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#家族

夕暮れのかぐや

 認知症高齢者グループホーム「かぐや」は竹林を背にして建っている。  旺盛な孟宗竹がかぐやを呑みこんでしまいそうだが、そうはならない。  かぐやのスタッフが「たけのこギルド」と呼んでいる「かぐやの竹屋会」が、かぐやの母体医療法人の委託を受けて、春にたけのこを売り、竹林を手入れして竹を売り、竹炭を作ってそれも売っているからだ。  母の部屋は南向きで、窓から竹林を眺めることはできないけれど、田んぼと畑にかこまれて育った母は、隣の敷地の畑を見ているほうが落ち着くだろう。  ちょう

サテンドール

 地下鉄を出たら霧がでていた。五分も歩けば服が湿ってしまう。  霧にぼんやりにじむコンビニの明かりに、傘を買おうか迷い、霧に傘は役にたたないな、と思う。  すれ違う人も、とくに急ぐようすもなく歩いていた。  霧の水滴をためた道路の水を撥ねながら車が走り去る。フォグランプを点けている車はない。  誰かがコンビニに入っていく。傘を買うのかな。イートインでコーヒーを飲むのかもしれない。  夜の時間が過ぎてゆく。とはいうものの宵の口。鶴舞公園を突っきって歩くことにした。  霧のなか