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#掌編小説

おとりもち

 母は産まれも育ちも名古屋市内だけれど、祖父の在所は岐阜県。濃尾平野が終わって、低い山々が連なるあたりにある。  祖父に連れられて、子どもだった母は弟の征男叔父さんと一緒に、正月には年賀へ行って干し柿を貰い、春先には土筆を採りに岐阜へ行っていたという。  初夏にはさくらんぼや桃を貰い、夏は井戸で冷やした西瓜を食べ、胡瓜や冬瓜を貰って帰る。  九月のなれば栗の収穫を手伝い、農協へ持っていくように選別もした。  師走の終わりごろに餅つきに行き、餅を貰ってくる。  そんなふうに年中