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10. ジオパークにおける地域振興

私は、これまでの章において、ジオパークのグローバルな役割を強調しすぎていたかもしれません。私はジオパーク活動において、地域振興が重要な要素であることを決して否定しません。持続可能な地域振興は、ジオパークにおける重要な柱であることは、疑いの余地はないのです。ただ、以下のような前提条件が若干必要だと考えています。


①  地質遺産の重要性を理解していること。

これは、口先で「地質遺産は重要です。そんなことは知っています。」と言うことではありません。それぞれの地域にある地質遺産が、地球の記憶として、どのような意味をもち、それが地球システムの中で、そして人類にとって、どのような役割を持つ物であるかを理解していることが大切です。このことを理解するためには、地域の地質遺産について表面的な説明ができるだけではなく、地球の歴史や働きについて、広く学ぶ必要があります。

②  地質遺産の保全・保護の取り組みをベースにすること。

ジオパークの基本(ベース)は、地質遺産の保全・保護です。地域振興より上位にある基本理念です。その取組をおろそかにして地域振興に邁進すると、それはもはやジオパークではありません。その中には、岩石などの地質物品の販売の禁止も含まれます。

③  共に豊かになることを目指すこと。

ジオパークには、パートナーシップという重要な要素があります。パートナーシップは、1つ1つの地域の活動をネットワーク全体で支えるという地域にとってありがたい側面もありますが、1つ1つの地域がネットワーク内の他の地域も支援する義務もあります。自分の地域が豊かになることに注力することはもちろん必要ですが、同時にネットワーク内の他の地域もともに豊かになることを目指すという意識を持つ必要性もあるでしょう。

④  ジオパーク教育を正しく行うこと。

地域振興を優先する余り、子ども達に稼ぐことばかりを教えていてはいけません。ジオパーク教育は、地質遺産を活用して、地球のシステムや、現在人類がおかれているグローバルな危機について、正しく伝え、そのなかで地球を支える人を育てるような環境教育を行わなくてはいけません。それは、難しい授業を行うことではなく、地域の野菜や魚、肉などを使った食育であったり、自然の中で体を動かすことで、自然の豊かさやそれを守る大切さについての学びだったりするべきです。そのような自然学習があれば、地域の地層や岩石について、地質学的な説明を丸暗記するような教育は、あまり必要は無いと思います。

⑤  多様な要素を組み合わせて、ジオパークを表現しよう。

最近のジオパークでは、地質遺産だけではなく、文化遺産の重要性も強調されています。地域の地質遺産が示す風光明媚な風景を強調するだけではなく、民話や伝統工芸品、祭りなどを活用して、地質遺産とセットで観光を振興することが望ましいでしょう。また、地元の農産物と料理の伝統を伝え、食に興味を持つ層の開発も必要です。地元のアーティストと連携し、イベントやワークショップを行うなど、地元のアートシーンを活気づけることも、必要かもしれません。豊かな自然を活用したウェルネスリトリートも重要な観光要素となりうるでしょう。野外でのヨガやピラティス、ウォーキングや瞑想などは、地質遺産の活用による心身の健康に役立つと思われます。

⑥  社会的弱者にも目を向けよう。

健常者だけではなく、後期高齢者や身体障害者を観光に取り込むことも考慮して欲しいと思います。ジオパーク地域は、複雑な地形を有していることが多く、バリアフリー化することが困難な場所が多いのが実態です。最近は、観光地をバリアフリーにするのではなく、訓練を積んだガイドを養成し、障害がある誰もが希望する観光ができるようにするアダプティブツーリズムの重要性が高まっています。これまで行くことが困難であった美しい自然を訪れたいと思う後期高齢者や身体障害者は多数いると思います。彼らは、必ず家族や同伴者とともに観光します。その意味で、ジオパークへの訪問人口を増やすポテンシャルとしては重要な対象者となりうることを考慮して欲しいと思います。

上記のように、ジオパークの基本理念をきちんと理解し、地質遺産の保全やジオパーク教育をしっかり施した上で、多様なツールを活用した地域振興によって、ジオパーク全体がともに豊かになるような活動が望まれます。

ジオパーク活動を通じて、厳しい社会情勢に立ち向かい、明るい未来を地域にもたらそう。