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「実燃費」という曖昧ワード

いまや、多くの新型の自動車において、重要なアピールポイントとなっているのが燃費性能。

そのカタログ値として、日本国内では「JC08モード」が使われていて、その数値と実燃費の剥離というのは、ときに問題視されております。

しかし、結論からいえば実燃費という非常に曖昧模糊としたワードと、比較する基準として計測条件が厳密に決められたモード燃費を同列において剥離といった言葉を使うのは、感覚的ではありましょうが、総論として落としこむのは非科学的と感じることしきりであります。

実燃費というのは、ある意味「オレ燃費」であって、ある個人が走らせたときの感覚的かつ平均的な燃費値を示しているに過ぎません。

そして「オレ燃費」は、走行条件がどれほど整っているのか、モード燃費の測定方法と何が異なっているのか、などなど個々人によって異なるもの。

すなわち「このクルマの実燃費は●●km/Lくらい」という表現は、それなりに母数のある統計データによるものでない限りは、自分と周囲の話から想像した数値という域は出ません。

また、非常に稀なケースですが、そうした「オレ燃費」がモード燃費を上回る燃費走行の天才や達人も存在します。剥離という点だけでいえば、そうしたケースにおいても、モード燃費は信用ならないという評価になるわけですが、実際にはモード燃費超えをできるテクニックとして評価されがち。

もうひとつ言えば、高速道路を指定速度で巡航したり、信号のない国道を一定速度で走ったりすると、比較的モード燃費超えをしやすいのは、モード燃費がストップ・アンド・ゴーで走っているからで、定地走行がその燃費性能を超えるのは不思議でもなんでない話ともいえるのでした。

そもそも、燃費モードの測定時にはエアコンやオーディオといった電装品はオフにしてテストしますが、その部分が異なるだけで燃費性能は変わってくるわけですし、決められた加減速も行なった上での燃料消費率ということになっております。

あくまでも、ある計測時における燃費性能を示しているという風に見るのが順当。

ですから、エアコンを使って負荷が増えればモード燃費よりも悪化するのは当たり前であって、それがエアコンの負荷による範囲であれば、実燃費との剥離として指摘するものではなく、当然の話に過ぎません。

そこは剥離として指摘するものではなく、むしろエアコンオフでの燃費性能がこのくらいだから、エアコンを使うとこのくらい悪化するであろうという目安になる数字といえるのです、実際は。

しかし、ここでのポイントになるのは、燃費性能が良好なほど、エアコンなど測定モードでは使わない電装品の影響が大きくなりがち、という点。それが、実燃費との剥離として強調されているのかもしれません。

さらにいえば、空気抵抗や走行抵抗などの抵抗についてもリアル・ワールドとの違いがあるという指摘もできましょう。

その意味では、モード燃費の数値自体を、リアル・ワールドで再現するのは非常に難しいのですが、計測モードと同じ環境がリアル・ワールドに存在するとも思えないので、ズレが生じることは織り込み済みで判断すべきだと思うのです。


たとえるなら、サーキットのラップタイムのようなもの。

仮にモード燃費が筑波サーキットのタイムに相当すると仮定します。

そのラップタイムが60秒だったとして、鈴鹿を走ったときに150秒かかったから、タイムが全然違うと立腹するひとはいないはず。走っているステージが異なるときに数値を並べたり、平均速度を比べることに、どこまで意味があるのでしょうか。

ただ、筑波でのタイムを並べると、おおむね鈴鹿でも同じ順番に並ぶであろうとは予想できるわけです。もちろん、ギア比や特性で、逆転するケースもあるでしょうが、筑波の100位が鈴鹿で1位になるといった極端な逆転はないでしょう、おそらく。その意味で、違うサーキットでの走行データは、タイムや順位を予想する参考にはなり得ます。

燃費性能も同様。モード燃費というのは、あくまでもその測定方式における数値であって、異なる走り方をしたときに剥離していると指摘するのはナンセンス。

あくまでも、燃費性能の目安として見るべきであって、同じような条件で走ったら、近しい数字が期待できるかもしれないくらいの感覚でいるのが妥当と思うのです。

そして、こういう話になると実燃費と並んで「モード燃費達成率」というキーワードも登場するのですが、こちらもサーキット走行に例えるならば、プロドライバーとアマチュアのタイム差というのに近い印象。

非常に尖ったクルマでは、ちょっとしたミスも許されませんし、速いクルマになるほど判断力や正確性も求められますからプロとアマの差は出やすいのですが、遅いクルマでは差が出づらいのでありまして。

燃費性能においても、達成率が高いクルマというのは、その多くが絶対値において、けっして燃費性能がイイとは言えないモデルが並ぶことが多いのであります。つまりドライバーのテクニックに対して影響が少ないくらいに、もともとの燃費性能がよろしくない、ということが多いのです。

たとえば、モード燃費20.0km/Lのクルマで達成率70%で、同じくモード燃費30.0km/Lで達成率60%だとしたら、実際の燃費性能でいえば後者のほうが優れているわけで燃費の絶対値を評価するには、達成率は無意味でしょう? 気分としては前者の燃費性能に納得しやすいでしょうが……。

そう、実燃費や達成率というのは、性能を云々するものではなく、ユーザーの気分に影響する要素。

そういう意味で「感覚的」と結論づけるところですが、コンシューマ機において「感覚的な満足度」というのは重要なファクターであり。

だとすれば、『モード燃費とオレ燃費の差や達成率』というのは、ドライバーのテクニックを示す要素であり、そこでネガティブな印象を受けたユーザーから不満、納得できないという声が上がるのも、また自然な話なのかもしれません。

オシマイ


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