NP名人伝

東京の一流大学に地方進学校から入学したシマウマが、天下第一のニューズピッカーになろうと志を立てた。己の師と頼むべき人物を物色するに、当今ピックすることをとっては、ホリエモンに及ぶ者があろうとは思われぬ。一言コメントをするに、コメントランキング入りすること百発百中という達人だそうである。シマウマは遥々ホリエモンを訪ねてその門に入った。

ホリエモンは新入の門人に、まず「半年ROMれ」と命じた。シマウマは大学の寮に帰り、ベッドの上に、文字入力ソフトがインストールされていないスマホを片手に、仰向けにひっくり返った。政治に関する記事に脊髄反射コメントをしたくなってしまうのをじっと我慢できるようにという工夫である。理由を知らないFacobookの友だちは大いに驚いた。第一、せっかくパーティで盛り上がった写真を投稿しても、いいねしかもらえないのは困るという。厭がるFacebookの友だちを叱りつけて、無理にいいねで返信した。来る日も来る日も彼はこの可笑しなスマホでNewspicksにコメントせざる修練を重ねる。半年ののちには、東京都議会の闇について触れたNP特集記事を読んでもコメントする気を覚えぬほどである。彼はようやく寮のベッドから這い出す。もはや、いじめ自殺に関する教育委員会の対応に関する記事を読んでも、周辺の状況を考察するだけでいた。不意に暗号通貨に関する素っ頓狂なコメントが目に飛入ろうとも、彼は決して反論コメントをしようとも思わない。ついにパソコンでニュースに関連する情報をググるようになるに及んで、彼はようやく自信を得て、師のホリエモンにこれを告げた。

それを聞いてホリエモンがいう。半年ROMるだけではまだNPの奥義を授けるに足りぬ。次には、大喜利することを学べ。大喜利することに熟して、さて、「ハゲ」という文字をみることAAの如く、「おっぱい」をみること長文コメントのごとくなったならば来たって我に告げるがよいと。

シマウマは再び寮に戻り、PCの前に座ると2chブラウザを起動し、ニュー速+板を開いた。そうして、ニュー速+民のニュースに対する反応を終日睨み暮らすことにした。毎日毎日彼はディスプレイに映るニュー速+民の書き込みを見詰める。始め、もちろんそれは荒らしコピペに過ぎない。二三日たっても、依然としてただの罵り合いである。ところが、十日余り過ぎると、気のせいか、どうやらそれがほんの少しながらホモスレのように見えて来たように思われる。三月目の終りには、明らかに変態番付の格付けで盛り上がっているように見えて来た。PCのある部屋の窓の外の風物は、次第に移り変る。有料会員サービスが始まり、匿名ユーザーが幽霊化したと思えば、はや、proピッカーが炎上コメントをしてnewspicksから退出していった。シマウマは根気よく、ニュー速+民の書き込みを見続けた。2chブラウザのタブを何千と重ねていくうちに、いつしか三年の月日が流れた。ある日ふと気が付くと、大分合同新聞のスレがネコのコラ画像披露大会のように見えていた。占めたと、シマウマは膝を打ち、ChromeでNewspicksページを開く。彼はわが目を疑った。ライフハッカー記事のタイトルはお題だった。有料会員資格は有料記事における大喜利参加資格の如く、動物園記事は動物AA貼り付けスレと見える。雀躍してNewspicksアプリにとって返したシマウマは、Smartnewsに現れた下ネタ記事を探し出し、「やりますねえ！」というコメントと共にファーストピックすれば、スレは見事に総合トップ入りして、しかもコメントのlikeは3桁はくだらない。

シマウマは早速師のホリエモンの許に赴いてこれを報ずる。ホリエモンは高蹈して胸を打ち、初めて「出かしたぞ」と褒めた。そうして、直ちにNewspicksの奥儀秘伝を剰すところなくシマウマに授け始めた。

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