ご観劇ありがとうございました@錫玲夜矜/ばみ
11/5 19:45
23年度銀嶺祭公演『豆から挽いています』終演。
11/5 21:00
後輩の銀嶺祭公演を見終えた男、衣装から着替え終わった演出家に声を掛けられる。
観客の男:
あの… 普通、インタビュアーが呼ばれるの逆だからね?
演出家:
あ、「インタビューさせてください」ですね
観客の男:
なんで俺呼ばれているのっていう。これだけは言わないと特定団体にボヤかれるからさ… じゃ、はじめますか
安堵騒音:
お疲れ様です。今どんな感情ですか?
錫玲夜矜:
あまり終わった実感がないですね。通し稽古、公演の延長という感じで明日もありそうな気がしちゃいます。でも打ち上げで泣くと思います。私はだいたい泣くので
ばみ:
同じく実感が無いですね
安堵騒音:
割と悲しい感じなの?
錫玲夜矜:
まだ達成感が無いかな…
安堵騒音:
成長したとかは?
錫玲夜矜:
反省と共に常々思ってます。確かに私は演劇経験者ですけど、高校では部員が10人もいなかったので、スタジオを持った劇団で照明も決めて裏方の統率も取らなきゃ、は初めてなんです。演技の演出面で言うなら、役者との接し方が「分かるようになった公演」でした。私は人に頼ることがとっても苦手な人間なのですが、助演出のばみさんに色んな相談ができたんですよ。彼は初心者ですけど自分で意見もして「実現不可能なこと」はちゃんと否定してくれる。やった事のないことができた、統率者として良し悪しを知れた、人間として人を頼ることができた。が、私の成長だと思います
安堵騒音:
舞台上にいる大人数の見せ方が大変、とかではないんだ
錫玲夜矜:
そうですね。舞台で役者をどう動かしたいかは早く浮かぶ方なので、それよりはむしろ役者にどこまで委ねていいのかの葛藤がありました。その面で、ばみさんは妥協しない人なので創作が好きな者同士沢山相談できました
安堵騒音:
ばみさんは、錫玲夜矜さんの知識や経験に創作の熱意で食らいつけたという感じなのかな?
ばみ:
えっと…
錫玲夜矜:
音響、例えば最後の時計の音上げ切りは彼のアイデアだったりしますね
安堵騒音:
あれ良かったね
ばみ:
そういえばアレきめたの俺かぁ…
安堵騒音:
おい… じゃあ、脚本家でもありながら「役者」として舞台に立つ不安とかはあったかな?
ばみ:
あんまり… 演劇について何も知らず書いた脚本で役者をやると自分の無知が浮き彫りになっていって。演劇という世界を役者を通じて、演出を通じて知れたのが良かったかな。色んな立場で考えたので
安堵騒音:
分かる~!1年生の中では君だけが全てやったわけだ。多面的に見る楽しさってあるよな。それによって今後活きてきそうだなってことある?
ばみ:
例えば演出家が役者としてが出るシーンは自分が演出したんですよ。外側から見て、自分じゃこれできないなとか、自分にとっての演技のハードルの高さを実感しましたね。役者すごいなーって
安堵騒音:
「あの人から学べた!エピソード」とか好感度上がるから言っといた方が良いよ。
通りすがりの伊那ラジヲ『幼女X』の演出:
(あれ、稽古場日誌改ざんしようとしてない?)
ばみ:
麻雀のシーンで、土田が捌けた途端お人よしだったウイジョンの加藤がガラッと邪悪な面を見せるの、提案してみたらパッとできるの凄い
錫玲夜矜:
え、それ私? ありがとうれしっ
ばみ:
あと、脚本に書いていないことを読み取って表現できるみんな凄いよ。自分で書いていても出せないのに
安堵騒音:
じゃあ俺が脚本書く人みんなに聞いている質問をするよ。君はもともと小説を書いていた人だよね、脚本から役者を介して観客に届けるのはコミュニケーション面で解釈が擦り減る可能性もある。役者の力で120%になったとか、小説より脚本で良かったなと思うことはあるかな?
ばみ:
自分が無意識で書いていることを役者は違う切り口で具体的な「意味」にしてくれる。他人の意見を聞いて物語が深まったなと、これは小説に無いなと思います。まっ、1番は目の前で観てくれるお客さんを認識できるのが嬉しかったです。ネットの海にポイって小説投げているだけなんで、PV数で可視化はできているものの、分かんないじゃないですか
安堵騒音:
演劇の力強さなのかな
錫玲夜矜:
1ステ目に「アドレナリンで目がバッキバキだよお!」って言ってたね
安堵騒音:
俺の時(『少年少女、ラーメンを啜るとともにオカルトを綴れ』)は、役者やらなかったから、客席の後ろの方でガタガタ震えていたけど、ウケなかったらどうしよー、って不安になったりしなかった?
ばみ:
まず、小説も演劇もタイトルとあらすじを読んで、ポスターを見て来場するじゃないですか。色んな方の協力を得ているのにこれでお客さんが来なかったらどうしようの不安がありました
安堵騒音:
あ、集客面? それも独立した演劇サークルの面白い所ではあるよな
ばみ:
本番中、脚本家としての自分は皆無ですね。それよりも役者として頑張らなきゃっていう
安堵騒音:
脚本家としての不安、面白くないかもっていうのは元々あったの?
ばみ:
面白くないかもってのはありました。まず、今回の脚本は突貫で作った物過ぎて手ごたえが無く、いや書き上げた瞬間はありましたけど薄れていきました。稽古を通していくうちに「この展開はなぁ…」「もっとできたのにな」と
安堵騒音:
物を作る人間はみんな悩むけど、こと演劇に関しては脚本家として完結させてからが長いもんな。ずっと向き合わなきゃいけないのは辛いよな
ばみ:
自分も役になろうとしていて「こいつはこれでよかったのか」と、変な気持ちが前日までありました
安堵騒音:
インタビューの最初で錫玲夜矜さんに「演劇初心者でありながら実現不可能なことを言うタイプではない」と評価されていたね。今回、超ファンタジーな内容ではないにせよ時系列のバラつきが印象的な脚本だったと思う。役者の出捌けや場面転換が多かったけれど演劇特有の制限は苦しくなかった?
ばみ:
ちなみに場面を変え過ぎてカットしたシーンが結構あるんですよ。暗転せず「こっちの場面とこっちの場面はスムーズに続けられる」だとかは錫玲夜矜さんと話して導きだせたというか、自分の脚本より良くなった所もあります
安堵騒音:
じゃあ難しさは一旦置いといて、色んな人それぞれ人生が絡む群像劇の中に描き切れなかった、繋ぎが悪くなければ掘り下げたかった要素、お蔵入りしたアイデアってあるのかな?
ばみ:
「マスターの高校生時代」ですね
錫玲夜矜:
あー!それ欲しー!
ばみ:
大まかに上手から喫茶店、抽象的な空間、家の3つに舞台が区切られていて、中央が様々な空間として使えるとはいえ高校時代を表現するには足りないと感じて、マスターの家庭はパッと終わらせました。まあ、空間としては学校かなぁ
安堵騒音:
一瞬アンサンブルキャストとかで役者8人が揃ったりしたら面白いけどね。でも、今回は人を繋ぐハブとして喫茶店が機能しているから、コーヒーを入れる道具であったり空間であったりが、具体的なモノとしてずっしり構えている点については個人的に良かったなと思います
安堵騒音:
じゃあ次は錫玲夜矜さん、演出家としての実現可能性について聞こうかな
錫玲夜矜:
初めて脚本読んだときは、これできんやろって思いました
安堵騒音:
そうだね。メチャクチャ不安そうにしていたね
錫玲夜矜:
暗い雰囲気の話は好きなんで良いんですけど、私が触れてきたのはキャラの深堀りがされた脚本ばかりだったので。役者の読みを聞いちゃったら意外と深い脚本なんじゃないか?って脚本への心配は無くなっちゃって。逆に役者にはもっと求めても良かったのかな
また、音響照明の大まかなプランは稽古開始から1週間くらいの内に伝えなければいけないのですが、脚本の最終稿が上がったのは稽古開始の2日前だった為、数日で音響照明を考えなきゃいけなくてキツかったですね。稽古開始から2週間経っても何も動いていない裏方スタッフの作業もあったので、もっと確認をとって指示を出すべきだったと反省しています
その点、ばみさんは何も知らない身でありながら発展的な会話がずっとできました。私は脚本家が神様だと思ってるんですよ。その神様が作った世界を現実に表現するのが私の立場だと思っているので、彼に肯定してもらえるのは凄く自信になりました。私がやらなきゃいけないことも多かったから…
安堵騒音:
そうだね。確かに君ひとりの仕事量は多かったかも知れない
錫玲夜矜:
今回の舞台、物理的には大変でした。それでも道しるべとしての彼が居てくれたから精神的には苦しくなかったです
安堵騒音:
…神様的にはどう?
ばみ:
いやぁ、今回の脚本で神様って呼ばれるのは、嫌、です。自分は終わってもまだ納得いってなくて。エンターテイメントの世界として、もっとできることがあったと未だに感じます。色んな先輩に脚本家と演出家は意見が食い違うよって脅されていたんですけど、やってみたら「アレッ、特に嫌なこと無いぞ…」っていう奇跡が今回の公演です
安堵騒音:
意外だな。会って話す前に書き途中の脚本送ってくれたじゃん。読んだときに「これは絶対に曲げたくないです」って意思の強いタイプだと思ったから、錫玲夜矜さんとぶつかって喧嘩するんじゃないかなと先輩全員が予想したんだよ
通りすがりの『春と円盤』の脚本/村瀬コウイチ:
(うん)
錫玲夜矜:
「なんでこの演出するの?」と聞かれても理由を説明したら驚いた顔しながら「それならそれが良いな」って言ってくれたもんね。ありがたかったし、言い方悪いですけどラクでした
ばみ:
(自分の意思が、弱いから…)
錫玲夜矜:
例えば、信仰宗教への妄信故に両親が自殺したという過去を持つマスターが、自らに恋愛感情を向けるワタリの執着を嫌悪するっていう、「妄信への嫌悪」のシンクロ。これを話したら凄く驚いていました
ばみ:
無意識で書いてたから
安堵騒音:
無意識? それ、無意識っていうのか…? でもそれは凄く良い解釈だと思うよ。あと終盤で過去の話を伝えられたワタリが「マスターが生きていて良かった」と、明るい反応をみせる、あのすれ違いの演出は面白かったね
村瀬コウイチ:
(あ~)
錫玲夜矜:
他にも間接的に自殺に追い込んでしまった知人について話すとき、最初こそ塞ぎ込むんですけど、ワタリ自身が元気になってからは軽く話すんです。あの辺りからマスターしか見えない、狂いを演出したくて
安堵騒音:
「(友人の自殺で)ほんと迷惑しちゃって~」くらいの温度感で話していたね
錫玲夜矜:
役者への指示としては「ここはずっと目が♡なだけだよ」としか指示していないんですけど、彼女はそれを汲んでくれて。それこそ、脚本演出の手を離れてキャラクターが動く瞬間だったなと感じます。彼女の努力ですけど凄く嬉しい…
錫玲夜矜:
言語化されるってとっても重いことなんですよ。この物語では「死ぬ」って言葉が出てくるんです。キャラクターが中高生なら簡単に使われてしまうと思うんですけど、「死ぬ」「好き」「愛している」みたいな直接的な言葉が出るシーンは大切にしたくて。大人って事実が積み重ならないと確証にならないから、その言葉を境にマスターとワタリの振る舞いが変わる演出を選びました
安堵騒音:
初稿を見せてもらった段階では境目が曖昧で、その唐突さ、ワタリというキャラクターの当然のような空気の読めなさが顕著に浮いていて、嘘くさくなるんじゃないかって心配があった。だから演出でカバーしたなと感じた
村瀬コウイチ:
(そう)
安堵騒音:
最初に想定していたキャラから変化していくと思うんだけど、たぶんワタリが1番違うんじゃないかな?
ばみ:
そうですね、ワタリが1番です。でも、それが良い方向に違ったっていう。今回の脚本でキャラの外側は作ったけど、内側は作っていなかった
安堵騒音:
行動ははっきりと最初から決まっていたもんね
ばみ:
内側を作らな過ぎて、相手の意見を受け入れやすい状況にありました。それを役者と演出で良い方に持って行けたなって感じます
安堵騒音:
じゃあ、この物語を小説として書くなら地の文が厳しいという事かな?
錫玲夜矜:
(書きたいんじゃないの?)
安堵騒音:
え!? 書きたいの??
ばみ:
書きたいんですよ。小説となると、さっき言ってたマスターの高校時代の深掘りとか脚本と多少変わってくるとは思うんですけど。今回の役者に補ってもらっていた部分は、書かずに読者にゆだねることになってしまうのでは、と
安堵騒音:
それ結構タイヘンなこと言ってるぞ~。でもまあ、俺も『少年少女、ラーメンを啜るとともにオカルトを綴れ』の小説書こうと思った事何回もあるけど、完成した舞台を1回観ちゃったら、書きやすいと思わない?
ばみ:
たぶん書きやすい。それにネタ擦れるじゃないですか
錫玲夜矜:
(オイ!)
ばみ:
ただ、中身はより考える必要があるなと。仮に小説として出したものを読んで公演を作ったら、それが答えになってしまうじゃないですか。それもどうなんだろうな~、っていう
安堵騒音:
じゃあ、演出に左右されるっていう、脚本で確定しない部分については割と楽しめた?
ばみ:
楽しめましたね
安堵騒音:
良いねえ、それは良いことだ
ばみ:
色んな人と作り上げているって感じは味わえた。とても面白かったです
安堵騒音:
今回、かなり2人とも楽しそうだね
錫玲夜矜:
脚本渡された段階では彼のこと大嫌いだったんですけど、稽古期間中にどんどん好きになりました。今はもう1度ばみさんの脚本で公演がしたいです
安堵騒音:
あ、来年以降2人とも松本に居ないじゃん。次やるとしたら追い出し公演か2週間公演になると思いますが、次回作のご予定は??
ばみ:
一応、書きたいです。0だった演劇の知識が今回を通して1か2には増えたと思うので、「こういう演出が活きる脚本を書きたい」みたいなのが出来ました
村瀬コウイチ:
(そうなってからは楽しいよ)
ばみ:
欲は出てきたんですけど、一旦は離れたいです。なんか連続で書いたらダメだなって、感覚的に感じていて
安堵騒音:
俺も2年前に同じこと思った
ばみ:
一旦別の創作をして、演劇の事を考えている今の脳に違う別の刺激を入れて考えたいです
安堵騒音:
次は、小説?
ばみ:
はい、コンテスト用の長編小説に半年くらいは使いたい。その半年で脚本のプロットを…、まあプロット書けないんですけど。プロット書くなら本文書いちゃえって
村瀬コウイチ:
(分かる!)
ばみ:
まあひと言でいうと同時並行で、今後は小説7割、脚本3割の奴で生きていきたいですね
安堵騒音:
え、役者は?
ばみ:
役者は… 無理じゃねっ??
錫玲夜矜:
ちょっと、ね
ばみ:
役者は別に良いかな… 今回は自分で書いたから良いものの、既成の脚本から役の裏を読み取るって無理な気がして。まあやってみないと分からないとは思いますけど
安堵騒音:
カギカッコだけだもんね
ばみ:
感想を書くのとか苦手で。まあ相対的に脚本演出に傾いているだけで、演劇に触れていきたいとは思うようになりました。色んな創作物に触れたい欲があるので、
安堵騒音:
うわメッチャ良いな!お前ぇ!!
ばみ:
今回で、脚本演出役者の知見が増えたっていうのが良かったです
安堵騒音:
この辺で2年前の稽古場日誌引用して入れちゃおうかな、マジで同じこと言ってるよ
安堵騒音:
錫玲夜矜さん、君は忙しく今後も活動していきそうだね
錫玲夜矜:
そうですね。ただ、私は彼と違って0から1を作れず、貰ったものを10や100やそれ以上にすることしかできないから、「ばみさんが今後書くであろう脚本にステキな演出家であったりステキな役者であったりで関わりたい」という活動理由が1つ増えました。本当に、頼りになったし、楽しかったし、沢山お話しできたし、自分自身がとても成長できたので感謝しています。ありがとうございました
安堵騒音:
両者の今後の活動に期待ですな。創作物そのもののジャンルの好みはここにいる3人とも違うってのが面白いなぁ
村瀬コウイチ:
(私も…)
安堵騒音:
最後に一言どうぞ
錫玲夜矜:
1か月半、劇団山脈の新入生を見守ってくださった方々、この稽古場日誌を読んでいる方々、ご来場いただいた方々、本当に、本当にありがとうございました。…で、いい?
ばみ:
う、ん
安堵騒音:
おい、意思… なんか言いなさいよ
ばみ:
今回の公演にご協力いただいた、多方面の、関係者の皆様、本当にありがとうございました
安堵騒音:
これで、インタビューを終えます。ありがとうございました
安堵騒音:
おい、インタビュー1時間て。稽古場日誌史上最長だよ。稽古場日誌で遊んでる君らの感じ、俺は好きだけど、先輩に書かせるのは頭おかしいって。レギュレーションどうなってんだよ。編集ダルすぎ。あさっ…いや頑張って明日には出す
錫玲夜矜:
ほんとですか?
村瀬コウイチ:
ダルくても面白いことはやってくれる先輩だから
安堵騒音:
やべ~
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