2021年前半に読んだ&観たもの

文化系トークラジオLife「真夏のオンラインオフ会」に出た。

2021年前半に読んだ&観たコンテンツについてお話した。その場でAmazonで本を買ったりして、オンラインならではのかなり楽しいイベントだった。(※1)

ちょっと話し足りなかったので2021年前半の面白かったコンテンツについて簡単に書きたいと思う。


〇「女ふたり本」

シスターフッドともちょっと違う、さまざまな関係の女性ふたりが書いた「女ふたり本」に注目している。

西森路代+ハン・トンヒョン『韓国映画・ドラマ――わたしたちのおしゃべりの記録2014~2020』(駒草出版)では、「対談」ではなく、「おしゃべり」としている。特に2014~2020年は、フェミニズムについて社会の受け止め方が大きく変わった時期でもあり、二人の変化の痕跡も隠さず残されている。本当に誠実な本だ。「まえがき」と「あとがき」がすごくいい。

おしゃべりの最中、ハンさんから何気なく、「この本は、さほど社会に対して繊細ではない、ごくふつうの感覚の持ち主であった西森さんが、徐々に変わっていくのがいいんじゃないか」と言われはっとしたのだ。実はそれを言われたとき、少なくと二〇一四年当時の自分は、それなりに繊細だったのではないかとも思っていたのだ。
(「まえがき」 西森路代)
わたしがこの七年間、西森さんを通じて西森さんの変化に重ねてみてきたものは、この社会でのフェミニズムの広がりでもあった。それは、「平凡な女性たち」がフェミニズムを手にして身体化することで、自らの主体性を獲得していくプロセスだ。(中略)西森さんとのおしゃべりを振り返ると、わたし自身が「平凡な女性たち」への共感に欠ける自分自身を相対化しつつ、「平凡な女性たち」に支持されたフェミニズムの意味を、体温のあるものとして実感するプロセスであったようにも思う。
(「あとがき」 ハン・トンヒョン)

1年に1回、映画の感想を「おしゃべり」する仲であるふたり、しかも共にキャリアのあるふたりの、相手を信頼して投げる剛速球のキャッチボールがかっこいい。

ライターのキム・ハナと、編集者のファン・ソヌによる『女ふたり、暮らしています』(CCCメディアハウス、清水知佐子翻訳)は、恋人でもない40代の女性ふたり、猫4匹の生活が愉快に書かれている。

私は、ひとり暮らしのために注いでいるエネルギーについて意識するようになった。特に夜になると、余計な考えや不安のようなものに自分でも気づかないちにずいぶんエネルギーを使っていた。そのつらさが、ひとり暮らしの気楽さと身軽さと楽しさを超えたのは、そのころではなかったかと思う。
(キム・ハナ「分子家族の誕生」)

気が抜けていながらもオシャレな生活は、読むだけで楽しい。特に笑ったのが、ファン・ソヌがストーブの上でサツマイモを焼いたエピソードだ。焦げた臭いに気がついたキムに「サツマイモから何か漏れているんじゃない?」と指摘され、実際に水分が漏れていたのだが、なぜかソヌは正直に言わずにすぐばれる嘘をつき、ストーブを焦げつかせてしまう。

ストーブの焦げつきは、私がこっそりふき取る前に同居人に発覚してしまった。「これ……もしかすると、さっきから気がついていたのに黙ってたの?」。後の同居人の回想によると、その瞬間、私の瞳が左右に激しく揺れたらしい。
同居人はなにも言わず、キッチンタオルを水で濡らしてきて、ストーブの汚れを拭きはじめた。(中略)どうすることもできず、同居人がストーブと格闘する間、罰を受けて立たされているような気分を味わいながら静かに座っているしかなかった。しばらく苦労していた同居人は、汚れを完全に取り除けないままベイキングソーダと酢を持ってきて汚れた部分に振りかけ、バスルームに入っていった。シャカシャカと規則正しく繰り返される歯磨きの音が、気が気でない私にはなぜか怒りに満ちたものに聞こえた。
(ファン・ソヌ「破壊王」)

こういうくだらない嘘ってついちゃうよね、と思う。病気になって入院した時に看病をする話など、ふたり暮らしがセーフティネットになっている様子もわかる。結婚制度だけに限らない関係性に、読むだけで風通しの良い気持ちになる。

「おんな二人、暮らしています」が、比較的お金のあるおんなたちの、オシャレなルームシェアの話だとしたら、文庫化された阿佐ヶ谷姉妹『のほほん二人暮らし』(幻冬舎文庫)は、比較的お金のないおんなたちの、ふたり暮らしの本だと言える。彼女たちは、6畳1間にふたりで暮らしている。エッセイは、エリコさん(姉)がミホさん(妹)の足にぶつからないように、文章を書くこたつのシーンからはじまる。

深夜1時の阿佐ヶ谷。コタツ越しに見えるみほさんは、かすかにいびきをかきながら眠っています。
みほさんは、普段も静かで、いびきも静かです。
私は出来るだけ大きな物音をたてないよう、こそこそとコタツに向かっています。
深夜だから? いいえ、コタツのすぐ下に、みほさんの足があるから。
(「6畳1間の布団事情」 エリコ)

相手の身体に気安く接触しないリアルな距離感。冒頭から心をつかまれる。エリコさんの目から見る、ミホさんの奔放さがとにかくかわいらしい。

6畳1間でふたりで暮らすことは、同じ室温で暮らすことでもある。暑がりのミホさんと寒がりのエリコさんとの間では駆け引きがある。

私はクーラーをつけていてもちょっと窓を開けるのが好きで、姉に何も言われなければ、だまって私側の窓を開けているのですが、姉がみほさんの方ばかり風が通ってずるいと時々主張してきます(両側を少しずつ開けると虫が入ってしまうので出来ません)。そんな時は「だって『みほさま』なんだから仕方ないでしょう」とい言うと姉が「……そうねぇ『みほさま』だものねぇ」と納得するのです。姉に言わせると、私はひとりっ子で大事にされて育ったので、どこか姫さま気質があるようで、姉より私の方がえらいと思っている、私の方が敬われるべきだと思っている感じが時々出るようです。その気質を『みほさま』と2人の間で呼んでいます。
しかし夜中に暑くて起きるとちゃっかり姉側の窓が開いていたりするので、油断もスキもありません。
(「夏生まれと冬生まれの体感気温戦争」ミホ)

「みほさま」と名付けて二人で納得する様子に、当事者が自分の病名に名前をつける当事者研究のアプローチを思い出した。生活の知恵だなぁ。そしてちゃっかり姉側の窓が開いているのもおかしい。

上野千鶴子/鈴木鈴美『往復書簡 限界からはじまる』も刊行された。『小説幻冬』での2020年7月号から2021年6月号までの連載をまとめた本である。言語化の精度に打ちのめされ、何度も読書の手が止まった。周りの友人にとにかく読んで欲しいと勧めている。三宅香帆さんの書評も素晴らしかった。

どの本も、多様な女ふたりの関係性から生まれたものであり、2021年後半にもどんどん出版されてほしいし、どんどん読んでいきたい。

〇ゴジラ

「ゴジラSP(シンギュラリティポイント)」にハマったのと、6月から仕事が忙しかったのもあって、逃避するようにゴジラ映画を見つづけた。国会議事堂を破壊する。かっこいい。などと思っていたら、止まらなくなり、気がつけばゴジラ映画全作を観ていた。

個人的なおススメは、「ゴジラ」(1954)「空の大怪獣ラドン」「サンダ対ガイラ」だ。後半ふたつにはゴジラが出てこないので、果たして私は本当にゴジラが好きなのかわからない。現在ネットフリックスで全33作品を見ることができる。(※エメリッヒ版ゴジラだけないので、アマゾンプライムビデオで観た)

ゴジラをテーマにした人形劇「ゴジばん」もとても面白い。平成初期生まれの私達は、人形劇「ハッチポッチステーション」内でのグッチ雄三のパロディで洋楽に親しんだ人も多いのではないか。”I wanna hold your hand”を、「アホなこというね~」と歌うあれである。「ゴジばん」にも同じものを感じた。

人形劇として楽しめながらも、ゴジラ映画のさまざまな要素を現代に合わせてアップデートしながら組み込んでいる。怪獣のキャラも魅力的で、「ゴジばん」を観て、私はそれまで何とも思っていなかったガイガンが大好きになった。その他、ゴジラ映画で何度も出てこないようなキャラクターにも、愛のある光の当て方をしている。ゴジばん最高!


〇お酒

最近感じているのは、「みんな、うすうすお酒を辞めたいと思っているのではないか」ということだ。辞めるとまではいかなくても、減らしたいと考えている。そして飲み会が激減した(大げさだけれども、断ることが容易になった)といってもいい現在、その大チャンスなのではないかと。

そんな、うすうすとした欲望に応えた記事がデイリーポータルZで配信されていた。ノンアルコール、低アルコール飲料の紹介している。

下記で紹介されていたビアリーと「スタイルバランス 香り華やぐハイボールテイスト」を箱買いした。

ビアリーには白も出ていて、白の方が美味しいらしい。実際美味しかった。

さて、私は大酒のみだが、正直に言うと、うすうす辞めたい、減らしたいと思っている。そして、ノンアルコール飲料をたしなむようになってから、飛躍的に早起きできるようになり、本をぐんぐん読めるようになった。お酒は身体に悪いという、うすうす気がついていた事実を認めなければいけないようだ。

というわけで、オンライン飲み会などでもノンアルコール飲料を嗜むようになっている。しかしお酒を飲まないと、椅子に長時間座って人の話を聞けないことに気がついた。私は椅子に座っているためにお酒を飲んでいるらしい。あとお酒を飲んでいないと、なかなか雑談できないことにも気がついてしまった。コロナ禍は図らずも自分とお酒との距離を見直す良い機会になりそうだ。

(※1)個人的に面白かったのは、「週刊少年ジャンプ」の後ろのページに掲載してある筋トレ器具を若気の至りで買った方が、カメラの前にその器具を持って来たことである。筋トレ器具は小学生男子が考えた「さいきょうの筋トレマシーン」の形をしていて、私はその朗らかなアホらしさにお腹がよじれるほど笑った。

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