妖剣士 1話

○森 (夜)

   バスが炎上している。八乙女響子 (17)が逃げている。5m級のアヤカシがバスから出てくる。口に人を加えている。

響子「誰か、誰か……!」

   おじさんと響子が走って逃げていく中、5m級のアヤカシはバスから逃げ遅れた人を食べている。

アヤカシ「ケケケ!」

おじさん「助けて!」

   おじさんも食べられる。

響子「いや、いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

   岡川のシルエットが映る。

   アヤカシに立ち向かう岡川。アヤカシにダメージを食らわせる。

岡川「早く逃げな!さぁド派手に舞うぜ!」

 

N「古代より争ってきた人間とアヤカシ。人間は食われ、アヤカシが食物連鎖の頂点となっていた。だが人類も負けてはいなかった。アヤカシを倒す剣、妖剣を作り、それを使い戦うものを妖剣士とし、戦いを開始した。そこから早数百年の月日が経ち、現代……」

 

〇喫茶・ファルコ・外観 (夜)

 

〇同・中 (夜)

   八手雅人 (48)がコーヒーを飲んでいる。目の前に少女(響子)の写真が置いてある。

岡川の声「うぃーす」

   岡川大我 (22)がドアから入ってくる。

岡川「聞いてくれよおやっさん」

八手「喋るな、コーヒーが不味くなる」

岡川「どうでもいいじゃん、そんな事。それより聞いてくれよ!」

   溜息をつく八手。

八手「また合コンで失敗した話だろ」

   呆れたように言う八手。

岡川「よく分かりましたね。おやっさん占い師の才能あるぞ」

八手「お前が単純なだけ」

岡川「この仕事さ、人に言えないからどうしてもバイト何してるんですか?と聞かれたとき困っちゃうんだよな」

八手「知るかそんなもん」

岡川「俺の話付き合ってくれてもいいでしょ?な?ね?」

八手「黙れ!」

   叫ぶ八手。

八手「俺は今コーヒーを楽しんでいるんだ!邪魔するな!」

   怒られ、その場を離れる岡川。

岡川「少しは俺の話を聞いてくれてもいいのによ」

八手「貴様のつまらん話など聞いてられるか!」

岡川「つまんねぇの」

   あぐらをかく岡川。

岡川「今日はアヤカシも出ないし、暇だなぁ」

   あくびをする岡川。

八手「暇が1番だ」

岡川「あーあ満智子ちゃん可愛かったなぁ。結構いいとこまで行ったんだけどなあ」

八手「お前の下心など透けて見えるんだよ」

   マイク・スエン(24)が現れる。

マイク「大我、仕事だ」

岡川「待ってました!合コンの恨みつらみを晴らしてやるぜ!」

八手「相手は?」

マイク「データを見る限り5m級。被害者も多数出てる」

岡川「俺一人で十分だな」

八手「俺も行く」

マイク「本気ですか!?おやっさん?」

八手「なにか嫌な予感がする」

岡川「しゃあ!そうと決まればド派手にかましていくぜ!」

   その場を後にする岡川とマイクと八手。    

 

○山 (夜)

   八乙女響子とおじさんが逃げている。バスが炎上しており、5m級のおどろおどろしいアヤカシが人間を食べている。

   おじさんがこける。

おじさん「た、助けて!」

   後ろからアヤカシが追いかけてくる。

おじさん「ああ!」

   アヤカシに食べられるおじさん。

響子「嘘でしょ……!」

 

○山 (夜)

   高速で木から木へと移る岡川とマイクと八手。岡川の左手にはブレスレットがついている。

岡川「アヤカシとの距離は?」

マイク、タブレット機器を弄りながら

マイク「10メー」

八手「(遮るように)10メートルといったところだろ」

マイク「正解」

岡川「さすがおやっさん。感覚で分かるもんなんだねぇ!」

岡川「もうちょいだな。俺は先に行く!」

マイク「分かった。気をつけて!」

岡川「おうよ!」

   岡川、より高速で木から木へと飛び移る。

 

○森 (夜)

   響子はしりもちをつき、動けなくなっている。

   アヤカシがどんどん近づいていく。

響子「あ、ああ……!」

   じりじりと近づいていくアヤカシ。

響子「きゃーーーーー!」

   アヤカシ、響子を食べようとする。

岡川の声「どっせい!」

   響子とアヤカシの間に割って入り、飛び蹴りでアヤカシに立ち向かう岡川。アヤカシにダメージを食らわせる。

岡川「大丈夫かい?お嬢ちゃん?」

響子「あなたは?」

岡川「俺?俺めっちゃ強いから大丈夫!」

響子「俺めっちゃ強い?」

岡川「早く逃げな!さぁ光が舞うぜ!」

   ブレスレットを押して剣を取り出す岡川。

響子「正義のヒーローみたいだ」

   ニヤッと笑う岡川。

   響子、木の裏へ隠れる。

岡川「ったくぷくぷく太りやがって。一体どれ程人を食ったってんだ」

   アヤカシ、岡川に襲い掛かる。それをよける岡川。

岡川「そんなに太っちまってよぉ、ちったあ

ダイエットしたらどうだよ!」

   アヤカシに飛び蹴りをいれる岡川。

   倒れるアヤカシ。

   アヤカシに斬りかかる岡川。だが、決定打にはならない。

岡川「やっぱダメか。そいじゃ、行くとしま

すか」

岡川「光を灯せ!白銀の剣!」

   刀を大空にかざす岡川。

   刀に輝きが宿り、銀色に光る。

   立ち上がるアヤカシ。

   岡川、アヤカシに斬りかかる。

   光の剣で斬りかかられたアヤカシ、悶える。

岡川「人とは違う味がしてうめえだろ!ああ!どうよ!」

マイクの声「そいつの弱点は腹だ!大我!」

   マイクと八手が到着する。

八手、響子に気づく。

岡川「おうよ!」

八手「響子!」

   八手がアヤカシに蹴りを入れる。吹き飛んでいくアヤカシ。

岡川「おやっさん、武器ないのにすげえ」

八手「とどめはお前がさせ」

   アヤカシに乗る岡川。光の剣で切り刻む。苦しむアヤカシ。

岡川「じゃ!一気に決めるぜ!」

   岡川、剣に念を集中させる。より光り輝く剣。

岡川「大我!ダイナミック!だりゃあああ

あ!」

   必殺技を決める岡川。爆発するアヤカシ。

岡川「決まったぜ!」

マイク、岡川に近づく。

マイク「お疲れ」

岡川「(笑顔で)おう!」

マイク「それよりあの子はどうする?」

   マイク、陰に隠れていた響子を見る。

岡川「結構タイプだし、そりゃ勿論俺のお嫁

さんとしてだな……」

マイク「バカか、君は」

岡川「おいおい、人助けしたんだ。少しくら

い恩恵に預かったってお天道様は見逃して

くれるはずだぜ?」

八手「大丈夫か!?響子!」

響子に近づく八手。

マイク「おやっさんの知り合いか?」

岡川「そうみたい?」

八手「無事か!?響子!」

響子「おじさん!?どうしてここに!?」

八手「そんな事はいいんだ!早く手当を!」

岡川「あんな慌てたおやっさん見た事ねえ」

岡川「それにしても可愛いなぁ。おやっさ

んの知り合いとは思えん。お近づきに

なりたいもんだぜ」

マイク「だがこの戦闘を見られたからには…

…」

岡川「冗談だよ、分りました、いつものやつ

でしょ?へいへい。あ、持ってくるの忘れた」

マイク「何やってるんだ」

岡川「うるせえなぁ」

マイク「俺は邪魔だから持ち歩かないの知っ

てるだろ!」

岡川「俺は忘れっぽいっての知ってるだ

ろ!」

   言い合うマイクと岡川。

八手「怪我はないか?」

響子「大丈夫。それよりさっきのは?」

   アヤカシを気にする響子。

   響子に近づく岡川。

岡川「どうってことないさ。まあちょっとし

た災難にあったくらいに思えば」

八手「お前は何も気にしなくていいんだ!」

響子「そんな事より食べられてしまった方は

……」

   おじさんを思い出す響子。

マイク「食われてしまった人間は元には戻ら

ない」

響子「え……」

   動揺する響子。涙を流す。

岡川「おい、マイク!もっと言い方ってもん

があるだろ!」

八手「マイク!貴様!」

マイク「(慌てながら)事実は事実だ。それ以

上でも以下でもない!」

岡川「このバカマイク!この生真面目!お前

はもっと人の心ってのがなぁ!」

響子「あの、私はこれからどうすれば……」

岡川「おやっさんの知り合いなんだよな」

八手「ああ。とりあえず喫茶店に戻す」 

 

〇喫茶・ファルコ・店内 (夜)

   岡川とマイクが立っている。響子は座っており、八手は響子に目線を合わせてハンカチで涙を拭いている。

八手「響子、大丈夫か?」

響子「怖かった、怖かったよぉ!」

   大きく泣き出す響子。

岡川「おやっさん、その子誰なんだよ。さっきから何も言わずに色々してるけどさ」

マイク「お前ちょっとねらってるだろ」

岡川「いやまぁ可愛いなとは思うけど」

八手「手を出してみろ、殺すぞ」

岡川「出しませんって!」

マイク「で、その子誰なんです?」

八手「私の義理の娘、八乙女響子だ」

岡川「おやっさんの義理の娘さんですか」

八手「この子は名乗ったんだ、お前らも名乗ったらどうだ?」

岡川「そいつは失礼。俺は岡川大我。こいつはマイク」

マイク「マイク・スエンだ。よろしく」

   泣き止む響子。

響子「おじさんも、みなさんも一体何者なんですか?」

岡川「俺たちはアヤカシを狩るもの、通称、妖剣士。さっきの化け物と戦うものだ」

八手「おい、大我!」

岡川「そりゃ聞かれたら答えるのが筋ってもんでしょう」

八手「お前ってやつは……響子、何も聞かなかった、いいな?」

   岡川の周辺にゴキブリが出てくる。

岡川「ふんぎゃら!ゴキブリ!」

   響子の後ろに隠れる岡川。

   ゴキブリを退治する八手。

岡川「ふぅ、危ない所だったぜ」

響子「あんなでかい化け物とは戦えるのにゴキブリは苦手なんだ……」

八手「少し席を外す」   

   八手、トイレへ向かう。

岡川「響子ちゃん、だったよね。何歳なの?」

響子「17です」

岡川「17かぁ。高校生かぁ。いいねぇ若いねぇ」

マイク「22と17,ギリアウトだと思うなぁ」

岡川「助けたお礼といったらなんだけどデートとか……」

   岡川にナイフが飛んでくる。

八手「手を出したら殺すと言ったよな?」

岡川「ずみばぜんでじだ……」

   半泣きの岡川。

   ×××

マイク「で、どうするんです?みせるんですか?」

岡川「ちょっと待ってくれよ!俺は反対!」

マイク「お前の場合響子ちゃんが好みのタイプだからってだけだろ」

   首を横にふる大我。

岡川「そうじゃなくて!ただでさえ俺たちは人員不足なんだ」

八手「メンバーに加えたいってことか?」

岡川「そういう事です。おやっさんと面識があるなら話は早いし」

八手「響子を戦いに巻き込めというのか!」

   激高する八手。

マイク「確かにそういう事になるな」

岡川「でも事情が分かった子がいるなら……!」

八手「だめだ!」

   響子、立ち上がる。

響子「私、そろそろ帰った方がいいですかね?」

   時計は10時を指していた。

八手「そうだな、夜道だ、気をつけろ」

岡川「じゃあ俺が送りましょう、そうしましょう。善は急げだ」

マイク「ならば僕もついていくとしよう」

岡川「てめえ!マイク!俺の恋路の邪魔をしようって」

八手「(目を細めながら)殺すぞ」

岡川「(まじめな顔つきで)いこっか、響子ちゃん」
マイク「どちらにしても17と22じゃなぁ」

 

〇道 (夜)

   歩いている岡川、響子、マイク。

岡川「響子ちゃんの家族はどんな感じなの?」

響子「もう私には家族はいないんです」

マイク「どういうことだい?」

岡川「おいマイク!」

響子「私5年前に両親を交通事故で亡くしてるんです。偶然両親が2人で旅行に出かけてるときに」

   足が止まる3人。

岡川「ごめん、そんなこと聞いて」

   再び歩き始める3人。

響子「いいんです、慣れてますから。そこから叔母の元でお世話になってます」

岡川「そっか。今が幸せならそれが1番だよ」

響子「そうですかね?」

岡川「俺、10年前に起こった飛行機の墜落事故の唯一の生き残りらしいんだ」

響子「らしい?」

岡川「ショックでその部分だけ記憶喪失なんだって。飛行機乗った記憶もおぼろげ」

響子「そんなことが」

岡川「おまけに家族の事も覚えてない。面白いもんだよ、全く」

響子「え?気持ち悪くないんですか?そんなに記憶がないなんて」

岡川「あんまり考えた事無いなぁ」

響子「考えたことない?」

岡川「施設やおやっさんのとこで生活するのも楽しいし、マイクは生真面目すぎるけどなんだかんだいい奴だし」

マイク「私はいい奴、だそうだ」

岡川「人間たくさん生きてたら色々あるってことよ。おやっさんも言ってた」

響子「そうなんですね」

岡川「いつか思い出すさ。王族の血を引いてたりして」

マイク「君に限ってそれはない」

岡川「なんだとー!」

   響子の家の前に着く。

響子「ここが私の家です」

岡川「そうか、じゃあ、また」

響子「今日はありがとうございました。記憶、戻るといいですね!」

   お辞儀して帰っていく響子。

 

〇コンビニ・外観(夜)

   岡川が歩きながら缶のコーンポタージュを飲んでおり、横でスマホを弄りながらマイクがたばこを吸っている。

   缶の内部を覗き見る岡川。

岡川「3粒……」

マイク「15人、か」

岡川「救えなかったかぁ」

マイク「また亡くなった人の事、考えてたのか」

岡川「まぁそりゃ、な。もっと早くアヤカシを見つけていたら、もっと早く俺たちが到着していたら……」

マイク「俺たちは神様じゃない。救える命もあれば救えない命もいる。仕方のない事だ」

岡川「神様が同じ立場でも全員の事、救うのかな?」

   考えるマイク。

マイク「神様に会えば分かるだろうな」

岡川「ならまだしばらくは分からないなぁ」

   近くのごみ箱にコーンポタージュの缶を捨てようとする岡川。

マイク「大我、コーンを残さず食べるにはな……」

岡川「待ったマイク!」

マイク「どうしたんだ?」

岡川「そういう裏技は知らない方が良い気がする」

マイク「は?」

岡川「これからもコーンポタージュとお付き合いしていくからな!」

 


〇喫茶ファルコ・外観

 〇同・店内

   八手はコーヒーメーカーを持っている。

   まばらに客がいる。

   私服姿の岡川が降りてくる。

岡川「おはようございます~」

八手「もう11時だ。遅い!」

岡川「ギリおはようが通じる時間でしょ」

客A「大我くん、今年も留年かぁ?」

岡川「俺これでも今年単位落として無いんで」

   どや顔をする岡川。

客A「本当か~?」

   八手、岡川にカルボナーラを渡す。

岡川「ちょうど腹減ってたんだよね~」

   八手、岡川を叩く。

八手「3番に運べ、馬鹿」

   カルボナーラを運ぶ岡川。

岡川「ペペロンチーノです」

客A「ありがと、そういやこれ知ってる?」

   岡川にスマホの画面を見せる客A。

   画面には昨日のバスの炎上事件についてと書かれた記事が表示されていた。

岡川「へぇ~こんな事がね」

客A「乗客は全員死亡、炎上の原因は不明な

んだって」

岡川「妖怪のせいかもしれないっすね」

客A「(笑いながら)何年前の話だよ」

   ×××

   

 

〇柳原高校・外観

 

〇同・2年3組・外観

 

〇同・同・内

   響子が項垂れながら座っている。

   花岡みく(17)がやってくる。

みく「響子、どうしたの?朝から元気ないけど」

響子「みく、いやまぁちょっとね」

響子N「昨日の事伝えてみても無駄だよね……」

みく「元気がないあなたに!みくみくビーム!」
   みくみくビームを放射するみく。

響子「ちょっと元気でた」

みく「えっへん、そういや昨日の事大丈夫だった?」

響子「え?」

みく「炎上バス事件、響子の使ってる路線だったよね?」

響子「え?なにそれ?」

みく「これだよこれ」

   みく、スマホの画面を見せる。

   そこにはバスの炎上した写真が載ってある。

響子N「やっぱり昨日の事は書いてない!」

みく「響子?」

響子「え?ああ、うん、少しずらして帰ったから」

みく「そうなの?よかったぁ!」

響子「みく、笑わないで聞いてくれる?」

みく「え?いきなりどうしたの?」

   みくに耳打ちする響子。

   ×××

   笑いだすみく。立ち上がる響子。

響子「ちょっと!」

みく「だって化け物に襲われて謎の剣士に救われたって言われても現実味ないって。今時の漫画でももっと捻ってるよ!」

響子「みくに話した私が馬鹿だった」

みく「ごめんって。でもそんな出来事あったら誰か何かしら覚えてるよ。記事にもなってるだろうし」

響子「そ、そうだよね」

 

〇道路(夕)

   雨が降っている。

   昨日のバス炎上事件の地点。

   様々な人が傘をさしたり、雨具を着たりして泣きながら献花を行っている。

   それを響子が傘をさして一輪の花を持って後ろから見ている。

響子N「本当はバスが炎上したんじゃなく

て怪物が現れてそいつが人を食べたって言

ったらみんな信じるだろうか?」

   みくの反応を思い出す響子。

響子「多分、誰も信じないな」

岡川の声「何を信じないの?」

響子「(振り返って)うわ!」

   雨具を着た岡川が現れる。

岡川「よっ」

響子「あなたは……!」

岡川「俺は岡川大我。響子ちゃん、だよね?」

響子「えっ、あ、はい」

岡川「俺、美人の名前覚えるのだけは早いんだよね!」

響子「(戸惑いながら)そ、そうですか」

岡川「で?何しに来たの?」

響子「いやまぁ、その……」

   響子の持った一輪の花を見つめる岡川。

岡川「そういう事ね」

響子、ドキッとする。

岡川「やっぱ図星?」

響子「あなただってそうなんじゃ」

岡川「まぁそうだけど」

響子「怪物の事秘密にするんですか?」

岡川「まぁね。上の方針だし」

響子「真実を公表しないんですか?」

岡川「え?」

響子「何も知らない遺族が可哀そうとか思わないんですか?」

岡川「思わない、と言ったらウソになる」

響子「じゃあなんで!」

岡川「でも犠牲になった人の遺族がアヤカシの事を知らない方が幸せだと俺は思う」

響子「なんでですか!」

岡川「でも世の中知らない方が幸せな事って沢山あるよ」

響子「あの時死んでいった人たちの顔や悲鳴は忘れられないですよ……」

岡川「気持ちわかるよ、俺も助けられなかった人の顔は誰一人忘れたことない」

響子「だったら猶更!犠牲になった人たちの為に!」

岡川「公開すべき、と。アヤカシの事、これまでの出来事の事も」

   頷く響子。

岡川「もし、もしなんだけどさ」

響子「はい?」

岡川「昨日の出来事を忘れることが出来るとするならば、忘れたい?」

響子「それはどういう?」

岡川「もしもの話だよ」

響子「私は……」

   雨具を着たマイクがやってくる。

マイク「献花は終わったか、大我?」

岡川「あーすぐ済ませてくる」

   岡川が献花しに行く。

響子「戦いに行くんですか?」

マイク「君は昨日の」

響子「戦いに行くんですね」

マイク「君には関係ない」

響子「やっぱり行くんだ」

   岡川が戻ってくる。

岡川「お前も献花?」

マイク「敵だ。行くぞ」

岡川「響子ちゃん、君の気持ちもわかる。だけど昨日起こった事は原因不明の事故、そして今から起こることも、ね」

響子「そんなの歪んでます!間違ってますよ!」

岡川「俺もそう思う。でも真実は俺たちが作る。例えどんなに後ろ指を指されても。どんなに間違ってると罵られようとも」

響子「そんなの!そんなの悲しすぎますよ!」

岡川「そう言ってくれる人が一人でもいる限り俺は戦うよ。誰かの居場所を守る為に」

マイク「大我、行くぞ」

岡川「じゃあね、響子ちゃん。次はどこかおしゃれなレストランでも!俺奢るからさ!」

   去っていく岡川とマイク。

   取り残される響子。

   響子に雨が降り注ぐ。

 

〇森(夕)

   雨具を着たまま森の中を駆ける岡川とマイク。

   タブレットを弄るマイク。

岡川「距離は?」

マイク「もう少しだ」

   岡川、左腕につけているブレスレットを押して剣を取り出す。

岡川「ブレスレット押す時、何か一言いるか

な?」

マイク「無駄な行為は避けるべきだ」

岡川「こういう時気合い入れが必要なの」

マイク「意味が分からん」

岡川「アクセスフラッシュとかどうかな?」

マイク「やめた方がいいと思う」

岡川「うーん」

   頭を悩ます岡川。

 

〇川(夕)

   雨が降っている。

   カニのようなハサミを持ったアヤカシがいる。成人男性と同程度の身長で二足歩行である。アヤカシが親子(母、小学生高学年程の息子)に襲い掛かる。逃げる家族。ゆっくりと歩くカニのアヤカシ。

母「ああ!」

   こける母。

息子「母さん!」

母「振り返らず走りなさい!」

   カニのアヤカシが母に迫りくる。

   目を瞑る母。

岡川N「どっせーい!」

   岡川、カニのアヤカシに蹴りを入れて登場する。

岡川「♪呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃー

ん、と」

吹き飛ばされるカニのアヤカシ。

岡川「♪任せておくれよ、何とかするさ~」

母「あなたは?」

岡川「さっさと逃げろ!悪夢が現実のものになっちまう!」

   走って逃げる母。それを追いかけるカニのアヤカシ。

岡川「お前の相手はこの俺だっての!」

   雨具を取り払い、カニのアヤカシを蹴って妨害に入る岡川。

   マイクが到着する。

岡川「光が舞うぜ!」

   ブレスレットを押し、剣を出す岡川。

岡川「俺の事なんかいいから親子を!」

マイク「だが大我!君はまだエネルギーを最大に使える訳じゃない!」

マイクN「大我は剣を光らせて敵と戦うが、それには大量のエネルギーを消費する。回復にもそれだけの時間を要する!」

   岡川とカニのアヤカシが戦闘状態に入る。

   お互い一歩も引かない。

岡川「こいつ結構やるな!」

   お互い攻撃を仕掛けるも防御されるという攻防が続く。

岡川N「埒が明かない!使えるエネルギーは

マックスで4割って所か。それで何とか倒

せるか、俺?」

   一瞬の隙をついたようにカニのアヤカシが岡川に攻撃に転じてボコボコにやられる岡川。

岡川「がぁ!」

   血を吐く岡川。

岡川N「迷ってらんねぇ。あれやるしかねぇ!」

岡川「マイク!後は宜しく!」

マイク「大我!まさか!」

   岡川、剣先に触れ、刃が大きく光りだす。

マイク「待て!早まるな!」

岡川「滾ってきたぜぇ!」

岡川N「10秒が限界だな、それまでに何と

しても倒す!」

   カニのアヤカシの左のはさみを剣で切り落とす岡川。

岡川「おりゃああああ!」

岡川N「この一撃に全てを賭ける!」

   岡川、カニのアヤカシの中心部に刃を突き刺す。木に突き刺さる。刃持ち手からエネルギーを次々とカニのアヤカシに送り込む。

   カニのアヤカシも右のはさみで岡川の首を絞める。

岡川「間に合ええええええ!」

   エネルギーを打ち込まれ、ピタリと動きを止めるカニのアヤカシ。爆散する。

   その爆散した勢いで岡川も吹き飛ばされる。

   岡川が逃げ行く親子の周辺に着弾する。ボロボロの岡川。

息子「お兄ちゃん!」

岡川「(笑顔で)お、無事?」

母「あなたこそ!早く手当てを!」

岡川「いや、俺の事はいいから。このままの

方が楽だから」

母「(岡川の手を握りしめ)あなたは命の恩

人です!この御恩は忘れません!」

岡川「そいつはありがとうね」

息子「俺、将来お兄ちゃんみたいに人を助けるヒーローになりたい!どうやったらなれる?」

岡川「親の言う事聞いて野菜の好き嫌いせず食べて毎日鍛えたらなれるさ、っと時間だ」

   5人程の黒子が親子を囲む。

黒子「外傷は特になし。このまま削除に入ります」

母「なんなんです!あなた方は!」

黒子「総員、万華鏡、用意!」

   抵抗虚しく親子に万華鏡が装着させられ、万華鏡が回り始める。

×××

   万華鏡を終え、撤退する黒子達。

息子「(岡川を指さし)変な人が倒れてるよ

~」

母「こら!見ちゃいけません!」

息子「なんで?」

母「ずっと見てたらああなっちゃうわよ!嫌でしょ!」

息子「あんなのになりたくない」

   去っていく親子。

   雨がやみ、雲間から太陽が顔を出す。

   マイクがやってくる。

マイク「立てるか?」

岡川「ごめん、無理」

   岡川を抱えるマイク。歩いていく2人。

マイク「だからあれほどあの技を使うなと」

岡川「悪かったよ」

   雲が無くなり、快晴になる。

マイク「晴れてきたな」

岡川「通りで眩しいこった」

   眼下に街が見えてくる。

マイク「お前が守ったんだ」

岡川「え?」

マイク「今目の前に見える、いや、もっと向こうの果てしない人々の平和をお前が守り抜いたんだ」

岡川「俺が守ったのかぁ」

   にんまりする岡川。

岡川「あ、今日の被害者状況とかってもう分かる?」

   タブレットを弄るマイク。

マイク「ゼロ、だ」

岡川「マジで!よっしゃー!」

マイク「早く帰っておやっさんに報告だな」

岡川「そういやよ、今日嬉しい事言われたんだよ!」

マイク「嬉しい事?」

岡川「少年がさ、俺みたいなヒーローに将来なりたいって!」

マイク「君みたい?」

   プッと笑いだし、爆笑するマイク。

岡川「何がおかしいんだよ!」

マイク「女好きのスケベで虫、特にゴキブリが苦手で未だに結構な数の野菜が食べれない上に大学留年した君が?」

岡川「言いすぎだろ!」

マイク「(大爆笑しながら)何かの間違いだね」

岡川「マイク、お前って奴は~!」

   第一話終了。

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