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ロングヘアと実用性の狭間

今、人生で一番髪が長い。社会人になりたての頃は肩下あたりをうろついていた毛先だが、4年の時を経てあっという間に肩甲骨を通過し、現在尾骶骨に達している。

思えば髪を伸ばして数年、久しぶりに会う人からは挨拶のように「髪、伸びたね!」と声をかけられた。同じくらいたくさん「乾かすのとかケアとか大変じゃない?」とも言われた。そのたびにそうなんですよねアハハ、と曖昧な返答をしていたが、正直に言うともっぱら自然乾燥に任せており、丁寧にブローなんでめったにしていない。翌日なにかしらの予定があって髪をつやつやサラサラにしておきたいときはドライヤーでしっかり乾かし、大量の抜け毛を生み出しながら梳かすが、普段はもっぱら放置である。バスタオルで水気を絞って、風呂を出て2時間程度放っておけば、とりあえず風邪をひかない程度には乾くので、それでよしとしている。なので人からねぎらってもらうほど手をかけていないのが現実だ。マメという言葉が裸足で逃げ出すような性格のため、このくらい手がかからないようじゃなきゃ実現できていないのである。なじみの美容師さんには「こんな雑なやり方してても髪が傷まないのは完全に髪質のおかげだから、調子に乗らないように」という、ありがたい小言を頂戴しているが、髪質の提供者である母にサンキュー!と思っただけで何も改善していない。髪も生え主(?)がこんなんで災難である。

そもそもなぜ髪を伸ばしていたかというと、身も蓋もないが実用的だからである。まず、朝の準備が楽だ。あくまでに自分ベースの感覚ではありが、髪が長ければ長いほど、寝ぐせがつかない。ショートカットやボブくらいの長さだと、朝起きたときに毛先がとんでもない方向を向いており、毎朝直さなければならない。その点ロングヘアであれば、前髪だけ整えればあとは手櫛でもなんでもちょいちょいっと梳かせばそれで事足りる。華やかにしたかったらアイロンで二巻き三巻きでもすればよい。朝はぎりぎりまで寝ていたいので、これは大きなメリットである。
また、シルエットが手軽に女性らしくなるのもよい。日本においてはロングヘアの男性がとても少ないため、「髪が長い=女性」という見方をする人が多いと思う。女性らしいファッションというのは得てして不便が多い(服の着心地がいまひとつ、ヒールで足が痛い、メイクに手間がかかる等々)のだが、髪が長いだけでなんとなく女性らしさが嵩上げされる気がするため、他の場所で手を抜くことができる(と思う)。実際にどう思われているかはわからないが、ロングヘア万々歳である。

ただ、尾骶骨に届くレベルで長くなると日常生活の中で髪(というか毛髪)が思わぬ存在感を出してくることがある。たとえば屋外を歩いていて、なにかを落としたものを拾うとき。こっちはただものを拾いたいだけなのに、かがんだ瞬間髪の毛先が地面についてウワアと呻くことがある。抜け毛の問題も大きい。居間の床に落ちているのは言わずもがな、風呂掃除をして排水溝の髪を取り浴槽を磨き上げてフウと息をついた瞬間、足元に髪が何本も落ちているのに気づいたときのあのガッカリ感よ。
量も量だがその神出鬼没さも侮れない。冷蔵庫の中で自分の髪を発見したときには、毛根から切り離された髪がどんなルートでそこにたどり着いたのか首を傾げた。もともと潔癖症の気はないし、床の埃なんかは気にならないたちなのだけど、そんな自分ですら落ちている髪にイラっとすることがままある。排出元も自分であるため、イライラの向けどころがないのも困る。

ロングヘアの実用性にまつわる自説は、抜け毛という事象のもとに揺らぎつつある。面倒だし髪、切ろうかな。


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