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小説

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2018年11月の記事一覧

おとりもち

 母は産まれも育ちも名古屋市内だけれど、祖父の在所は岐阜県。濃尾平野が終わって、低い山々が連なるあたりにある。  祖父に連れられて、子どもだった母は弟の征男叔父さんと一緒に、正月には年賀へ行って干し柿を貰い、春先には土筆を採りに岐阜へ行っていたという。  初夏にはさくらんぼや桃を貰い、夏は井戸で冷やした西瓜を食べ、胡瓜や冬瓜を貰って帰る。  九月のなれば栗の収穫を手伝い、農協へ持っていくように選別もした。  師走の終わりごろに餅つきに行き、餅を貰ってくる。  そんなふうに年中

青い鳥がやってきた

 朝、遠慮がちな歓声で目が覚めた。  八時七分、日曜日に起きる時間じゃない。午前中は爆睡するつもりで、昨夜というか今朝というか、寝たのが三時すぎなのに。  頭はくらくらするが、目覚めの気分がハイになりすぎていて、二度寝はもうむずかしい。  パジャマだし、髪はボサボサだし……  目でのぞけるていどに、カーテンに細いすき間をつくって外を見る。けれど古アパートの三階から見えるのは、山脈のように重なる屋根、屋根、屋根。もちろんところどころにそびえる高層、控えめな中層のマンションや