フランス同時多発テロがグローバルコミュニティに投げかけた課題

【海外ニュース】

President Obama said on Sunday that he had ordered his senior defense officials to find out whether intelligence reports had been altered to reflect a more optimistic assessment of the American military campaign against the Islamic State.

訳:オバマ大統領は、日曜日に国防機関の高官に諜報機関がアメリカのISISへの軍事行動への楽観的な見通しの変更の是非を調査するように指令をだしたと言及

(ニューヨークタイムズより)

【ニュース解説】

ロンドンのヒースロウ空港に到着して、パディントンエクスプレスという列車に乗れば、20分でロンドン市内へと到着します。

列車の名前にもなっているパディントン駅に到着し、そこでタクシーに乗って定宿であるハイドパーク沿いのホテルまでほんの10分。

車の窓から外をみると、そこはレバノンなどの中東系の飲食店がずらりと並び、中東系移民の人々が水パイプをふかして集う光景など、過去にはなかったロンドンの素顔に触れられます。

ロンドンが移民の町へと変貌したのは、ここ20年のこと。

その変貌の中で、今回パリでおきた同時多発テロの脅威は、そのまま自らの脅威であることを実感します。

「あれはブッシュ前大統領の最大の失政だよ」

ISISの問題を語るとき、多くのイギリス人、そしてアメリカ人はジョージ・ブッシュのことを強く批判します。

「アフガニスタンでやめておけばよかったのに、イラクに大義のない戦争をしかけ、その結果泥沼になってしまった。イラクの捕虜収容所でネットワークした捕虜達が今のISISの幹部として活動したというお粗末な話。ブッシュこそ戦犯に値する政治家だよ」

私の友人は常にこのようにコメントします。

実際、ISISはイラク戦争の負の遺産に他なりません。

しかも、その負の遺産は今までグローバリズムを牽引してきた多様な社会構造そのものへの懐疑心を人々に植え付けたのです。

つまり、移民が増え、社会が多様になれば、そこから脅威がうまれるという意識を人々が抱くようになり、社会が閉鎖的な過去へと逆戻りしようとしているのです。

パディントン駅からハイドパークまでの中東系のコミュニティを、多様で素敵な、そしてわくわくするグローバリゼーションと捉え、そんな様々な宗教や価値観を楽しみ認めあう社会を未来の理想へのマイルストーンであると思ってきた人々が、パリで起きた事件などを通して、首を傾げ始めていることが、最も気になることなのです。

「イスラム教が悪いのでも、中東の人々がおかしいのでもない。ISISが異常であって、そのことからイスラム社会への偏見が助長されることは最も悲しいことなのです」 経験なイスラム教徒の一人で、シアトルに住む私の友人はテロ行為がおきる度にそう強調します。

もちろん私もそれに同意しています。

加えて、中東の問題は複雑です。20世紀のはじめに、その地域を支配していたオスマントルコから分離独立しようとした人々を、ヨーロッパの列強は自らの権益の拡大を意図してこぞって利用しました。

イギリスは、第一次世界大戦の折には、敵となったオスマントルコとの戦争を遂行するために、イスラム教徒とユダヤ教徒に同じ土地での自立を約束するという背信行為まで行い、そのことが後年のパレスチナ問題へとつながりました。

あの有名なアラビアのロレンスは、英雄ではなく、そうしたイギリスの権益のための工作活動をしていた人物で、本人自身が自らの行為を悔いて当時のイギリスの政策へ異を唱えていたといわれています。

そして、20世紀後半に、イスラエルが建国した後、祖国であったパレスチナを追われた難民への欧米の曖昧な対応が、中東問題をより複雑にしたことは周知の事実です。

もちろん、ISISの行為は現代社会の価値観を否定する悪行です。

アラブの人々がこの100年間抱いてきた欧米への不信感とISISの行為とを混同することは危険なことです。

ただ、20世紀初頭のボタンのかけ違えが100年後の今に至っても、中東情勢を混迷させていることを考えれば、今我々がISISへの対応を誤れば、これから100年、さらに人々が不信感をつのらせ、憎悪と報復の悪循環が続くかもしれないのです。

ここに紹介したニューヨークタイムズの記事からもおわかりのように、欧米はISISを過小評価してきたことを悔いて、諜報活動を強化し、軍事行動へも積極的になっています。

アメリカとロシアがお互いを警戒しながらも、ISISへの強硬姿勢では協力関係も辞さないという奇跡がおこるかもしれません。

ただ、我々が常に考えなければならないことは、内部からの治癒力を忘れないことです。

すなわち、ロンドンでいうならば、あのパディントン駅からハイドパークにかけて展開する中東系の移民社会とロンドンの市民が連携して、フランスでおきた悲劇を考え、お互いを支え合いながら困難を克服するエネルギーを蓄えることが大切なのです。

フランスでの同時多発テロは、グローバリゼーションに対する今までにない試練と教訓を我々に投げかけているのです。 

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