うそんこ地学事典 7. カルスト

カルスト:私は、毎日毎日、忙しく働いていた。上司の要求も、不平を言わず、残業もいとわず働き続けた。出張に行けといわれれば、どこへでも赴き、安ホテルで洗濯・自炊をしながら、役所との交渉や、現場の調査に向かった。そのころ会社は、極度の人員不足に陥っていた。彼が休みを取れば、多くの仕事が同僚への負担となるのは、明かだった。特に特技も技術も持っていない彼は、転職できる可能性もあまりなかった。私は、人生に絶望していた。その日は、朝から雨が降っていて、気分も最悪だった。それどころか、家を出るとき、仕事に遅れると、慌てて出てきて、傘さえ持ってきていなかったのだ。「だめだ。。。もう動けない。動きたくないんだ。」彼は心の中でそう叫んで、雨の中に立ち尽くした。私はずっとそこに立ち止まるつもりはなかった。ただ疲れていたから、ちょっとだけ休むつもりだったのだ。「まあ、軽いストライキさ。でも、しばらくして気力が満ちてきたら、またがんばるから、しばらく休ませてもらおう。」そう思って、近くの石の上に座り込んだ。。。  それからどれくらいの時間が経っただろう。目を覚ますと、座り込んだ石から立ち上がれない。「おかしい。体が石のように固い。動くことができないぞ。」よく見ると体のあちらこちらに穴が空いている。「いったいどうしたんだ?」自問自答していると、座り込んだ石が声をかけた。「君は、僕の上に3年も座っていたんだよ。」石の上に3年座ったから石と同化して、君も石になってしまったんだ。石の上にも3年座ると石になるって、子ども頃聞いたことがあるだろ?」「いや、それは石の上にも3年座るくらい辛抱強くしろという意味でしょう?」「とにかく、君は石になったんだよ。僕は石灰岩だから、君も石灰岩の体になったんだ。おめでとう。3年間降り注いだ雨で、君の体にはいくつもの穴が空いて、ドリーネだらけになっているんだ。」その姿のことをカルストと言うんだが、「石灰岩の上で、軽いストライキをした人はみんななるんだ、カル・ストにね。それがイヤなら、軽いストライキなんかするんじゃないよ。」その声を聞きながら愕然とした私は、絶望のあまり気絶してしまった。そして、目覚めたら。。。決まっているじゃないか、この手の話は。。。石に座る前の自分に戻っているのさ。。。と安心していたら、いつのまにか、秋吉台のカルスト台地になっていた。