令和3年最低賃金額の引き上げについて

1.はじめに
令和3年10月より2年ぶりに最低賃金額が引き上げられる。
昨年は新型コロナウイルス感染症拡大による経済的影響から見送られました。
本年は昨年より厳しい経済状況であるにも関わらず最低賃金額が引き上げられた。
東京においては1013円から1041円に28円も引き上げられました。
コロナ禍で苦労されている交通、観光、飲食の方々には追い打ちをかけるような改定であり、経済対策はとの整合性はどのように考えているのか不思議でなりません。

2.最低賃金額とは昨日まで中学生だった労働者への賃金
 よく、最低賃金額を引き上げてあげなければ可哀そうという声を伺います。  
 これは最低賃金額の位置づけを正確に理解していない故での考えだと思います。
 最低賃金額は、文字どおり最低賃金です。
これ以下の賃金額では働かせる事はできません。
 昨日まで中学生で社会人としてのマナーから教えなければならない高校生に支払う賃金額です。
 最低賃金額のイメージというと「真面目に3年ぐらい働いてきた社会人たちの賃金額」というものがあり、高くしてあげなければ可哀そうという発想になったのでしょう。
 しかし昨日まで中学生であった高校生の賃金額なのです。

3.最低賃金額が上昇することの影響
 最低賃金額が上がると、採用時の賃金額が上がります。
階段に例えると一段目が高くなるイメージです。
 総人件費は変わりませんので、初任給が上がれば昇給ピッチを抑えなければなりません。
 総人件費は変わらないということは、階段の一番上の高さが変わらないということです。
 ですから一段目が高くなってしまった以上、二段目からは以前より低くしなければ、同じ階段の段数で同じ高さまでいけません。
 これが意味することは「能力で賃金差をつけにくくなった」ということです。
 小売業などでは高校生のアルバイトの時給とベテランのパートの時給が150円ぐらいしか変わらないということになっています。
 最低賃金額の上昇を価格転嫁できない以上、この様なことになってしまうのです。

4.高校生の小遣いが増えて親の小遣いが減る社会
 最低賃金額が上昇すると当然高校生の所得が上昇します。
使えるお金が多くなるので、小遣いが増えます。 
 一方で企業はそれを価格転嫁できませんので、総人件費の予算内で賃金を支払う為には「賞与の引き下げ」「昇給ピッチの引き下げ」をしなければなりません。
 これらの施策は高校生の両親の所得を減少させることになります。
父親は小遣制度の家庭が多い為に、父親の小遣いが減ってしまうということになるのです。
 母親も自分に使えるお金が減ってしまい、美容院の回数などが減り、美容院の売り上げに影響しているというデータもあります。

5.その他の影響
 最低賃金額の引き上げと合わせて、それを価格転嫁できる仕組みにしなければならないのですが、それが行われていないので企業としては総人件費を変えることができず、能力差による賃金差がつけにくくなる賃金となってしまいます。
 また固定的な賃金が上昇をしているので歩合給の率を引き下げる必要があったりと大幅な賃金制度の改定を行う必要が出てきました。
 初任給が大きく上がりましたので、賃金表の見直しも必要になってきます。

6.最低賃金額の計算
 東京都の最低賃金額は1041円です。
月給の最低賃金額の計算はどのようにすべきなのでしょうか。
 最低賃金額に年平均の月間所定労働時間を乗じて求めることになっています。
 例えば一日の所定労働時間が8時間で、年間労働日数が254日の企業の場合は以下のように計算します。

8時間×254日=2032時間(年間所定労働時間)

この年間所定労働時間を12で割れば年平均の月間所定労働時間となります。
2032時間÷12=169.33となります。
この数字に最低賃金額である1041円を乗ずれば月額の最低賃金額になります。
1041円×169=175,929円
これが254日の労働日数で、一日8時間の所定労働時間の企業の最低賃金額です。
労働日数と一日の所定労働時間を自社の数字に合わせて計算してみてください。

7.まとめ
 コロナ禍においても大幅な最低賃金額の引き上げが行われました。
しかし強行法規である以上対策をしなければなりません。
 厳しい社会ですが、乗り越えてコロナ後の経済を発展させていきましょう。

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