層をかさねる_20240621-22

・夏至で、満月か。意識していなくても節目は来る。

・手放す家具をいくつか解体して梱包する。それなりに力はいるがふだんならなんてことないであろう作業にひどく時間がかかった。重力3倍ぐらいの気持ち。期日があるのでやるしかなかった。1本だけうんともすんともいわない固着したボルトを前にやる気がぷつんと切れ、すべてを投げ出して大の字になる。無力。知らないうちにそのまま眠って、起きたら幾分か動けるようになっていた。つかえそうな工具のありかを思い出す。いともかんたんに回る。そんなもんだ。
包んで送る。時間と体力さえあればこういう作業は苦ではない。むしろ楽しい。頭と体、適度に両方つかう感じがいいのかもしれない。考えながら動いて、動きながら考える。
(そして腰を痛めた)


・なくても生きていけるけど私の暮らしにあったほうがいいものランキング上位に食い込んでくるもの、「花瓶」と「切り花」。今の住まいに移るときに花器としてつかえるようなものはぜんぶ手放したのだった。とってもすてきなアレンジメントをいただいたのに、いい大きさのいれものがない。部屋に花があるのは2年ぶりぐらいか。
バーガンディのラッピングペーパーをほどいて、しおれないように大きめのマグカップにうつす。
八重咲きのガーベラ、カーネーション、バラ。深い赤色。片側に大輪のアジサイ。赤紫みのピンク。くるんと丸められたニューサイランにも赤いライン。明るめのやわらかなグリーンはリキュウソウか。すてきだ。とてもいい。じわじわと、ずっとうれしい。


・最終出勤日を終えた。直前の週で体調がめちゃくちゃになって戦々恐々としたが(疲労による免疫低下→職場でかぜをもらいこじらせる→アレルギー併発&腰痛)、なんとか表に立てるほどには落ち着いた。
わがままを言って大きな会は遠慮させてもらったし、そのままするっといなくなるつもりだった。
個人的にぽつぽつとお誘いを受けてお話ししながらおいしいものをいただいたりする。かえって手間をかけさせてしまったかもしれない。社内交流の習慣がない環境なのに、すこし特殊な立場にあったからか、思った以上に声をかけてくれる人がいて驚いた。ついでがないような場所に私に会うために時間をつくって足を運んでくれる人がいる。会えないからとメッセージをくれる人がいる。「好みがわからない」と言いながらもなにかを選んで贈ろうとしてくれる人がいる。それが形式だけのものかどうかはなんとなくわかる。その時間も気持ちも、なにもかもありがたいことだ。
辞める以上、100%円満なんてないと思っている。
こんなに「他者から見た自分の印象(いいところ)」を聞く機会もない。みんな褒めてくれる。やさしい。
そういうことが素直にうれしく、受け止められる状態にあることもまた幸せに思う。

・感覚的には、これできれいに更地だ。すべての「あったこと」はなかったことにはならない。それでも「過ぎたこと」になることもある。

・すこし歪なバウムクーヘン。絶えずぐるぐるとまわりながら火に炙られ、おのれを形成していく。ふわふわしていなくて適度にしっとり、くどくなく、ひと切れで満足、でももうちょっと食べたい、シンプルでいてなんかくせになる、ずっしりみっしりしたやつがいい。


・私の部屋からどんどんモノがなくなっていく。
もともと多くない家具や食器をほとんど手放すつもりで準備を進めている。
集まった様子にほれぼれする。「愛着あって執着なし」とはこのことか。家具や食器たちは、次の主の元へと旅立っていく。気に入ってたくさんつかって、それでもなお価値を見出してくれる人がいる。いいモノ選びができたと思う。
どれもつかって暮らしてみなければわからなかったし、これからも私はきっとそうだ。アタリをつける精度は高まるが、変化はつきものである。直感を働かせつつ、できれば添い遂げたいぐらいの気持ちで、なるべく私の変化についてきてくれそうなモノを選んでいる。それでも、それが3年とか10年とか。「長く持つ」の「長く」ってどれくらいのことをいうんだろうな。
最近とくに思う、服に限らず「一生もの」「死ぬまで持ち続けるもの」って私にはないのかもしれない。私にはそのほうが自然なのかもしれない。自分なりにモノと真剣に向き合いはじめて約10年、ようやく、それでいいのだとも思う。それでもまだ途中だ。死ぬまではなにもかも途中。
一生ものは今のところこの心身だけだ。それもどこまでかはわからないが。なにがどこまで変わったら、私は私じゃなくなるんだろうな。私を私たらしめるものとはなんなんだろうな。
とにかく、これまでのすべての積み重ねで今の私ができている。これからもそうだ。そう思うほかないし、近道はない。

・なくても生きていけるけどあったほうがいいものは、つまり「必要」なのだろう。選択は一生つづく。選べることは幸せで、苦しく、楽しい。揺れながらそういうものをつかんでいく。
いつだってぐるぐると、螺旋だ。進んでいる。

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