名前を呼んで欲しいだけ

バッグ・クロージャーは死のうとしていた。

誰も彼の存在を知らなかった。だから彼が居なくなっても別段困る者はいなかった。生まれたときから彼の名前は「バッグ・クロージャー」といった。彼は自分の名前を気に入っていた。なかなかかっこいい名前だと思っていた。しかし周りの人間は彼を認めなかった。彼はパン屋で働いていたが、そこで彼は自分が空気のような存在になっていることを知った。

そんなとき、彼は彼女と出会った。彼女はオルトンといった。彼は彼女のことを知らないと彼女に告げた。彼女は寂しそうに笑った。そして彼女も彼と同じく死のうとしていた。

「みんな私のことに興味がないのよ。せいぜい便利な道具としか見てないの。」

2人が死のうとしていると、前から陰鬱な顔をした2人の男が歩いてきた。1人目はシャガンシ、2人目はディッシャーと名乗った。もちろん我々は2人のことも知らなかった。2人の陰鬱な男は「だろうな。それが俺たちの死ぬ理由だ。」と言った。

俺たちは似た者同士だった。だから俺たちは互いの痛みが分かった。

俺たちは一緒に死ぬことにした。

俺たちを無き物にしたこの世界が憎かった。

俺たちはただ名前を呼んで欲しいだけだったのに。

俺たちが命を絶った翌日も世界は当たり前に動くのだろう。そして俺は「パンを留めるやつ」と呼ばれ、誰も俺が死んだことには気付かないのだ。

さらば



バッグクロージャー 食パン等の袋を留めるプラスチック製の留め具
オルトン お店でお金を受け渡しする際のトレー
シャガンシ(遮眼子) 視力検査の際、目を覆う黒いスプーンのような器具
ディッシャー アイスやポテトサラダを丸くすくうための器具

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