補足部|【2】実際のイコライザー設定例や機器の検討など

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★本項はマガジン『フレームドラムのためのcubemicハック』の一部分です。

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・ペダルタイプのグラフィックイコライザーとcubemic収音との相性を、実際にDAWでの設定値と比較して、検討します。

・各図で太線で描かれているカーブはDAWのイコライザー(パラメトリックタイプ)での設定値です。

・cubemicで収音すると、ジングルやサワリのあるフレームドラムや胴の音で演奏するフレームドラムでは、割と積極的な補正が必要です(補正が必要である一方で、ハウリングしづらい事などが導入の利点です)。

・高音-中音ー低音のバランス補正に加えて、特に”美味しい周波数"をピンポイントで持ち上げられると、自然で活き活きした雰囲気になります。それがイコライザー単体で出来ない場合には、後段にエンハンサーや細やかなコンプレッサーを接続する事でその役割を果たせる場合があります。

・中音域で不要な胴鳴りをカットする必要がある楽器も(後述します)。

・ドラムセットや電気楽器等と演奏する見込みだった日の設定なので、この時の設定では、低域はすっきりとカットした傾向になっています。

・実際にはその他にコンプレッサーやリバーブも組み合わせて運用していましたが、本項ではイコライザーについてだけ取り出して考えます(他でも述べた様に、コンプレッサーやエンハンサーと組み合わせた結果、ジングル音や中低音が自然な聴こえを得ているというものもありました)。

・各製品のバンドごとの周波数幅に関する特性についてはここではひとまず「試してみないとわからないから考えない」という事で、無視しています。

・楽器へのcubemicの設置方法で収音される胴経由の音は随分異なるので、特に高音-中音-低音のバランスのとり方について等は「これは今回私が使ったケースの場合に限った話」という感じではあるところです。

・DAWで設定したカーブのピークの横位置(周波数、単位はHz)については楽器の特徴的な音を示すものなので、何かのご参考になるかなと考えます。ここにペダルイコライザーの周波数帯の中心があると、その楽器とそのペダルエフェクターとは相性が良いという事になるでしょう。

・イコライザーのカーブは、縦軸の0を基準に読みます。これが0なら「入力音量のまま」という事だし、マイナスなら「小さくする」、プラスなら「大きくする」という事になります。広い範囲を大きくするだけのイコライジングや小さくするだけのイコライジングというのは、基本的には行いません。鋭いピーク部分(どこかを集中的に減じたり増したりした部分)の効果を除けば、0を中心に見た音量バランスを整えるのが目的です。

・今回取り上げた4製品はバンドごとには±15dBあるいは±12dBなので、その点もDAWのイコライザーとは効果が異なります(dBは音の大きさを示す単位)。

・本編ではドラムの皮を主に「膜」と表現しており、ここでは皮を使いましたが、雰囲気以外の違いは無いです。

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・比較4製品は以下(商品画像はamazon.co.jpより)。

(1) BOSS GE-7
ギター向け。他社製品も含めて、マルチエフェクターに似たようなのが含まれていたり、クローン品が売られていたりする定番品。7バンド。±15dB。

(2) BOSS GEB-7
ベースギター向け。他社製品も含めて、マルチエフェクターに似たようなのが含まれていたり、クローン品が売られていたりする定番品。7バンド。±15dB。

(3) BOSS EQ-20
廃盤品。ツインペダルタイプで、9設定のプログラマブル。10バンド。±15dB。

(4) MXR EQ M-108
BOSS製品とは設定周波数の分布が異なる。電源も18Vのもの。10バンド。±12dB。


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■ローピッチチューニングのパンデイロの場合

高音部、中音部、低音部にそれぞれの音色を特徴付けるためのピークがあります。これは、奏法上の高音(ジングルの音)、中音(皮の強い音)、低音(皮の伸びのある音)に対応しています。パンデイロでは他のドラム向けのカーブに比べて高音部とそれ以外との高低差が極端になっているのが特徴です。つまり、cubemicでは胴からのジングル音の収音が極端に低バランスだという事です。低音部に比べて高音部が30dB程度持ち上がっているので、ペダルエフェクター製品でこれを実現するには、もしかしたら複数の製品を組み合わせるとかマルチエフェクター内でイコライザーを複数回使って実現する事になるかも知れません。締まった皮の音を得るためにローカットしています。締まった皮の音を得るにはローカットかコンプレッサーの適用が良い様ですが自然な響きのドラムに向いたコンプレッサーはペダルエフェクターでは得づらいかも知れません。


■ハイピッチチューニングのパンデイロの場合

ローピッチチューニングのパンデイロとピークの周波数が少し異なりますが、基本的な考え方は同じです。このドラムに限らず共通の話題ですが、ペダルエフェクターで高音部や低音部のピークを作れない事により再生音が活き活きした感じにならない場合には、エンハンサーを利用して同じような周波数の存在感を強調するのが手軽で良いのではないかと思います。また細かい設定が可能なら、高音部の存在感を増すためにもコンプレッサーは活用出来ます。カッティングギターやベースギターに用いる積極的なコンプレッサー利用とは異り、自然な響きのための活用法です。


■カンジーラの場合

カンジーラに関しては、フラットなままでも割と元からの楽器の音が得られます。ただオンマイク的な低音が強調された音にしたくないという希望があったので、低音部を整えています。また、5kHz前後のピークは皮の表面のはじける様な感じ、15kHzあたりのピークはジングルの金属素材の軽やかな部分に対応していて、これらを少し強調するによっても、皮の伸びる音以外を埋もれさせないで、より自然な響きになるようにしたいと思いました。低音以外の要素に注意が払われていない音作りは聴き疲れしますし眠い感じになりますから、可能ならこういう細かい調整が出来る環境を選んだ方が良いのではないかなと思います。


■レクの場合

ここでのトピックは、中高音に大きな下向きのピークがある事かなと思います。レクは厚い枠に大きめで厚いジングルが備わっているのですが、それらがぶつかる鈍い音が収音されてしまうのをcubemic設置の工夫だけでは避けられないため、活き活きしたジングルの音と皮の音との中間の鈍い音を、皮の音の良さに悪影響を及ぼさない範囲で削りたいというのが趣旨です。中低音の皮の音にふたつのピークがあるのは、オープン奏法でのまとまった皮の音(低音側)と皮の周囲で得るはじける様な音(高音側)に対応しています。全体的に軽やかな感じが好ましいので、急なカーブでローカットされています。


■16インチタールの場合

ダフ(枠の内側に金属製のサワリが一周している)もベンディール(皮の裏側にテグスがスネア線として渡してある)も、ひとまずこの設定を使うつもりでした。基本的にはフラットなままでも元の楽器の印象の収音は得られるのですが、胴を叩くコンコンという音が鈍くならない様にとか、皮の縁での音が軽やかに響く様にとか自然な奏法を前提にある程度広く考えると、強調しておいた方が良い周波数はいくつかあるようでした。ローカットについては、ソロ演奏でフレームドラムらしい低音で場を満たしたい様な場合と、屋外で少し離れたところからアンサンブルを聴く時のようなすっきりした感じを得たい時とで、扱いは変わりそうです。この時は、低音にまとまり感と表情を残しつつ、PAを埋めてしまう様な伸びはない方が良いんじゃないかなあという感じの考えだったと思います。


■レクのような大きなジングルの羊皮タンバリンの場合


胴から伝わるジングルの音がcubemicにはバランス上小さいので、やはり持ち上げています。ここでは3kHzくらいから上がそうなのですが、イコライザーの、この周波数周辺での振る舞いが変わるとジングルの音が野暮ったくなったり軽やかに感じられたりします。この中高音にある境目の周波数とカーブの緩やかさがそのドラムに合ったものかどうかが、ジングルの存在感が大きいドラムに活用出来るかどうかの肝かなあと感じます。500Hzにピークがあるのは、皮の音にまとまり感を得るため。ローカットしてあるものの緩やかなのは、生皮のフレームドラムらしい低音の伸びやかさを、このドラムでは残したかったからです。


■パンデレータ小の場合

胴を叩く音とスラップなどの強い皮の音の”おいしい部分”の軸を中高音に設定する事、中低音にあるまとまった皮の音の輪郭が届きやすくするためにその前後を落とし目にしてある、締まった音の印象になるようにローカットしてある、という感じで、基本的にはフラットでもその楽器らしい音が収音出来るようです。多分コンガやボンゴもこんな感じになるのではないかなと思います。


■パンデレータ中の場合

パンデレータ小と基本的には同じ。低音の皮の音のまとまり方の個性が異なるので、そこに対応しています。ローカットはしていますが、小中共に、皮の中央を平手で押し叩いた時の「ドシン」という感じは残してあったと思います。


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そんな感じです。本項でフレームドラムにイコライザー設定を施す場合の視点がどのようなものかお伝え出来ていれば良いのですが(私のDAWでの設定例はお手本的に優秀なものでは無いかもしれないのですが、そういった目的で公開しました)。

ところで少し前まで売られていたEQ-20は、当時は中途半端な気がして入手しないままだったのですが、今となっては「持っていたら良かったかもな……」という感想です。これをcubemic楽器とミキサーとの間に置いて、ミキサーでは少しのリバーブを掛けられたら、それでセッション用の身軽な装備になりそうにも感じました。
複数系統でcubemic運用するなら、オーディオインターフェイスとコンピュータの組み合わせの方がかえってコンパクトで良いのでしょうけれども。


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