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 「石掘り小僧の伝説     その二 UFOの巻」

 石掘り小僧が、洞窟の中で氷漬けになった恐竜象を見つけ、その肉を食べてすごい力持ちになってから三日経った。身体中から生えていた真っ黒な毛が抜けて少し力も減ったが、それでも大人五人分の力は十分にあった。石掘り小僧は力持ちになってからは、今までより大きな石を探すことに夢中になった。時々は恐竜象の洞窟に行き、ほんの一口分だけ肉をもらってきて食べた。一口だけだと髪の毛がピーンと伸びるだけで、身体中が毛むくじゃらになることはなかった。

 ある日のこと、山のてっぺん辺りを掘っていると、とっても固いツルツルした石に当たった。

「おやっ?これはでけぇかもしんねぇ」

 石掘り小僧は夢中になって、石を傷つけないように丁寧に掘っていった。でもその石は、一日では掘り終わらなかった。お皿を裏返しにしたような、丸い形だということはわかった。石掘り小僧は、翌朝早くから夕方まで三日の間掘り続けて、ようやく真ん丸い円盤みたいな石を掘りあげた。それはツルツルでピカピカでとっても固かった。さすがの石掘り小僧もかなり疲れて、夕ご飯を食べ終わるとちょっと横になって眠ってしまった。お祖父さんが、外から声をかけた。

「おーい、石掘り小僧やぁ、今日は満月じゃぁ。きれいなお月様が出てるぞぉ」

 石掘り小僧は、眠い目をこすりながら外に出た。大きなまん丸いお月様が、山のてっぺんの真上に輝いていた。しばらく見ていると、山のてっぺんから白い光が月の方に登っていくのが見えた。お祖父さんがつぶやいた。

「はて?煙かな?煙にしては早いし真っ直ぐすぎるのぉ」

 石掘り小僧は、はっと気付いた。

「石だ。あの円盤石から光が出てるんだ。じっちゃん、おらぁ見てくる」

と言うなり、すごい早さで駆け出し、あっという間に山のてっぺんの円盤石にたどり着いた。円盤石は、いろんな所がチカチカ光っていた。そしてブルブル震えだした。石掘り小僧がじっと見ていると、やがて円盤石はふんわりと山の上に浮かび上がった。円盤石はUFOだった。そして、石掘り小僧の方に光の階段が下りてきた。

「イシホリコゾウヨ、コンバンワ。ワタシタチハ、ツキノウサギデス。コノヤマニ、ウモレテイタトコロヲ、タスケテクレテ、アリガトウ。オレイニ、ツキヘゴショウタイシマショウ」

 石掘り小僧はびっくりしながら、光の階段を昇ってUFOに乗った。UFOはあっという間に月に到着し、月の洞窟の中に入って行った。

「イシホリコゾウヨ、キョウハオツカレデショウ。ユックリオヤスミクダサイ」

 石掘り小僧は、光の布団にくるまって眠った。水の中に浮かんでいるより、もっと楽ちんだった。石掘り小僧はその夜、変な夢を見た。夢の中で石掘り小僧は月のウサギだった。月から見える地球は、赤や黄色や青や緑、いろんな色に輝いていた。それがだんだん黒くなっていったので、UFOにウサギ餅を積み込んで、少しだけ残っている緑の所に住んでいる人々に届けた。その人々は、ウサギたちにお礼を言ってお餅を食べると、地面をどんどん掘りはじめ、深い深い洞窟を作って、その中で暮らし始めたのだった。やがて、宇宙のかなたから大きな火の玉が飛んできて、地球にぶつかり黒い雲を吹き飛ばした。その後しばらくすると、地球は青い色になった。そこで夢は終わった。石掘り小僧が目を覚ますと、ペッタンペッタン、餅をつく音が聞こえてきた。やがてウサギたちがやってきて

「ユメハ、ホントウデス」

「サァ、アサゴハンニ、ツキノウサギモチヲ、タベテクダサイ」

 石掘り小僧がウサギ餅をご馳走になると、ちょっぴり耳が長くなり、身体中に力があふれてきた。

「ドウデス、チカラガワイテキタデショウ」

「イシホリコゾウヨ、オネガイガアリマス。チノソコニ、ハイッテイッタヒトビトハ、イマモイキテイマス。デモ、チジョウニデルミチガ、フサガッテイテ、デテコレナイノデス」

「ココニ、フルイチズガアリマス。デモ、ワタシタチニハ、モウドコカ、ワカリマセン。イシホリコゾウヨ、フサガッタミチヲ、アケテクダサイ」

 ウサギたちは、石掘り小僧に古い地図とウサギ餅を渡し、地球に送ってくれた。地上に降りると満月がきれいに輝いていた。お祖父さんが歩いてきて

「石掘り小僧や、いきなり駆け出すからびっくりしたぞ。やっと追いついたわい。何かわかったかいのぅ」

「じっちゃん、おら、月に行ってウサギ餅食ってきたんだよ」

 お祖父さんは首をかしげ

「はっはっは、お月様の夢でも見たんかのぅ」

 時間は経っていなかった。石掘り小僧も不思議な気持ちになったが、古い地図とウサギ餅は確かに手の中にあった。


 翌朝から石掘り小僧は、地図を頼りに山の中を探し回ったが、何も見つけられなかった。何日も何日も探したけど、全然見つからなかったので、石掘り小僧は疲れてしまった。そして、恐竜象の肉をもらいに行った。氷をガシガシ割っていると、足元に何か落ちた。それを拾って見て、石掘り小僧はびっくりした。

「これは、月のウサギ餅だ。大昔の餅だ」

 急いで帰って、恐竜象の肉とウサギ餅を焼いて、いっしょに食べた。それからお昼寝をした。石掘り小僧は、どんどん力がわいてくるのを感じて目を覚ました。

「よーし、この山全部掘ってやるぞー」

 石掘り小僧は、掘っては土を運び、掘っては土を運び、何日も何日も大きな石だけを残して山を掘っていった。満月の夜になると、月のウサギ餅が届いた。石掘り小僧は、それを食べてどんどん力がついていった。やがて石掘り小僧は、とうとう山一つ掘り上げてしまった。そこに現れたのは、大昔の石でできたお城というか、村というか、おじいさんが見に来て目をまん丸くして言った。

「これは大昔の古代都市じゃ、すごい、世界的発見じゃ」

 でも、石掘り小僧にはよくわからなかった。地の底に住む人々に会うために、塞がった道を掘り出すことで頭がいっぱいだった。石掘り小僧はその晩眠りながら考えた。

「人間が生きるには水がいるなぁ。地の底に住む人々はどこから水を引いているんだろう、、、。そうか、あの洞窟かぁ。ずっとずっと昔から恐竜象の水が流れてるんだ」

 そう思った途端に、石掘り小僧はすとーんと眠りに落ちた。翌朝から石掘り小僧は、洞窟の水の流れを調べた。雨が降った時に流れていた水、恐竜象の氷から出ている水、それが溜まった池の水、でもその水は全部、最初に見つけた滝につながっていた。

「ここには地の底につながってる道はないのかなぁ」

 疲れてしまった石掘り小僧は、恐竜象の池の前に座ってぼんやりしていた。すると、コポッ、コポコポッと、池の底から大きな泡が出てきた。今までは気が付かなかったが、その泡はずっと出ているようだった。

「うーん、池の底の、そのまた底に、何かあるのかなぁ」

池の周りは岩だらけだったので、石掘り小僧は今までのようにスコップで掘るのは無理だと思った。

「じっちゃんに相談しよう」


 石掘り小僧が話をすると、おじいさんは、岩を砕くにはツルハシとノミと金槌が要ると教えてくれた。そして、おじいさんは言った。

「いっしょに里の鍛冶屋に行って作ってもらおう。お前はおとな顔負けの力持ちじゃし、お前の力に合った道具を作ってもらうのが一番良いのじゃ」

 こうして石掘り小僧は、おじいさんといっしょに久しぶりに里に下りて行った。里では会う人会人が

「あれが石掘り小僧じゃ。大きくなったのぉ」

と、噂話が聞こえてきた。石掘り小僧は、なんで皆が自分のことを知っているのか不思議な気持ちになった。やがて鍛冶屋に着くと

「おやっ、これはこれは、石掘り小僧よ、お待ちしていました。何が必要ですかな。わしが丹精込めて作ってさしあげますぞ」

 それから鍛冶屋は何日もかけて、石掘り小僧の力に合ったツルハシ、尖ったノミ、平たいノミ、大きな金槌、そして太くて長い鉄の槍を作った。その間、石掘り小僧は、お寺の和尚さんの所に通って字を覚えた。そして本が読めるようになった。毎晩、近所の人々が来て、いままでやってなかった誕生日のお祝いをまとめてやってくれた。こうして石掘り小僧は、山の中の暮らしとは全然違う毎日を過ごした。やがて道具が出来上がった時、石掘り小僧は鍛冶屋にお礼を言って、新品の道具をかずいて山に帰って行った。そして翌朝早くから、恐竜象の池の周りで掘りやすそうな所、掘り出した石の置きやすい所を探した。

「よーし、ここが一番良さそうだ」

 石掘り小僧は、何日も何日も大きな岩を砕き、それを運んで池の隣りに大きな穴を掘った。そして池の深さを調べて、それより深い所に横穴を掘っていった。やがて、池の真下辺りに来ると、ぽっかりと池の底の洞窟に出た。そこには池の水がぽたんぽたんと上の方から落ちていて、奥の方にちょろちょろ流れていた。その洞窟は深そうだったので、石掘り小僧は十分な準備を整えるために帰って行った。

 石掘り小僧は、食べ物や毛布、ローソクなどを準備して洞窟の奥に入って行った。カンテラで壁や天井を照らすと、それは人が掘った跡に見えた。だんだん昼か夜かわからなくなってきた頃、洞窟の広場に出た。そしてそこには恐竜象の氷がいっぱいあって、半分くらい食べられたものもあった。石掘り小僧は、思い切って大きな声で呼びかけてみた。

「おーい、地の底の人たちよーい、いるなら出てきてくれよーい」

 すると真っ黒な人たちがぞろぞろと出てきた。

「石掘り小僧、こにちは。月ウサギから連絡ありした。待てまてした。どぞ、こちへ」

 真っ黒に見えたのは、みんな恐竜象の毛が生えていたからだった。薄暗い広場に出ると、小さな川が流れていた。

「石掘り小僧よ、ここ薄暗いか、がまんしてくださ。わたしら、ずと地の底住んでて、強い光苦手なた。せかく地上出る道開けてくたのに、わたしら、もう地上に出れね。でもわたしら、おもろものいっぺ、みつけた。案内するよ。石掘り小僧よ、ゆっくりしててくださ」

 石掘り小僧は、地の底の湖の魚や、見たこともないキノコや野菜をご馳走になって、その晩はゆっくり眠った。翌朝から、石掘り小僧は地の底の人々に案内されて、大昔の人が描いた洞窟の壁画や、もっともっと大昔の化石を見せてもらった。化石の中には、馬くらいの大きさのツノの生えた恐竜もあった。それから石掘り小僧は、地の底の歴史の話も聞いた。以前夢で見た、地球がだんだん黒くなっていったのは、その頃の人々が、地面や海の底を欲張って深く深く掘ったせいで、空気が汚れていったのだった。そして、地の底に非難した人々の中には、やがて地上に帰って行った人々もいたそうだ。石掘り小僧は、そんな話を聞いて、自分も何でもかんでも掘ればいい訳じゃないって思った。

 夢のような毎日が過ぎ、ある晩、満月が地の底の広場を照らした。月のウサギのUFOがやってきて

「イシホリコゾウヨ、ソロソロカエリマショウ。オジイサンガ、マッテイマスヨ」

 石掘り小僧は、UFOに乗せてもらって帰って行った。


   つづく



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