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バーチャルYouTuber 富士葵の正体~妖怪との比較より

はじめに

 本稿は、バーチャルYouTuberである富士葵を対象として、その正体について考察を行うものである。「バーチャル」という言葉が付されているとおり、富士葵は仮想の存在であることから、同じく仮想の存在であり、かつ多くの資料が蓄積されている日本における妖怪との比較を考察の方法として用いることとしたい。なお、「バーチャルYouTuber」及び「富士葵」については、次項で触れる。

1 富士葵とは

(1) バーチャルYouTuberについて
 「バーチャルYouTuber」は比較的新しい用語であり、既存の辞書類にその定義を求めることはできない。『ウィキペディア』によると、次のように説明されている(2019.12.16現在)。

YouTuberとして動画配信・投稿を行うコンピュータグラフィックスの日本発祥のキャラクター(アバター)、またキャラクター(アバター)を用いて動画投稿・配信を行う人。

 しかし、当該用語については、キャラクターを用いて動画配信等を行っている者達の活動内容によって多様な解釈が可能であり、上記の説明文は、あくまで狭義的な表現であると捉えることが妥当といえよう。現時点で、全てを包括する定義づけは困難であると考えられる。
 本稿の読者として想定される方々は、おそらくそれぞれに特定のバーチャル配信者を応援していると思われるので、これ以上の説明は不要であろう。
 読者の方も、一度「バーチャルYouTuber」の定義について考えてみてほしい。5秒ほどで、どうでもよくなるはずだ。心で理解できれば言葉は要らないのである。

(2) 富士葵について
 富士葵は、前述のとおり仮想の存在である。株式会社Smarpriseに所属、『キミの心の応援団長』を標榜しながら、動画共有サービスYouTubeにおいて、メインチャンネルである「Aoi ch.」で動画配信を行っている。
 他方で、歌手としてユニバーサルミュージックジャパンに所属するほか、数々の企業タイアップやテレビ、ラジオへの出演など、活躍の舞台は多岐にわたる。
 各種媒体では「バーチャルYouTuber」と紹介されることの多い富士葵だが、幅広い活動範囲を踏まえ、自らは「バーチャルタレント」を称している。
 『キミの心の応援団長』としての「かっこいい」富士葵については、すでに発表されているnote記事があるため、そちらをご覧いただきたい。

・Aoi ch.

・ユニバーサルミュージックジャパン 富士葵

・バーチャルYouTuber 富士葵の『偽善』

2 妖怪とは

 妖怪という存在は、今や多くの小説や漫画、テレビゲームなどの題材として取り上げられることが多く、世間的に広く認知されたものということができる。
 現実世界にはいない架空の存在であり、時には不思議な能力を持ち得るものとして、創作作品等で取り扱うには非常に好都合な概念といえるだろう。
 キャラクター化された妖怪が溢れている現在、「妖怪」とはそもそも何なのか、読者の皆さんは考えてみたことがあるだろうか。日本には、妖怪について大真面目に学問的考察を加えている研究分野が存在する。それは日本民俗学である。

 少し脱線してしまうが、ここで日本民俗学の概要と、その研究対象としての妖怪について説明しておきたい。
 日本民俗学は、世代を超えて伝えられてきた習慣や知識、観念を調査・分析し、生活文化の歴史的展開を明らかにしようとする学問である。
 端的にいうと、「一般庶民の生活文化にスポットをあてた歴史学」のようなものと考えてもらえればいい。学校の授業で学ぶ「日本史」は、大部分が支配階級や権力者の変遷に焦点があてられており、人口比では大多数を占めていたであろう一般庶民、特に農民は時々餓死しているか一揆をしているだけのような印象だ。
 しかし、彼らにも日々積み重ねてきた悲喜交々の日常生活があり、世代を超えて受け継がれてきた文化があったわけで、またそれが現代の私たちにも影響を与えているはずだ。
 日本において一般民衆の歩んできた生活の歴史を解き明かそうとするのが、日本民俗学である。

 さて、本題に戻り、妖怪とは何かという問題について触れていきたい。日本民俗学では、妖怪について下記のように説明されている。

 不安や恐怖をかりたてる不可解な出来事や不思議な現象、またそうした現象をもたらすと考えられている超自然的な存在。(中略)
 それらは、人知では解し難い現象に遭遇した時の人々の知識と想像力が生み出した説明のあり方ということもできよう。

出典:福田アジオほか編『精選 日本民俗辞典』(2006年 吉川弘文館)

 すなわち、妖怪とは現象の説明であるというのが、大方の定説となっているようだ(もちろん、例外はある)。
 例えば、夜中に山の方から木が倒れるような大きな音が聞こえてきたという「不可解な現象」が起こったときに、「あれは人ではない何者かが木を伐っていたのだ」と説明する場合、その何者かが「天狗」であったり「山姥(ヤマンバ)」という妖怪の仕業として納得するのである。
 いつの間にかテレビのリモコンが見当たらなくなって、いくら探しても全然見つからない現象に「妖怪リモコン隠しが出た!」というのも、同じである。
 何回試してもスマホの保護フィルムに空気が入ってしまう現象に「妖怪保護フィルム空気入れに狙われてるわ…」と呟くのも、同じである。

 妖怪は、人の心象によって生み出され、また消えゆく、儚い存在ということができるだろう。

 余談だが、『妖怪ウォッチ』の「ようかい体操第一」の中で、「どうして?」を何でもかんでも妖怪のせいにしているのは、日本民俗学における学説からあながち外れたものではないように思われる。

・妖怪ウォッチ「ようかい体操第一」

3 両者の比較

 この辺りで、本稿のタイトルを思い出してほしい。そう、主題はバーチャルタレント富士葵だ。筆者は富士葵のファンなのであって、妖怪博士ではないのだ。
 本項では、富士葵の特徴を挙げつつ、妖怪との比較を行うこととしたい。

(1) 雪女との比較
 妖怪には、山姥や砂かけ婆など女性とされている者が多く存在するが、美貌の持ち主はそう多くはない。そのような妖怪業界の中でも、代表的な美女が「雪女」である。

【雪女】
 一般的に白装束をまとった美女として語られる。雪の妖怪であり、精気を奪う、凍死させるなどして人間を殺すものとして恐れられてきた。
 また、雪女が登場する昔話では、人間の男と結婚することもあるが、多くはひと時の幸福が消えてしまう悲哀を含んだものである。
【富士葵】
 基本的に白基調の衣装をまとった美少女である。プロの歌手でもあり、ダンサー富士葵、シンガー富士葵など、葵歌劇団(富士葵ファンの総称)を限界化させて殺すものとして受け入れられてきた。
 また、富士葵が登場する動画では、視聴者の姪っ子になることもあるが、視聴後はひと時の幸福が消えてしまう悲哀を味わうものである。

・ダンサー富士葵

・シンガー富士葵

・姪っ子富士葵

(2) ぬらりひょんとの比較
 昭和・平成以降の創作作品の影響で、C級妖怪からS級妖怪にランクアップしたような印象がある。「老人を妖怪と間違えただけじゃないか」という身も蓋もないような説もある。

【ぬらりひょん】
 家の者が忙しくしている夕方時などに、どこからともなく家に入ってきて、お茶を飲んだりタバコを吸ったりと、あたかも自分の家のように振舞う
 家の者が気づいても、ぬらりひょんを「この家の主だ」と思い込んでしまうため、追い出されることもない。
【富士葵】
 記念すべき1stオリジナルフルアルバム配信開始(2019.11.18)の前日夜に、おもむろにポケモン実況配信を始めて、23:40頃からの休憩時間中に白湯を飲んだりゆで卵を食べたりと、あたかも普通のポケモン実況者のように振舞う
 配信再開&配信開始カウントダウンの時刻(23:53)になっても一向に再開されないことに視聴者が気づいても、富士葵は「23:50からゆで卵を食べ始めても間に合うんだ」と思い込んでしまうため、視聴者が安心することはない。
※なお、23:56頃に配信を再開して視聴者を安心させたかと思えば、カウントダウンの準備ではなくポケモンの捕獲を始め、また視聴者をソワソワさせた模様。

・ポケモン剣盾ストーリー実況(4日目)

※上記シーンは(3:31:30)くらいから

(3) 蟹坊主との比較
 パターンとしては少数派だが、エジプト神話におけるスフィンクスのように、人間に対して謎かけを仕掛けてくるものがいる。

【蟹坊主】
 かつて甲斐国にあった寺院に雲水(修行僧)が訪ねてきて、「両足八足、横行自在にして眼、天を差す時如何」と住職に不可解な問答を仕掛けてきた。回答に詰まる住職を雲水は殴り殺し、立ち去った。
 話を聞いた旅の僧がこの寺に泊まったところ、例の雲水が訪ねて来て同様の問答を仕掛けたので、「お前はカニだろう」と言って独鈷(仏具の一種)を投げつけた。雲水は巨大なカニの正体を現し、逃げ去った。
【富士葵】
 かつて富士葵がマリオカート配信をやった際に、「子供の頃に見たイチゴの断面図の影響で、電車から見える建物や映画のエンドロールを真っ二つに割りたくなる」と視聴者に意味不明な話を仕掛けてきた。反応に困る視聴者に対して富士葵は「後でツイッターに絵を上げる。そしたら絶対分かるから」と言い残し、配信を終了した。
 配信を見た葵歌劇団がツイッターを確認したところ、富士葵が自分で描いた絵を上げていたので、「葵ちゃんの絵じゃ余計分からないだろう」というコメント(愛情表現の一種)を投げつけた。富士葵は、結果的に改めて画伯の実力を示すこととなった。

・真っ二つの話

※上記シーンは(1:06:30)くらいから

・イチゴの断面図(絵:富士葵)

(4) 狐火との比較
 キツネやタヌキ、ムジナなどは、動物の中でも特別な力を宿していると古くから考えられており、主に人に化けるなどして悪さをしたという伝承が多い。中でもキツネは、最も広く逸話が残されている動物の1つである。

【狐火】
 火の気のないところに、突然提灯又は松明のような怪火が現れ、ついたり消えたり、一度消えた火がまた別の場所に現れたりするもので、正体を突き止めに行っても必ず途中で消えてしまう
 また、蒸し暑い夏や、どんよりとした天気の変わり目に、狐火が現れやすいといわれている。
【富士葵】
 予告も予感もないところに、突然正気を疑うような謎動画が投稿され、視聴者の脳内に「?」がついたり消えたり、一度は消えた「?」がまた別のところに現れたりするもので、本当の意味を探ろうとしても必ず途中で諦めてしまう
 また、歌手富士葵による歌動画で新規ファンを獲得したであろうタイミングに、謎動画が投稿されやすいといわれている。

・謎動画の例1

・謎動画の例2

(5) 富士葵と魔界の住人
 妖怪というのは、基本的に個人プレイヤーであり、グループでの活動はほとんどみられない。他の妖怪と協力関係や上下関係が認められるのは、牛鬼や酒呑童子など、強い力を持っているとされるごく少数の妖怪に限られる。

 富士葵がバーチャルタレントとして活動するにあたり、サポートチームの存在は不可欠といえる。
 サポートチームのうち、最も高い頻度で動画等に登場するのは「キクノジョー」という魔物である。ほかに、現在確認されている範囲ではタケチヨ及びキリノシンという魔物がサポートを行っており、総称して「チーム魔界」と呼ばれている。
 魔界の住人が徒党を組み、女子高生である富士葵の支援をしている状況、これはいったいどういうことなのか。

 善良なる読者の皆さんの中に、黒魔術を扱える人がいるだろうか。否、誰一人としていないだろう。
 葵歌劇団の間ではもはや基礎知識の範疇だが、富士葵は黒魔術が使える。富士葵が、魔方陣を介してキクノジョーを召喚したのだ。
 これは、Aoi ch.において魔物召喚の様子が動画として投稿されていることから分かる。この動画の存在こそ、富士葵自身が強い妖力を有していることの証左となる。
 黒魔術で魔物を召喚するなど、社会通念上とんでもない行為であるにもかかわらず、動画として世に残しているということから、おそらく富士葵は自身の特異な力に全く気づいていないと考えられる。富士葵にとって、黒魔術の習得は英検2級ぐらいの感覚なのだ。

※召喚の際は、少なくとも「キエエエエエエェェェ!!」と叫びながら瞳を高速で旋回させる必要があるとみられる。

4 富士葵の正体

 ここまで、富士葵の特徴と日本に伝承されている妖怪の生態を比較してきた。結果として、富士葵と妖怪は異常なまでに共通している部分が多いと言わざるを得ない。

 ここまで読んでいただいた方は、もうお気づきかと思う。ここに至っては疑う余地もなく富士葵の正体は妖怪である。

 決してこじつけなどではない。本当に恐ろしいものの片鱗を味わう結果となってしまったことについて、読者の皆さんにお詫びしたいほどである
 しかも、一般的な妖怪の特徴を複数兼ね備えているだけでなく、黒魔術をも会得しており、魔物の徒党がバックに控えている非常に強大な存在である。私たちは、現代の伝説を目の当たりにしているのだ。

おわりに

 繰り返すが、富士葵はともすれば世界を獲れるほどに強力な妖怪である。

 先に触れたように、妖怪は人の心が生み出した、虚ろな存在だ。人間と同じ日常を、共に生きることはできない。しかし、その特異な力で、人間の身体・心象に、干渉することができる。

 読者の中には、富士葵の「応援」によって、困難を耐える力や、何かに挑戦する勇気など、前向きな気持ちを受け取った、という経験がある人は少なくないだろう。
 これはある意味当然といえる。富士葵は『キミの心の応援団長』として人間を見つめ、その強大な力を多くの人々に使っているのだ。

 拙稿をここまで読んでくれた人のうち、富士葵をよく知らない人がいるとすれば、どうか一度、富士葵の動画を、歌声を聴いてほしい。富士葵は、世界レベルの大妖怪だ。いつの日か、貴方の救いになるかもしれない。

 妖怪は、人の心の産物である。語られることが無くなればいとも簡単に消えてしまうが、多くの人が信じれば、さらに強い力を持つこともあるだろう。
 私は、富士葵を信じている。どうか、多くの人が富士葵に触れ、その力を感じられますように。

■ 妖怪 富士葵(本来の姿:イメージ)

(絵:たいまろ(twitter:@ta1maro))

(以上)