虫我
渋谷駅、前を並んでいる女性の肩に凄まじい大きさの蛾がとまった。
羽を広げると蝶々の様に横に開く形の蛾ではなく、アメリカの戦闘機の様な、あのソリッドなタイプのやつ。
もう少し大きかったらナウシカで見切れてもおかしくないサイズのやつ。
そういう時の女性の視聴率は高い。肉眼で蛾を確認出来る人は皆見ている。
僕は真後ろだったので特等席で見ている、
助ける訳でもなく。
女性は蛾に気づいて、払う。
周りの視線にも同時に気づいて、なるべく大きなリアクションを取らずに払おう!そう見えた。
内心バクバクなんやろうな〜ソリッドなタイプやもん。
その蛾が次のとまり木を探し飛ぶ。
特等席の僕の元へ飛んで来た。
僕は虫が無茶苦茶に苦手だ。だから余計に気をはっている。
飯屋に行ってゴキブリなどを見つけるスピードは尋常じゃない。常に想定して意識しているからだと思う。
見つける速さからして逆に好きなんじゃないかってくらい嫌いだ。
そんな僕の元へソリッドに飛んで来る。
シャレならんくらい大きいリアクションをしてしまった。
それはそれは痛々しいくらい。肉眼で蛾を確認出来ていなかった人も僕の異変には気付くくらい。
僕はそのシャレならんくらい大きいリアクションのせいで蛾を見失った。敵から目を離すのは本当に危ない。
付いているかもしれないので肩や首筋、背中などを手で払った。
かもしれない払いをしてるな〜の視線満載の中で。
こういったのには慣れている。いつものこと。
僕は何事もなかった様に電車に乗り込み座った。
先ほど肩をとまり木にされてた女性も先ほどまでとまり木ではありませんでしたみたいなすまし顔で座っていた。
車内に虫がいるととてつもなくソワソワするが、さっきまで騒がしてた虫が車内へ入って来れなかったとなるとこんなに落ち着く空間はないくらい居心地が良い。
車内に人が増えてきた。
僕は携帯をイジりiphoneをパソコンなしでバックアップする方法を調べることに没頭した。
電車が走り出し、前の席を見るとめちゃんこに可愛い子が座っていた。
めちゃんこに可愛い子やな〜。と思った。
バックアップに集中集中!!
視線を感じ顔を上げる、めちゃんこに可愛い子と目があった。こっちを見てた。
めちゃんこに可愛い子やな〜。と思った。
あかん!あかん!バックアップバックアップ!集中集中!!
パッ、めちゃんこと目があう。
めちゃんこ、めちゃんこ見てくるやん〜。
めちゃんこに見てくるめちゃんこに可愛い子やな〜。と思った。
最寄駅に着いた。
アイスコーヒーとタバコでも買って帰ろう思い、コンビニへ寄った。
0時を回っていないくらいのコンビニは混雑していた。930mlの無糖のアイスコーヒーを手にしてレジに並んだ。
レジに並んでいる間に財布を出そうとしたその時、首元に異変を感じた。
その瞬間に周りの視聴率を独占していることに気づいた。
大きいリアクションを取らずになるべく焦ってませんよ感を出して、首元にかもしれない払いをした。
事故ってた。
めちゃめちゃ大きいソリッドが手に当たる感触があった。
全てに合点がいった。
めちゃんこ可愛い子はめちゃんこデカいソリッド見てたんや、
自分のとこに飛んでくるかもしれない一心で、
かもしれないガン見やったんや。
はっず。虫着いてるのに気づいてない男いっちゃんキモいやん。
家帰ってすぐ風呂入った。
汗も恥も全部流した。
汗しか流れへんかったとさ、はずかし、はずかし。
虫が我にとまる。ってのもお後よろしかったかな〜。
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