動画の類別からみる富士葵 ~Aoi ch.に謎を呼ぶ謎動画の謎とナゾニウム
はじめに
富士葵は、YouTubeへの動画投稿や配信を行っているほか、歌手としてレコード会社に所属するバーチャルタレントであり、「キミの心の応援団長」をコンセプトとして活動している。
彼女は、2017年12月に活動を開始しており、その期間は本稿執筆時点で2年を超えている。
本稿では、富士葵がYouTubeにいて開設している自身のチャンネル「 Aoi ch. 」にアップロードされている動画群について、特にファンの間で「謎動画」といわれている者に注目し、全体の分類を試みたい。
・ Aoi ch.
1 謎動画とは
本稿で扱う「謎動画」とは、上記 Aoi ch. にアップロードされている動画のうち、内容の不可解さから視聴者を困惑の深淵に叩き落とすようなものを指す言葉であり、主に富士葵のファンたち(総称して「葵歌劇団」という。)の間で使われている。
謎動画の存在については、長らく歌劇団の間で話題となっており、
「歌動画で獲得した新規ファンを選別するために、わざと意味不明な動画を挙げているのではないか」
「本当の意味を理解すると廃人になるので、深く詮索しない方が良い」
などといわれている。知らんけど。
しかしながら、何をもって「謎動画」とするのかということについては、各視聴者の認識に拠るところが大きく、これまで具体的な検討はされてこなかった。
このような状況で、富士葵本人の口から、謎動画の定義について考えるうえで重大なヒントがもたらされた。
それは、2019年12月27日に配信された生放送「【富士葵】活動2周年&今年もありがとう生放送【今年最後】」の中での発言であった。
富士葵曰く、
「キーマス」と「海賊王」と「富士葵詰め合わせ」は謎動画。「銀盾の動画」は通常動画。
あと12/29にアップする動画も謎動画。
葵歌劇団でない読者の方は、まったくもって何を言っているのか分からないこと請け合いだ。下記に該当動画を示すので、ご覧いただければと思う。
なお、謎動画を連続して全部視聴することはお勧めしない。頭がおかしくなるので。
・(謎動画①)キーマス
・(謎動画②)海賊王
・(謎動画③)富士葵詰め合わせ
・(謎動画④)12/29アップロード動画(キクエモン)
・(通常動画)銀盾
富士葵から謎動画と通常動画の分類に関する発言がなされたことにより、歌劇団の間では動揺が走った。多くの歌劇団が、「銀盾」の動画は謎動画だと考えていたからである。
ともあれ、富士葵本人から明示があったことは僥倖である。少なくとも、上記の動画4本については、公式に謎動画であることが確定したのだ。
Aoi ch. における動画群の分類については次項から行うこととして、ここでは、まず問題の謎動画について、分類上の定義付けをしていきたい。
4本の謎動画について検討すると、特徴として下記の2点を挙げることができるだろう。
① 動画の主旨や前提が、タイトルからして読み取れない。
② ①をクリアしていても、そのうえで動画の中で何をやっているのか分からない。
どこまでも視聴者の主観ということにしかならないのだが、筆者の感覚でいえば、「キーマス」と「海賊王」、「キクエモン」は①、「詰め合わせ」は②に該当すると考えられる。個人の捉え方によっては、①と②の複合として「タイトルから内容から何から何まで全部意味が分からない」というパターンもある。というか、タイトルの時点で意味が分からない①のパターンは、おそらく動画内容の意味も分からないので、複合パターンになることが多いだろう。
富士葵によって通常動画とされた「銀盾」動画は、タイトルから「富士葵が何かに気付いたという前提で、それを主題にした動画なんだな」ということが分かるし、その内容も主旨に沿っているから、あくまで通常動画ということになる。ただ、「謎要素」が強いだけなのだ。通常動画における謎要素については、後段で触れたい。
なお、葵歌劇団にとって当たり前のことなのであえて言及しなかったが、Aoi ch. における全ての動画から、富士葵の可愛さ、美しさ、面白さ、尊さなどを感じられる。どれもお勧めできる動画であることを申し添える。
2 動画の分類
ここからは、 Aoi ch. におけるすべての動画(2019.12.29時点で合計385本)を対象として、その分類について検討、考察を行っていきたい。
(1) 謎動画
先に述べた謎動画の特徴2点に鑑みて検討すると、 Aoi ch. における謎動画は、以下の12本に絞られる。タイトル後の日付は、動画の投稿日である。
・ 【富士葵】これが本来の葵の姿だ!!!(2018.5.7)
・ 【怒ってる?】第9話 富士葵vs富士葵!? の巻【ツンデレ葵】(2018.7.3)
・ 歌うと誇張しすぎてしまう呪いにかかりました。【富士葵】(2018.9.1)
・ 【富士葵】アホ発言も編集次第でシリアスになるのか実証してみた(2018.9.26)
・ 富士葵がぶっとんだ思考の持ち主だと分かる動画【葵の総監修動画】(2018.10.30)
・ 【MAD】ふじあおい富士葵FujiAoi【公式】(2018.11.13)
・ (富士葵が好きな人向け)富士葵詰め合わせ【没ネタあり】(2018.11.27)
・ 【無感情】富士葵が感情を失ったのでいたずらします。(2019.3.26)
・ 機関車キーマス 第459話「死して屍拾う者無し」【富士葵】(2019.7.29)
・ [[[富士葵のダンス ]]][[[FujiAoi's Dance]]](2019.7.31)
・ 【海賊王に】ワンピース集めすぎ問題【なりすぎた】富士葵(2019.10.12)
・ 【富士葵】「映画キクエモン 葵と 緋色の鶴と時代の狭間」第285話(2019.12.29)
12本のうち、2019年7月31日に投稿された「富士葵のダンス」については、10月5日に開催された富士葵の1stソロライブに合わせて販売されたオフィシャルTシャツに関する告知という側面も含まれているため、筆者としても悩んだところだ。
しかし、これは事前にある程度練習したであろう意味不明ダンスを富士葵が終始真顔で踊り続けるだけでなく、後半で唐突に意味不明ダンスのグリーンバックバージョンが流れ出すという構成により、視聴者にぼんやりとした虚無感すら与える動画である。
サムネイルも狂気を漂わせているため、筆者の独断で謎動画にカウントすることとした。賛否はあると思うが、ご容赦頂きたい。
・ 意味不明ダンス
(2) 謎じゃない動画
ここからは、前項で挙げた謎動画を除く373本の分類について考えていきたい。
筆者が全ての動画を視聴のうえ検討したところ、通常企画動画、歌動画、生放送アーカイブ、告知動画、その他、と概ね分類できるようだ。
謎動画を含め、各分類の本数と全体に占める割合は下記のようになる。
① 通常企画 164本(42.6%)
② 歌 112本(29.1%)
③ 生放送 55本(14.3%)
④ 告知 29本(7.5%)
⑤ 謎動画 12本(3.1%)
⑥ その他 13本(3.4%)
①通常企画動画については、一部シリーズ化したゲーム実況(54本)や単発企画(テーブルゲーム等36本)、富士葵が魔界から召喚した友達キクノジョーと2人で企画や雑談等を行う動画(13本)のほか、「利きシリーズ」(5本)や「世界不思議ハンター」(5本)などを含んでいる。
また、2017、2018年の年末に投稿された計2本の「ひとり紅白歌合戦」動画についても、そういった舞台設定の中で歌っているということを踏まえ、歌動画ではなく企画動画としてカウントした。
④告知動画は、活動1年目で取り組んで成功を収めたクラウドファンディングに関するものや、各種企業コラボ、2018年に発生した西日本豪雨への支援募金についてなど、視聴者への呼びかけや情報提供に主眼が置かれたものである。
⑥その他動画については、新衣装のお披露目動画や、活動初期に投稿されていた月別の総集編動画、そして富士葵本人が自らの気持ちを視聴者へ伝えるような動画(ソロライブ直後のメッセージ動画等)が含まれている。
・(ゲーム実況)【富士葵】ガチビビりバイオ7 #1
・(単発)トマトマトゲームっていうヤバいゲーム知ってる?【富士葵/ゲラ葵】
・(キクノジョーと2人)ヘリウムガス吸ったら面白すぎた!!!
3 謎の意思
前項で述べたように、富士葵のチャンネルである Aoi ch. に投稿されている動画のうち、最も多いのは通常企画動画であったが、これをもう一段回細分化したうえで他の分類項と比べてみると、当該チャンネルで最も多いのは歌動画である。
活動初期から歌動画を発表し続け、今やプロの歌手として活躍する富士葵の面目躍如といったところだ。
また、企画動画のうち、最多の動画本数を誇るのが「ゲーム実況系」の動画である。
このうち、バイオハザードの実況動画は長くシリーズ化されていた。ホラーが苦手という富士葵がビビりまくりながらも手探りでゲームを攻略していく様子には、彼女独特の感性や語彙も相まって、「バイオなのに全く怖くない。安心感すらある。」という声が聞かれる。
しかし、Aoi ch. におけるゲーム実況の真骨頂は、「どこから見つけてきたんだよそんなゲーム」と言いたくなる「奇ゲー」実況である。
富士葵は、大作も奇ゲーも、同じく楽しそうにプレイするので、見ていて本当に楽しい。めちゃくちゃ満足度の高い後方腕組み伯父(伯母)・祖父(祖母)面が可能だ。
・ ついに奇ゲーハンターを自称し始めた富士葵
※「ハゲ頭の上でスノボーするゲームがぶっとびすぎww【富士葵】」(2019.4.5投稿動画)より
・【大事故】世界最悪のジェットコースターにあの人乗せてみた!!
動画製作においては、その内容や編集方針などについて基本的に製作チームと富士葵が話し合って決めているらしい。
つまり、意味不明な奇ゲーをやろう、やらせようという謎の意思は、Aoi ch. 全体に共有されているといえる。
さて、Aoi ch. における「謎動画」は、ファンの間で広く認知されており、その存在感はともすればチャンネルを特徴づけるほどに大きいと考えられてきた。
一方で、これまでの検討により、実際の謎動画は385本中12本、割合にして3.1%に留まることが分かった。この乖離の正体は一体何なのだろうか。
筆者が考えるに、これは「謎じゃない動画」の中に散りばめられた謎要素(以降、便宜上「ナゾニウム」と呼ぶ。)が影響しているに違いない。
「今日はゲームをしまぁーす」といって訳の分からない奇ゲーをぶっ込んできたり(富士葵は本当に楽しそう)、ドッキリと称してやけに手の込んだシュールネタを見せつけられたり(富士葵は本当に楽しそう&たまに本当に騙される)と、通常の企画動画の中に、巧妙にナゾニウムが仕込まれているのだ。
・【ドッキリ】VTuberチップスに存在しないカードが仕込まれてたら気付く?【富士葵】
・【ドッキリ】もしも糞アニメの声優の仕事が来たら受ける?受けない?【富士葵】
富士葵の動画を日常的に見ている歌劇団諸君は、隙あらば通常企画動画にナゾニウムを仕込もうというAoi ch. 全体に漂う謎の意思によって、知らず知らずのうちにナゾニウムの味を身体に覚え込まされてしまっている。
「Aoi ch. には謎動画がたくさん、たくさんあるんだ…Aoi ch. の半分は謎動画でできているんだ…」という歌劇団諸君に多く見られる認識は、ナゾニウムに支配された脳が見せている幻覚に過ぎない。目を覚ませ。
おわりに ― Aoi ch.と富士葵
ここまで、Aoi ch. に投稿されている動画の分類を通して、謎動画及びナゾニウムについて考えてきた。
「本棚には人格が表れる」という格言があるそうだが、これに沿って言えば「YouTubeチャンネルには人格が表れる」ということにもなるだろうか。
ここで改めて思い出してほしいのは、富士葵はプロの歌手であり、自身のチャンネルに112本の歌動画をアップロードするなど、歌手としての活動に精力的に取り組んでいるということだ。
にもかかわらず、富士葵及びAoi ch. は私たちにナゾニウムを供給し続けている。
これは、富士葵という人間の多様な側面を表していると考えることができる。
富士葵は、歌に託されたメッセージを豊かに表現できる歌手であると同時に、お笑いが好きで、その研究に余念がなく、人を応援することに一生懸命な17歳の女子高生なのだ。
Aoi ch. は、まさに富士葵の等身大の姿だ。
ここまで読んでくれた読者の中に、富士葵のことをまだよく知らないという方がいれば、是非動画を見て頂きたい。ナゾニウムに満ちた世界が、そこにある。
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本稿でその存在を仮定した ナゾニウム については、まだ研究の余地があると言わざるを得ない。
何故、Aoi ch. は何かに憑りつかれたかのようにナゾニウムを私たちに提供し続けているのか、歌劇団のようにナゾニウムに脳を支配された人間はどうなってしまうのかなど、解き明かすべき課題は多い。
今後の研究については、賢明な読者諸君の成果に期待したい。だが、研究するうえで何が起こっても、筆者は責任を取れないので悪しからず。
おまえが長くナゾニウムの淵を覗くならば、ナゾニウムもまた等しくおまえを見返すのだ。
(以上)