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8. 自治体という家族の中のジオパーク

ジオパーク全国大会で、私が個人的に衝撃を受けた事件がありました。(注:私の勘違いだったり、誤解だったりする可能性があります。ご容赦ください。)それは、ポスターセッションで、高校生の発表を聞いたときのことでした。その高校生は、自分が考えた地質遺産を活用したイベントを熱心に説明してくれました。そして最後に、「僕は、いろいろなイベントを開発して、沢山儲けて、地域に貢献したいと思っています。」と言う言葉で締めくくりました。この地域のジオパークの方々は、このような若者の登場を大歓迎で、ジオパーク活動の成果として、賞賛するのでしょうか?私はただただ愕然としました。ジオパークが若者に伝えることは、「儲ける」ことではないと考えているからです。もちろん「儲けて」地域に貢献することは、悪いことではありません。むしろ良いことでしょう。でも、それはジオパークの中核の活動ではないと考えています。むろん、この考えに反対する人々が多いことは、知っています。ですから、地域経済の発展に真剣に取り組んでいる自治体の方々が、そのように訴えることには、さほど驚きません。ただし、未来を背負う若者が、ひたすら「儲け」を強調する姿に愕然としたのです。

実際にジオパークで苦労されている方や、少子高齢化対策等で日々悩んでいる自治体の方には、申し訳ないのですが、自治体のジオパークの運営には少し違和感を覚えています。そこで、以下のような物語を作ってみました

自治体には多くの部署があります。この組織を1つの家族だと考えてみましょう。市長や町長さんがお父さん、副市長や副町長さんが、お母さん。市役所の各部署と同じように、兄弟やおじいさん、おばあさんにもそれぞれ役割があります。ジオ子さんは、1番末の娘です。他の家族より経験が浅い代わりに、新しいことにチャレンジする意欲が満々です。ジオ子さんは、インターナショナルスクールUGGpで、学んでいる小学3年生です。学校では、校庭の石を大切にして勝手に売り払わないことや、世界中の友達を大切にすることなどを学んでいます。そして何より、この学校で、地球の歴史や地球全体から地域を眺める広い心を学びました。心が世界に、宇宙に広がっていく喜びを感じています。最近このインターナショナルスクールに、学校見学に多くの人が訪れるようになりました。このインターナショナルスクールがユネスコの優秀学校に認定されたためです。学校では、地質遺産の授業で1番成績がよかったジオ子さんに、訪問者の案内を任せることにしました。校庭の石が如何に地球の歴史を記憶しているかを丁寧に説明し、地質遺産の重要性を伝え、世界のインターナショナルスクールがネットワークで繋がることの大切さを売ったました。とても評判がよかったので、インターナショナルスクールUGGpでは、ジオ子さんにお小遣いを挙げることにしました。その話を聞いたジオ子さんのお父さんは、ジオ子にインターナショナルスクールの見学ツアーをジオツアーと名付けて、もっとお小遣いを稼ぐように、言いつけました。学校では、勉強しないでいいから、見学ツアー担当で、稼げるだけ稼ぎなさい。そして、我が家の家計を助けるように厳命されました。こうして、ジオ子は、学校に行っても、友達とは別の部屋で、見学ツアーの準備に明け暮れて、いつの間にか、広い心も、明るい笑顔もなくなっていきました。

元JGN事務局長であった糸魚川市の斎藤誠一さんが、全国大会の基調講演で、ジオパークが観光で、地域経済に貢献する重要性をお話されました。そのこと自体は、とても重要だと思います。斎藤さんのお話の重要な点は、斎藤さんが観光部署に異動したことで、ジオパークを使って、地域振興を図ることに専念しはじめたということです。これは、当然のことと思います。ジオパークの理念を知り、広い心を持った斎藤さんが、観光部署において、地域に多大な貢献をするであろうことは創造に難くありません。重要なことは、斎藤さんが、観光部署に移って、ジオパーク時代とは異なるスタンスで仕事に当たっているという事実です。ジオパーク時代は、地質遺産の保全保護や教育、ネットワーク活動など様々な業務に携わっておられました。立場によって、仕事のスタンスが変わることは当然です。この事実を逆に捉えると、現在のジオパークに所属する方々は、ジオツアーなどの観光だけがお仕事ではないことが分かるはずです。ジオパークは、地質遺産の保護、地質遺産の大切さを伝える教育、国内国外のネットワークにおける貢献など、ジオツアー以外に多くの役割があり、その1つ1つの重要性に変わりはないということです。そこを勘違いしていると、地域振興におけるジオツアーは重要だが、何故岩石販売をしてはダメなのか?岩石を販売することも、地域振興の1つではないのか?と言った意見が出てきます。

 もう一度、自治体という家族を見てください。観光をする部署もあれば、地域の人々の健康を守る部署もあります。子ども達を教え導く教育の部署もあります。そのすべての部署が、地域振興のためにお金を稼ぐミッションを有している訳ではないはずです。ジオパークは確かに、ジオツアー等で地域振興に役立ちますし、その重要性は理解しています。しかし、ジオパークという業務はそれだけではないことも理解して欲しいのです。ジオパークは、心を広げる活動だと私は思っています。心を広げるだけでは、お腹は膨れない。そう言われれば、そうかもしれません。逆に言えば、お腹を膨らせる(儲ける)でけで、心の狭い人々で家族を構成した場合を創造すれば、どんな社会が生まれるか、想像してみてください。どちらかだけではダメなのです。そして、ジオパークはその両方の機能を持っています。ジオパークのユニークさを十全に活用する方法をみんなで模索し続けて欲しいと思います。

ジオパークには、ジオパーク独自の役割があることを、もう一度見直しましょう。