてにしては、結構良い出来栄えではないだろうか。私たちは、私たちの作品のことを気にいっている。古屋先生、教えていただきありがとうございました。
ゾウの右目は、実は意図的につけたものではなく、たまたまついた傷。過程でついた、ゾウのらしさ。そのまま残すことにした。
この木彫りを通して
初めての木彫り、とても面白かった。完成するかどうか不安だったけれど、良い作品ができた!
その時は、失敗した!と思っていたところも、後々振り返ってしまえばなんてことはない。その失敗が、むしろ愛着や深みをもたらしてくれることに気づいた。
他人から見たら不完全な部分も、傷も、誰かにとっては愛くるしい。
私たちは周りに流されてしまったり、失敗や傷つくこと、周囲の目を恐れて何もできなくなったりするけれど、きっと大丈夫。自分の直感に任せて、思いっきりやってみればいい。もし失敗しても、死ぬ時にはそんなこともあった、と自分の人生を丸ごと愛せているのではないだろうか。
ここからは、山梨県立大学人間福祉学部の3年生で、
福祉コミュニティ学科 ゾウ
福祉コミュニティ学科 ウサギ
人間形成学科 チーター
に、人生を深掘りする質問を投げかけ、答えてもらう。
投げかける質問は、この5つ。
①なぜこの学科を選んだのですか?
②山梨県立大学に入ってよかったなと思うこと
③今、モヤモヤしていること
④これからどうしていく?考えていること
⑤高校時代の自分に、何か声をかけるならなんと声をかける?
です。きっと、進路に迷うあなたの手がかりになるはず。
それではどうぞ!
ゾウ(福祉コミュニティ学科3年)のメッセージ
・なぜこの学科に入ってきたのか
・この大学に入って良かったなと思うこと
・今モヤモヤしていること
・これからどうしていく?自分の未来や、この先の目標、展望など
・高校時代の自分に、何か声をかけるなら
ウサギ(福祉コミュニティ学科3年)のメッセージ
・なぜこの学科に入ってきたのか
・この大学に入って良かったなと思うこと
・今モヤモヤしていること
・これからどうしていく?自分の未来や、この先の目標、展望など
チーター(人間形成学科3年)のメッセージ
◎なぜこの学科に入ってきたのか
◎この大学に入ってよかったなと思うこと
◎今モヤモヤしていること
◎これからどうしていく?自分の未来やこの先の目標、展望
◎高校時代の自分に、何か声をかけるなら
文・写真:稗田竜也(人間福祉学部福祉コミュニティ学科3年)