民主党の思想

 アメリカは今民主党陣営と共和党陣営の二つの勢力に深く分断されているらしい。とはいえアメリカという国は100年以上前から二大政党制であり、社会の隅々が二つの政党の影響を受けており、政党とアメリカ国民との結びつきは以前から強い。分断は過去にもあっただろうしそれほど騒ぐものでもない。そういう風に解釈することも可能だ。

 目の前で起きている社会現象は、歴史を参照することで過去にも似たような状況があったことは理解できるが、それでも今の現象は過去に一度も起こらなかった初めての出来事なのだ。当たり前のことなのだが、現代社会は歴史があまりに過剰になりすぎたために、歴史を参考にして論説を唱えることがあらゆる場面で強要される。その結果、目の前の現象は過去に類例のない新奇な現象として捉えることを躊躇する風潮が支配的になっているように感じる。知識人はとにかく歴史を持ち出さないと気が済まないらしい。それが仕事だからしかたがないと言えばそれまでだが、過去と現在に共通点を見出して現在の状況に批判的態度をとるだけで、結局は今生じている問題の解決にはあまり関心がない、そういう知識人の態度は何度も見てきた。彼らは歴史を俯瞰することに慣れすぎている。遠い過去から今日までを見事に俯瞰して、今日の問題を歴史の二、三の例と類似していると説き、過去に同じようなことは起こっていたのだからあわてることはないというような結論で終わりにしたがる人は少なからずいる。学者はいつも俯瞰している。それが学者の仕事と言えばそうなのだ。彼らは本を読むのが仕事だ。本を読みすぎると俯瞰的視点で考えることが常態化する。歴史の流れには詳しくなるが、彼らは現在の人々が生きている社会にはあまり目を向けなくなっているように見受けられる。歴史を学びながら、かつ現在の社会の動向を的確につかみ、さらに歴史と現在を結びつけるのは難しい作業だ。

 話が逸れた。もとはアメリカの分断について論じていたのだ。今日のアメリカでは民主党勢力は、人種平等(黒人、イスラム教徒などの養護)、男女平等、同性愛差別反対、フェミニズムやリベラリズムの養護、都市型サービス業のための政策推進、移民受け入れ推進、婚姻制度解体、温暖化抑制のための再エネ推進、大きな政府などである。共和党勢力は、現実的な人種別対策、現実的な男女別政策、一定の同性愛容認、過剰なフェミニズムやリベラリズムは批判、地方の農工業のための政策推進、適切な移民受け入れ、結婚制度保持と家族制度の養護、温暖化対策は保留して化石燃料と原発を使用、小さな政府などである。二大勢力の対立を極端に書くと、都市対田舎、サービス業対農工業、男女平等対緩やかな男女不平等、フェミニズム対パターナリズム、人種平等対緩やかな人種不平等、グローバリズム対ナショナリズム、環境保護対環境無視、結婚制度解体対保護、中絶容認対反対、LGBT支持対不支持、自由主義対現実主義などであろうか。民主党勢力の方は現在よりもさらに自由と平等を実現し、よりよい世界を目指そうとしているが、共和党勢力はあくまで現在の状況を守るためにあまり社会を変えない方が良いと訴えているように見受けられる。

 人種、性、国籍、宗教などによる差別を撤廃し、信教、学問、思想、言論、結婚、出産の選択の自由を推進し、行き過ぎた技術開発のために荒らされた地球環境を保護し、できるだけ政府の役割を増やすべきだという思想は今の民主党を支えるものだと思う。この思想はおそらく60年代の公民権運動あたりから始まったものだろう。だが、その根源を探っていくと、17世紀イギリスのロックの自由主義思想があり、さらにこの思想を土台にして起こった三大市民革命があると考えられる。よって、今日の民主党が唱える政策の根底には17世紀あたりから直線的に続く自由主義的進歩史観があると私は考えている。この進歩史観は未来にユートピアを設定し、そのユートピアの実現に向けて努力すべきだと説くものであり、これはキリスト教の教義に由来しているのだろう。また、進歩史観は17~19世紀の間顕著であった科学と技術の発達によってより強化されたが、20世紀後半になり科学技術が地球規模になり環境への影響が大きくなることで、自由主義的進歩史観は科学技術と袂を分かちむしろ科学技術を場合によっては批判する側に回り始めた。これらのことはすでに私は書いた。

 自由主義的進歩史観は3つの革命を起こし、独裁体制を排除して権威主義を打破し、国家に君臨する王を駆逐することを可能にした。だが、60~70年代あたりから始まった少子化の流れを促進したのも自由主義なのかもしれない。自由主義は国家に存在する階層性を排除して、すべての国民は平等だという思想を共有することを可能にした功績はあるが、家庭の構造まで改革をしようとしたのは失敗だったかもしれない。今では国内の人々は皆平等であり、最低限の人権は保障されるという意識はほぼ当たり前のこととして見なされている。その状況よりさらに前進して、移民の権利や男女平等などの新しくより高度な人権意識を植え付けようとして上手くいかなくなっている。

 先進国はどこも少子化から抜け出せない。先進国は、社会保障制度と医療制度の破綻、自国民減少と移民増加によって生じる異文化同士の軋轢と治安悪化と内乱が今後の懸念点である。また先進国の人口減少と新興国の人口増大による国際社会のパワーバランスの変化も今後問題となるだろう。おそらくこの流れは止められない。なんだか同じことを書いている気がする。

 それにしても自由主義に対抗する共和党陣営は骨となる政治思想がいまいちはっきりしない感じがする。過去のナチズムやファシズムとの連続性があるかと言われると少し違う気がする。今日の二つの政治勢力が分断したのは60年代あたりなのだろう。だとすると、共和党陣営もロックの自由主義は前提としているということなのか。このあたりはまたいずれ考えることにする。

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