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ホンダ・オリジナル・メカニズム・レクチャー 「SH-AWD」考察

ホンダのクルマには独自の味がある。そうした乗り味を生み出しているのは、ホンダならではのメカニズムであるはずだ。たとえばレジェンドに採用されている「SH-AWD」。このハイテク四駆には隠されたホンダらしさとは。

※本原稿はVTEC SPORTS誌に寄稿したものを大幅に加筆・修正したもので、すでにパブーにて100円で販売しているものです。

http://p.booklog.jp/book/1057

※なお本原稿は公表資料により執筆したもので、本田技研工業とは一切の関係はありません。



 ホンダというメーカーは時にとんでもないメカニズムの進化を見せることがある。

 古くは1980年代、DOHC(ツインカム)エンジンから遠ざかっていたように見えたのに、ZC型で復活の狼煙を上げれば、その数年後にはVTEC(B16A)を登場させ、それまで「ターボか、ツインカムか」と競争していたメーカーを一気に追い越し、エンジン界の覇権を奪い取った。その当時にしてもエンジン競争にはまったく興味のないような顔をして、いざとなるとオリジンな技術によって実力差をまざまざと見せつけたのだ。

 そして同じことが駆動メカニズムにも起きた。それこそが「曲がるための四駆」。つまり2004年10月、レジェンドに投入された「SH-AWD(Super Handling All-Wheel-Drive)」だ。国内モデルの馬力自主規制を初めて突破して、最高出力300psを実現したことで注目を集めたレジェンドは、そのパワーというメリットを引き出すため「SH-AWD」という駆動配分型四駆を採用している。これまでスタンバイタイプの生活四駆がラインナップの中心にあったホンダが、いきなり超ハイテク四駆を登場させたのである。

  300ps+4WDと聞くと短絡的にハイパワーを受け止めるための四輪駆動と考えがち。だが、実際に乗ってみればSH-AWDの制御はパワーを受け止めるためだけではないことが実感できる。たとえば静止状態からアクセルを全開にした場合、一般的な4WDとして考えれば前後駆動配分は50:50に近いはずだ。しかしレジェンドのメーターに組み込まれたSH-AWDインジゲーターはフロント寄りの駆動配分を示す。さらに高速走行時にアクセルを抜いた際、今度はリア寄りの駆動配分(エンジンブレーキのトルク配分)となるのである。さらに旋回時には驚くべき制御を行なう。アウト側リアタイヤへの駆動配分を多くして、ヨー(クルマが自転する力)をコントロールすることでコーナリング能力を高めているのだ。

 そもそも四輪駆動とは、すべてのタイヤにエンジンのトルクを伝えることで各タイヤの負担を軽くするために生まれた機構という見方ができる。たとえばグ リップの低くなる悪路でのスリップが減るのは四輪にトルクが分配されたおかげで、それぞれのタイヤのグリップ性能を使い切る前に進行方向へのトラクション として使うことができるからだ。もちろん、二輪駆動で同じトルクを与えたのであれば、縦方向のグリップを使い切ってしまうという条件下での話ではあるが。

  結果としてエンジン性能を引き出す(=路面に伝える)ための有効な手段として四駆は認識され、市販車として登場するようになったのが1980年代のこと。 そしてスポーツ四駆というジャンルが生まれた。といっても駆動伝達力の大きさを活かした速さであり、コーナーの立ち上がりにおける優位性がその速さの源だった。

 1989年には前後トルク配分四駆システムが誕生する。いわずと知れた「アテーサE-TS」。日産がスカイラインGT-Rに搭載したハイテク四駆で、コーナーの入り口では操舵輪への駆動配分を減らして(ゼロにして)、曲がる力を強め、立ち上がりでは前後にトルクを配分して加速性能を高めよう というものだ。つまりFRと4WDのイイとこ取りを狙ったシステムといえる。その後、国産モデルでいえば三菱のランサーエボリューション、スバル・インプレッサといったモデルがスポーツ4WDとして認知され、走りの実力を高めていく。

 その進化は四駆の駆動力・加速性能をベースに、コーナリングで、いかに4WDであることが邪魔をしないかという方向だったといえよ う。もちろん三菱がギャラン~ランサーエボリューションと進化させてきたAYC(アクティブヨーコントロール)は駆動トルク移動により、車体ヨーを制御す ることで”曲がるための四駆システム”となっているが、もともとは四駆のネガを消すために生まれたという面は否めない。

 そうしたスポーツ4WDが汲んできた進化の流れを根本から変えてしまったのがホンダ「SH-AWD」なのである。結論から言ってしまえば、このシステムは名前の通り「曲がるための四駆」なのだ。つまり駆動力配分によって コーナリング性能を高めてしまおうというわけだ。

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