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脳天直下ぐわんぐわん

どうも、ネコニスズのヤマゲンです。タイタンというお笑い事務所に所属する芸人です。

Twitterとinstagramです。いまいちここへの載せ方わからんのよな〜。
よかったら見て下さいー!宜しくお願いしますー!

19歳のとき、人生ぐわんぐわんになるくらい揺さぶられることが起きた。
マニーパッキャオに顎撃ち抜かれるくらいぐわんぐわん。

その日はバイトの初出勤日やった。
18時から家の近所の居酒屋勤務。
実家でぼちぼち緊張しながら映画ALLWAYS三丁目の夕日を家族と見ていた。
和みながら緊張していた。和緊!
もうちょいで見終わるくらいのところで家を出た。

家からチャリで10分もかからんところ。
挨拶をして制服に着替える。割烹着みたいな制服。そして新品の長靴。
タイムカードを押して、店長に
「なにからやれば良いですか??」
「え、それフリ??ボケなあかんのかな?」
僕は芸人を目指していた。吉本の養成所に通っていた。
その旨を全部面接で話していたので芸人専用の返しみたいなのが店長の中であった。
「いや、フリちゃうわ!」こういうの交えながら働いていくんか〜。嫌やな〜。
「じゃ、その下の冷蔵庫に入ってる付きだしを上に補充しといて〜」
4枚扉の大きな冷蔵庫。その下の冷蔵庫から付きだしが20個くらい乗ったトレーを取り出し、上の冷蔵庫に移そうとしたとき。

ガシャーン。パリンパリン。
僕は豪快にコケて付きだし全部こぼした。器もほとんど割ってしまった。
「いや、ボケにしたらやりすぎ!!」と店長。的確なツッコミ。確かにやりすぎ。
ボケでも何でもなかった。起き上がろうとした。
体が動かなかった。
その瞬間とんでもない頭痛が襲ってきた。
アイスピックで目を刺されるような痛み。
僕は手で目を押さえていないとどうかしてしまいそうやった。
自分のことで精一杯で周りの音が聞こえてなかった。
少し笑いが起きていた。
芸人志望の奴が入って来て一個目の仕事で付きだしぶちまけたらそりゃ笑う人もいるか。時刻は18:05。豪快なデビューや。
でもボケやないんよ。
店長はまだツッコんでいる様子。的確に味をしめた。相当長いツッコミの人やな。欲しがりさんやった。
僕は「救急車呼んで」と敬語も使ってられないくらい一刻を争っていた。
でもウケた。
僕の発した「救急車呼んで〜」は呂律が回ってなく、
「くーくーひゃひょんで〜」になっていた。
これはいよいよやと思った。本当にこの時にあ、これ脳系やと瞬時に理解した。
店長は「なんて言うたんや!!」まだツッコんでいた。
これがボケならこんな豪快にボケ倒す従業員はクビにしたほうが良い。花月食堂くらいボケる従業員が現実世界にいたならだいぶ迷惑や。
僕は完全に勘違いされてることに恐怖感を覚えた。
これ救急車呼んでもらわれへんかったらまぁまぁヤバいんちゃうん?
頭痛を我慢し、もっと大きい声で「くーくーひゃよべー!!」と叫んだ。
すると従業員の中で1番ギャルの子が
「え、これリアルにヤバない?顔色悪いやん、救急車呼んだ方がえぇって絶対!」
ギャルエクセレント!ファインプレー!おおきにをデコってプレゼントしたいわ!
ノリの違いがわかるギャル。鼻が効くギャル。このギャルのご先祖様にも感謝します。

しばらくするとくーくーひゃが来た。
僕はくーくーひゃに乗り込むと同時に両親もきた。
店長が連絡してくれたらしい。ツッコみは長めやったけど、やるときはやる人やった。ありがとうございます、感謝してます。
おかんの顔がいつもと違い不安でパンパンやった。ハリ刺したら薄皮が弾けて不安って書いてあるんちゃうかってくらい切羽詰まった表情やった。
そうやんな、息子倒れてんもんな。ほんまに心配かけてすんません。

そのまま病院へと運ばれた。
死ぬかもしれないとその時本当に思った。
とてつもない抗えない何かに首根っこ掴まれてた。
ゴンがバチバチのロン毛なったときの相対してたピトーの気持ち少しわかる気がします。
病院へ着いてCTを撮ることになった。
僕はおかんをなんとか笑かさなあかんと思って
「うぉとこまえにとってくらはい」と呂律回ってない精一杯のボケをした。
バカクソにスベった。まぁクオリティーはさておき、これが最後のボケになるんかと思ったら絶対死なれへんと思った。
そら普通にそんなギリギリのやつのそれは誰も笑わんわな。

CTの結果、脳内出血やった。数ミリズレてると半身麻痺でしたね〜良かったですね〜と言われた。自分がそんな瀬戸際にいたことに震えた。
涙がでてきた。
芸人としてなにも出来ていないことに悔しさがたまらんかった。
頭を動かしたらダメなので着替えることもなく即入院となった。

居酒屋の割烹着のまんまベッドに横たわった。
ベッドの横には新品の長靴。
どんな患者やねん。どういう状況やねん。

そこから人生初の入院生活が始まった。
色んな人が来た。
地元の仲間、芸人の同期、親戚。
日替わりで来てくれるお客さんたち。
みんなこぞって甘いもん買ってきてくれる。
Morozoffのプリン全味何周すんねんってくらい食べた。
僕はほぼ寝たきりでプリンを食べる。
1週間で7キロ近く肥えた。
そっから甘いもん差し入れでもらって、甘いもんをお土産としてあげた。
デザート交換場。甘味の謎の還元をしていた。変なサイクルを作り出した。
呂律はすぐに回復した。出血個所の腫れが収まると普通に話せた。ホッとした。

入院中1度だけシャワーを浴びる許可が出た。
何かあったらナースコール押して下さいね、とシャワー室についてるナースコールの説明をうけてシャワーを浴びた。
久しぶりのシャワーでテンションがあがった。気持ちえぇ〜!
テンションが上がったからか、気分が悪くなりシャワー室で座り込んでしまった。もちろん、チンだしで。キンも出てる。
シャワー室にはいたるところにナースコールがついてる。
座り込んでる状態だったので足元にあるナースコールを押した。
なかなか来ない。
再び押した。
来ない。
15分ほど経った。気分が回復して自分で部屋戻った。
正解はこのうちのどれかみたいなことなんか、これ。

より細かい頭の写真を撮ることになった。
造影剤というのを注射して毛細血管まで写真に写しやすくするというやつ。
股関節のところの動脈から管を入れ頭の方まで通す、そこから造影剤を放つ、で撮影する。
造影剤を打ち込む時に
「全部で4回打ちますよ〜、じゃまず右上いきますね〜」
キュインキュインキュイン、ティティティティ、パーン。待って待って!音怖い怖い!!
その瞬間右上が熱くなる様な気がして視界が真っ白になる。
そしてフワッと視界が戻る。
トレインスポッティングのワンシーンで、レントンが上物すぎる薬物打って地面にめり込んでいく感覚のところを思い出した。これに近いと思う。

そう、洒落ならんくらい気持ちいい。
「次右下いきまーす」
キュインキュインキュイン、ティティティティ、パーン。
最っ高。気ん持ちぃぃぃ〜。
「左上いきまーす」
キュインキュインキュイン、ティティティティ、パーン。
いやぁぁぁんん!!もっと来て〜!!!
「はい最後、左下いきまーす」
キュインキュインキュイン、ティティティティ、パーン。
そのキュインキュインからもう気持ち良なってる!やめんといて〜。
「はい終わりです〜。お疲れ様でした。」
はぁ終わった。終わってしまった。
絶対覚せい剤ハマるんやろな俺。絶対やらんとこ。クスリ絶対ダメ!

退院した。
1週間歩かないと人間こんなに筋肉衰えるんやってくらい衰えてた。
アシモと競走しても負けるくらいのスピードしか出なかった。
プルップルしてた。確かにこんな歩かんかったことないなー。
自宅療養をしながら違う脳の専門的な病院に通った。

その病院は日本でも有名な脳外科で、ガンマナイフ治療法っていう最新鋭の治療を受けれる病院やった。
ナノサイズの放射線を何百箇所から当て、焦点が重なった部分を照射することの出来る治療法。
まぁ言うたら頭開けなくても中の治療ができるってことです。
僕はそれを受けることになった。
2、3日の入院でいける。早い。

入院初日。この日はガイダンスを受けるだけ。
ガンマナイフ治療法のVTRを見る。

『〜ガンマナイフ治療法とは〜』優しいフォントでオープニングタイトルが出てくる。
ステラおばさん風の外国人のおばさんがお医者さんに問診を受けてる。ナレーションベースで進んでいく。
ガンマナイフ治療法とは肉体的、精神的にも負担の少ない治療法です。まずは医師から説明を受けます。
このナレーションの次のシーンに度肝抜かれた。
この次のシーンでステラおばさん風のおばさんの顔にめっちゃデカい金具付いてた。
え!?待って。どうやってこんな鉄のやつつけてるん??
そこは写してくれへんの?なにこれ!!
SAWで出てくる拷問器具みたいなってるやん!外国人やからゲームに巻き込まれた感すごいあるねんけど!怖い!!

そっから全然頭入ってけーへんかった。あんな金具つけて負担ないってどういう仕組みなん。痛点ゼロの人間ならの場合やん。
これやで!これがステラおばさんについてたんやで。シュールすぎるやん。

その後病院から支給されたお風呂セットを持って、その病院の大浴場へ行った。
頭の手術やから普通のシャンプーじゃなくて薬用石鹸ミューズを渡された。
大浴場は賑わってた。
昨日の阪神凄かったなー!とか退院してはよ飲み行きたいわー!あんた飲んだらそのまま死んでまうどー!とか色んな会話が飛び交ってた。みんな明るかった。
僕がミューズで洗ってると1人のおっちゃんが「ほな、おさきー!」言うて出て行きはった。
頭を洗い流し、髪がパッキパキになることを気にしながら湯船に浸かった。
結構浸かってリフレッシュして浴場を出た。
さっきおさきー!言うて出て行ったおっちゃんがまだ自分の脱衣所のロッカーまで辿りついていなかった。
アシモよりちょい遅いくらいは全然速いんやな〜と思いささっと出た。
湯で温まったのにあのスピードやったら湯冷めしてまうな〜。
そんなことを思いながら自分の部屋に帰った。
明日のオペへの緊張感が戻ってきた。金具どうなんねや。
寝付きは悪かったが、なんとか寝た。

次の朝、オペ当日。地元の友達が二人来た。
僕は個人部屋だったので、人を気にすることなく招き入れた。
入った瞬間「くさっ!この部屋!!なにこの匂い。」
僕は気づかなかった。
「お前口めっちゃ臭いぞ!!!!」
僕は昨日のVTRの恐怖からくる緊張で未だかつてないくらい口が臭かった。
歯を磨き終えたところでお迎えが来た。
お迎えは看護婦さんが車椅子押して来た。

ふーん、そうなんや〜。帰り歩いて帰られへんねや〜。何が負担すくないじゃ!!嘘つけーー!という気持ちを押し殺して車椅子に乗った。
看護婦さんが「今から頭に装着するのを先に付けにいきますね〜。」
なんやそれ。頭に装着するのを先に付けにいく?絶対一生で一回やこの日本語聞くの。
オペ室について先生から説明をうける。
「数ミリでもズレたら大事故になります。照射部分がズレるということは他の健康な脳を傷つけることになりますので。そのため絶対に1ミリでもズレない様に頭に金具を装着し、その金具と照射する機械を金具でとめます。その頭に装着する金具を4点で頭蓋骨までとめます。」
キラーワードありましたね〜。
Red Spiderでいうとこのパリピ死ね!的なね。
頭蓋骨ですって。
頭蓋の骨ですよ。そこまでとめるんですって、金具を。4点で頭蓋骨。
黒魔術セットの説明みたいですね。ふふふ。

ふざけんなよ!!!!!ここで初めて聞いたぞ!!!!
えぇんかそれ!!!怖いっちゅうねん!!!!!!!!
4点も頭蓋骨までいくん!!??それ大丈夫なん!!??
負担少ない!!??負担少ない治療法に頭蓋骨ってワード入ってくるん!!??

抵抗しても無駄、自分のため。
よし。宜しくお願い致します。

まず先生が4点を決めます。そこを消毒してまずは4点に局部麻酔します。
麻酔が聞いて来たくらいに
「じゃ始めます。痛かったら手を上げて下さいね。」
あ、歯医者のシステムなんや。
頭蓋骨まで刺す尖ったボルトがおでこに当たった。
「痛いです。」速攻で手上げた。
「痛いね〜」先生は手を休めることはなかった。
痛いかどうかの有無だけの確認。なにそれ。
人生で1番痛かったのはと聞かれると迷わずこれです。
ぶっちぎり。独走。痛い思い出界のボルト。駆け抜けてる。
絶対歩いて帰られへん。車椅子ありがとう。発明した人ほんまありがとう。

部屋に帰ると友達が僕を見て転げまわる様に笑ってた。
鉄格子の間から覗いてるみたいでおもろかったらしい。
ひくよりおもろさ勝ってる!ってなんか褒めてくれた。
覗いてくんな!のイジりで時間が過ぎていった。

看護婦さんが来て
「入院前の説明でお伝えしたんですけど、照射に時間がかかるのでお好きなCDかMD持って来られました?あるなら預かりますよ。なければこっちでクラシックとかなら流せます。」
僕は用意してきたMDを渡した。
自分でターンテーブルでレコードを繋いだお気に入りMIXだ。
ゴリゴリのヒップホップ。えぇねん、これが俺の落ち着くやつやねん。1時間くらいのセットで作ってきてん。後半に盛り上がり作ってんねん。好きな曲のオンパレードやねん。前半はフリやねん。いやいや、全然イキってないです。これが普通なんで!すんません!

いよいよ照射の時間が来た。
ここからはほんまに痛みとかはない。実質山場はもう越えている。
頭の金具と照射の機械と固定。バリバリバリバリ。工事現場とかで聞く音。本格的なネジでとめてる。一切頭動かない。そらそやろ。
「じゃ、照射していきます。」
ゆっくり僕のMIXも流れ出した。
お、えぇぞ。

10分後。

「はい、終わりですー」

え!?はやっ!!!なにこれ!!
終わり??全然好きな曲まで行かんかった。
はっずいわー!!!!イキったー!!ほんまはイキってたーー!!!
イキって自作の音源渡してもうてるやん!!
これで気持ちいいとこまで聞けたんならえぇけど!!
こういうとこあるなー!
クラシックかけてもらっとけよ!!

金具を外した。
爆裂に腫れた。
4点から角生えてんのかってくらい腫れた。
この日は頭がおけなかったので寝れなかった。

この治療を受けたおかげで出血個所が照射されて僕の脳内出血の可能性はほぼなくなった。みんなと同じになった。

今は完治しているので全然大丈夫です。
脳ドッグとかもあるので気になる方は1度行って見るのが良いと思います。



守りたい夢がある、生きたい未来がある、笑いたい仲間がいる。
ささえたいみんなの未来。
日本赤十字社





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