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不老島の不思議
穏やかな青い海に点在する瀬戸内の島に不老島と呼ばれている長寿の島があります。
その島には80歳~105歳のおばあちゃんが10人で生活しています。
島のおばあちゃんは白い肌に、魅惑的な声、そして驚くほど明快な頭脳を備えています。
島のリーダーは100歳の鈴さんです。
鈴さんは美しい黒髪と、艶っぽい声が魅力で、若者が舌を巻くほど頭の回転がいい人です。
彼女は50年前に無人島だったこの島を購入しました。何もなかった島で生活出来るようにライフラインを備えて、自分の仲間たちを呼び寄せ、島での生活を始めたのです。
島に住む人たちの見た目はその頃から少しも変わっていません。それは島の七不思議です。
不老島の裏手には美しい花々が咲いている巨大な花壇があります。花の種類は様々で、それはそれは美しいのです。
島のおばあさんたちは、毎日花の手入れに余念がありません。いつも花たちに話しかけています。
「今日もきれいに咲いとるねー、ええ具合じゃ」
「またまた、きれいな花をつけて、ご苦労さん」
花に水をあげていた若子さんが鈴さんに話しかけました。
「鈴さん、もうそろそろ募集をかけたらどうかしら、私、何となく体が疲れやすくなってきたみたいだから、いつものように若者に島に来てもらおうよ」
「そーねー、そろそろだと思うわ、私も髪に白いものが混じってきたから、いい頃合いかもしれないわねー」と、いつもの艶っぽい声で、応えています。
「それじゃー、みんなで潜らなきゃねー、例の貝を採りに行かないといけないから」
「いつ頃にしますー」
「若者の募集が終わって、来る人が決まってからにしましょうかー」
「鈴さんが、またSNSで募集してくれるんでしょう、楽しみだわー、他の人にも言っておきますね、近いうちにまた若者がやって来るって」
「そうね、じゃー、よろしく」
若子さんと話した後、鈴さんは早速、得意のパソコンを使って島への移住者を募集する事にしました。
鈴さんたちは定期的にこうして移住者を募集しているのです。
募集の呼び掛け文は、こんな感じです。
「私たちが住んでいるのは不老島、瀬戸内海に浮かぶ小さな島です、居心地は最高ですよ、島の老人をサポートしてくれるだけで、毎日美味しい料理に素晴らしい居住空間が手に入ります、是非不老島に来てください」
島の移住者の条件は、イケメンであることだけです。何故か、島の住人たちは見た目を重要視するのです。
島のおばあちゃんたちには、若者たちを公募した後で、楽しみが待っています。応募してきたイケメンを審査する時間がこの上なく楽しいのです。
送られてきた写真や動画を見て、みんなで何だかんだといいながら思いっきり盛り上がっています。
「この子は華奢よねー、秋風に揺れるコスモスみたいだわー」
「ねえ、この子は紫のバラのようね、ちょっと珍しいタイプだと思わない」
「この子は、カスミ草みたい、何色にでも染まりそうだわ」
みんなで、好き勝手言いながら、イケメン談議に花を咲かせるのです。
募集をすると毎回、何十人もの応募があって、その中から5人の若者が選ばれます。
これまでに何十人もの若者が不老島にやってきました。
しかし、若者が島から去って行ったと言う話は、全く聞きません。
一体彼らは島のどこで生活しているんでしょう。
それも島の七不思議です。
若者たちを島に連れてくる海上タクシーの船長は、若者が来るたびに「これまでにも、あんなにたくさん連れてきたのに、また島に移住させるなんて、この島の人たちは資金が豊富だなー」と思っていました。
船長は、島の裏側に旋回した時に、大きな花壇のあたりから何とも言えない寂しそうな声が聞こえるような気がして島の住人に
「何か聞こえますよねー、若い人の声みたいなのが、泣いているような懇願しているような声が・・・」と聞いてみるのですが、島のおばあちゃんたちは「この辺は風が強いからねー、あんたの空耳じゃないのー」と答えていました。
船長はこの島には、きっと何か秘密があると感じ始めていました。
島のスポークスマンの華さんが鈴さんに話しかけます。
「鈴さん、いよいよ移住者の5人が決まったわねー、今度もとっておきのイケメンが揃ったから、やって来る日が楽しみだわ」
「今までとは違うタイプを選んだからねー、毎回同じじゃつまらないものねー」
「鈴さん、私、移住者のリストを作りましたけど、見ときますか」
「えー、見せていただくわ」
島のおばあちゃんたちに、新しい移住者を紹介するチラシができたと言うのです。
改めて今回の移住者のイケメンラインナップを見ておきましょう。
スポーツの事ならお任せ、ジムのインストラクターだった飛坂走太
鍛え上げたムキムキのボディーが魅力です。
料理が上手い味良夫
海外での経験も含めて、フランス料理から和食までオールマイティーの料理上手のイケメンです。キュートな笑顔がたまりません。
ダンスが得意な大舞一
しなやかな肉体でストリートダンスもKポップダンスもこなします。男っぽいワイルドな見た目が本当に素敵です。
ファッションセンス抜群の装田巧
自分が着る洋服は自分で作るくらい、ファッションにこだわりのある彼は、ずば抜けたイケメンで、ギリシャ彫刻のようなルックスです。
そして音楽の事なら誰にも負けない初音奏
キーボードを巧みに使い、作詞も作曲もお手のもの、金髪に染めた髪がとっても似合っているイケメンです。
「そうそうこの5人よね、音楽からスポーツまでそれぞれ得意分野が違ってるのがいいわ」
「ほんと、いろんな分野に長けてる子たちばかりでねー、この子たちの感性は、いずれ私たちのものになるんだから、最高じゃない」
「そうねー、本当にいい子たちを選んだと思うわ」
華さんはちょっと怪し気な表情でこう言いました。
「じゃあ、私たちそろそろ潜りに行かないといけませんねー、いつもの秘薬を作らないといけないから」
「そうねー、みんなに集合をかけておいてね、満月の日の午前0時に、いつもの灯台に集合するように、言っといて」
「満月の日の午前0時ですね、いつもの灯台、分かりました」
華さんが呼びかけて、満月の午前0時に島の灯台に10人のおばあちゃんたちが集まりました。
おばあちゃんといっても、みんなとても若々しいのです。
リーダーの鈴さんがメンバーに話します。
「いよいよ若者たちがやって来るので、あの秘薬を作らないといけません、一緒に潜ってあの貝を採ってきて欲しいと思います、貝もだんだん少なくなってきいるので探すのが大変かも知れないけれど、自分たちのために頑張りましょう」
「ほんとに少なくなってきてるから、時間がかかりそうねー、でも頑張らないといけないわね」
「若さのためだもの、やるしかないわよ」
全員が灯台の下の岩場に潜ります。
おばあちゃんたちは、朝方まで一心不乱に探し回わり、やっとのことで20個の貝を見つけ出しました。
貝から秘薬の原料になる肝を取り出します。その肝は紫色で何とも言えない芳しさです。小さいので一個の貝からわずかしか採れません。
それを海水で煮詰めて、秘薬を作るのです。
大変な作業ですが、誰も文句など言いません。
何時間も煮詰めて、エキスを凝縮していきます。
出来上がった秘薬はクリスタルの容器に入れて大切に島の金庫にしまっておきました。
準備万端、あとは若者の到着を待つばかりです。
そして、いよいよ島にイケメンたちが集まる日がきました。
おばあちゃんたちはワクワクしています。
「今日はあの子達が来るのねー、どんな才能を貰えるのかしら、待ち遠しい」
「最近、声がしょぼしょぼしてきて、もう限界だから、早く来てもらわないとねー」
「また花の仲間も増えるのよねー、楽しみだわ」
それぞれが思い思いのコメントをしています。
5人のイケメンが海上タクシーで島に乗り込んできました。
島の入り口ではおばちゃんたちが、待ち構えています。
上陸したイケメンたちは、島の魅力に胸踊らせていました。
おばあちゃんたちの 歓迎ぶりに大喜びです。
鈴さんはイケメンたちを前にリーダーとしてコメントします。
「皆さん、ようこそ不老島に、みんなあなたたちが来るのを本当に楽しみにしていました、心も体も若返りそうです」
そんな言葉を聞いて、イケメンたちも大喜びです。
音楽のスペシャリスト、金髪の初音奏が即興で歌い始めました。
あまりの美しい歌声に、みんなうっとりです。
鈴さんは「私、あの声、欲しいわー」と思っていました。
きっと、鈴さんはいい声になるはずです。
おばあちゃんの中には、ダンスが上手くなりたい人や、島の仲間にトーレニングを教えてあげたい人、そして料理上手になりたい人もいます。
華さんは装田巧のファッションセンスが一番欲しいと思いながら、エキゾチックな横顔をじっと見つめていました。
到着した日の夜、不老島でウエルカムパーティーが開かれます。
テーブルには島の幸をふんだんに使ったご馳走が並んでいます。
イケメンたちは、やっぱりこの島に来て良かったと思っていました。
料理上手の味良夫が、思わずコメントします。
「たまらないな、この島の食材は最高ですねー、これから料理を考えるのが楽しそうだ、おばあちゃんたちに、美味しい料理を、作りますね」
それを聞いて、鈴さんは「そんなに気負わなくていいのよ、あなたたちは来てくれただけでいいんだから」と、言っています。
ダンスが得意な大舞一は、お隣のおばあちゃんに「足を鍛える簡単なダンスを教えてあげるからね、毎日やろうね」などど言ってます。
するとおばあちゃんは「いいんだよー、あなたたちが来てくれただけで、私たちが若返るのは間違いないからねー」
とにかくおばあちゃんたちは大喜び、イケメンたちもテンションが上がってきました。
メッセンジャーの華さんがパーティーを仕切ります。一番気合いを入れるところです。
「ようこそ、イケメンの皆さん、まずは不老島特性のウェルカムドリンクで乾杯しましょう、一気に飲み干してください、美味しいですからねー、さー、御一緒に”カンパーイ”」
イケメンたちは小さなグラスに入った美しい紫色のドリンクを一気に飲み干しました。
すると、島中に雷が鳴り響いて、閃光が走ったかと思うと、時間が一瞬フリーズしました。
イケメンの若者のたちは、大きなカプセルのような紫のバリアに包まれ、それと同時に、彼らのパワーが一気に吸いとられて、体がみるみる細くなっていきました。
吸いとられたパワーは光となって、そのままおばあちゃんたちに放電されます。
そして細くなったイケメンたちの体は、いつの間にか美しい花に、変わっていました。
花は一つ一つ違っています。そしてどの花も、とても美しいのです。
鈴さんがおばあちゃんたちの顔をしっかり見つめて、みんなに確かめています。
「みなさん、調子はどう、大丈夫、私はパワーがみなぎってきたわ、いつものように秘薬は上手く働いたようね、全員若返っているわよね、イケメンたちはみんな花になってるかしら」
おばあちゃんたちが全員大きくうなづいています。
今回も目的達成です。
秘薬を使って、島のおばあちゃんたちは若者たちのエネルギーと個性を、いただくことができました。
パワーを抜き取られた若者たちは、花に化身したのです。それぞれの個性にピッタリの花になりました。
おばあちゃんたちは、若者たちが化身した5つの花を持って、裏手の花壇に向かいます。
その時、美しい花壇の花たちが一斉に新しい仲間を見つめます。
これから5人のイケメンは島の花として、この花壇で毎日おばあちゃんたちを、癒すのです。
何とも怖いお話ですが、不老島の若々しいおばあちゃんの秘密はそこにありました。
翌日、花壇の近くを通った海上タクシーの船長は、「島の花壇、また花が増えたみたいだ、おばあちゃんたちが、植えたのかなー、ほんとうに綺麗だねー、今日も」と言いながら島を走り去って行きました。
その日から不老島のおばあちゃんたちはまた一段と元気になりました。
しかし、いつか秘薬を作る貝が無くなった時におばあちゃんたちにはきっと恐ろしいことが起こるはずです。
その時、不老島は、妖怪島になってしまうのです。
その日は、そう遠くはないでしょう。
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