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小説

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#幻想

みそかに降る雪

 昨日の朝は雪が積もっていた。  今日は雲ひとつない。微風。気温二度、「夜明け前はマイナス一度でした」とお天気ニュースが言った。  十時にお願いした引っ越しの軽トラックが、もうすぐ来る。一台で運べるように、荷物は減らしに減らした。  両親は「志摩で就職して実家暮らしになるのだから、何も持って帰るな!」とニヤつきながら言った。  ほんとうに晴れてよかった。 「片岡綾」の表札を外してショルダーバッグに仕舞った。ショルダーバッグと一泊用グッズをあれこれ入れたリュックは、引っ越し荷

雨に惑う 餓鬼岳(後)

 山小屋の朝は早い。餓鬼岳小屋も同じく、早い。  杏子は掛け布団を座布団代わりに胡座をかきスマホを見ている。お天気アプリで雨雲の様子を確かめていた。 「おはよう」 「おはよ、那々」  わたしはむくりと起きて、腕時計見る。午前四時。さてと、まずは布団を畳もう。  同宿の登山客たちは、「雨が降ってるよ」「でも小雨だ」「この程度の雨でも、足元には気をつけなくちゃ」「濡れた岩場はすべるよ」と誰彼となく伝えあっている。  わたしが一番寝坊助だった。  実樹はとっくに洗顔をすませていた