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もんくたれ地面

15年前に専門学校で描いた絵本の1ページ。実家に帰省しているので、タイムカプセル掘り起こしました。

もんくたれ地面
さく・え やまもと まさこ

どこにでもある、とある村に、自分のことにしか興味がない地面がおりました。地面は言います。
「わたしの自慢は、あおあおとした豊かな髪の毛なの。わたしは、雨がすき。お肌がなめらかになって、うるおうから。ブンブンうるさいハチやわたしの上をぞろぞろとはいずり回るアリなんて、大嫌い。でも、わたしの髪を美しくゆらす風はすき。」と毎日、自分の話ばかりです。

そこに、ちょうちょがひらひらとやってきました。どうやら、ヒナゲシのみつがお目当てのようです。
「ひらひらとうっとうしいやつ。あんたの羽よりわたしの髪の方がキレイよ。」
地面はにべもなく言いました。
地面の態度に慣れっこなちょうちょは、聞こえないフリをして、ふわふわと去っていきました。

そんなある日のこと、地面に何か起こったようです。
「のしのし、2本足で歩く生き物があらわれたの。わたしのお肌をひどくへこませていったわ。」

数日が経ち、また何か来たようです。
「今度は、ヴォー、ブルン、ブルンって、音を出して、くさい息をはく生き物よ。わたしのお肌にひどいヘコミを残していったわ。二度と、来ないでほしい。」
どうやら、おかしなことが起こりはじめているようです。

「なんてこと。わたしの大事な髪が全てもがれてしまったのよ。おまけに、どろどろしたものをお肌につけてきて、くさいのよ。」

それから、何時間経っても、何日経っても、どろどろがなくなることは、ありませんでした。

地面もすっかり、まいっているようです。
「あぁ、雨のうるおいがほしい。風のここちよさを感じたい。」

そんな地面に、声が聞こえてきました。
「おぉーい、おーい。」

「誰よ」
突然の呼びかけに、少し驚きながら、地面は言いました。
「はじめまして、ミミズです。最近、元気がないようなので、どうかしたのですか。」
ミミズは心配そうに言いました。
「あんた誰なの。うるさいわね、あっち行ってよ。」
つめたく言われたミミズは、しょんぼりしながら、にょろにょろ去って行きました。

「おいおい、そんな言い方をしていたら、誰も相手をしてくれなくなるぞ」
そこに、もぐらがおいこらしょとやって来て、言いました。
「わたしに、説教するつもりなの。」
地面は、カッとなって言いました。しかし、もぐらは地面に優しく諭しました。
「さみしいなら、素直になってみたらどうじゃ。」
「さみしくなんかないわよ。あんたも、あっち行って。」

それでも、地面はかたくなでした。
「やれやれ。」
もぐらは、また、おいこらしょと去っていきました。

「何よ、わたしが悪いって言うの。」
地面は、つよい口調で言いましたが、ミミズとモグラが去って行った穴を見て、胸が少しツキンとしました。

それから、次の日もまた次の日も、地面はひとりでした。あたりは、暗いままです。
「もう嫌よ。つまらないわ。」
地面は力なくつぶやくと、しくしく泣き出してしまいました。

しばらく、泣いていると、こっそり様子を見ていたモグラがもそもそとやって来ました。
「最近、話し相手がおらんくてな。わしが、温泉を掘り当てた話を聞いてくれんかの。」
目をしょぼしょぼさせながら、もぐらは言いました。
「ぼくも聞きたいです。」
ミミズがするっとやって来て、言いました。地面はミミズをじっと見つめました。

「どんな話よ。」

地面はちらっとミミズを見てから、言いました。
「ほぉ、ほぉ。わしが、まだ土を掘るのを、おっくうだと思っていなかった頃の話じゃ。」
「じゃぁ、ずいぶん昔の話ね。」
地面は、わざとそっけなく言いました。
「少し前の話じゃが。」
もぐらは、えへんと咳払いをして話しはじめました。
ミミズは、くすくす笑いました。

相変わらず、あたりは真っ暗です。
しかし、もぐらの武勇伝を聞いていると、地面はあたたかいものがこみあげてくるのを感じました。
「もっと、聞かせて。」
もぐらとミミズは優しく、ほほ笑みました。

今は、もぐらが奥さんにプロポーズした話になっています。
もぐらの話を熱心に聞いている、ミミズを見ながら、地面はなぜか、ちょうのヒラヒラを思い浮かべていました。胸がまたツキンとしました。

おしまい

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