ハサミの魔術師のことば

鏡の前で90歳の母が少し気取っているように見えました。久しぶりの美容院です。赤いドットのお気に入りのトレーナーを着て、お店が特別に用意してくださった安定感のある椅子に座って、美容室の先生と話しています。

「前回のカットが良かったので、同じ感じでお願いします。サイドは少し短く、前髪もちょっぴり短くお願いします」母は、上品な口調で、自分がなりたいスタイルを注文していました。

美容院に出掛けるとき、長年、通っているお店でもワクワクしませんか・・・。

美容室は、夢の変身部屋だから・・・。

ヘアスタイルが変わることで、心も少し変えることが出来るかなって思うんですよね。

母も、もっと元気に、素敵になりたいと美容室にやって来たのです。

先生は、楽しく話しかけながらカットをしていきます。
どうやら私たち親子が書いているブログを見てくださっているようで、

「お母さん、イラストがお上手ですね・・・、何を使って描いているんですか・・」
カットをしながらでも、お客さんの気分を上げてくださる、素晴らしい接客です。

東京の有名なカットサロンで修業をしてきた先生は、地元や近県の美容室の経営者にもカットの指導をしているという特別な技術を持った人です。
カットのうまさと、フレンドリーな接客や細やかなサービスが人気のサロンです。

スタイルの説明から、わずか数十分、母のカットも仕上げに入ってきました。

「前髪と、サイド、もう少し短くお願いします」と母は思い通りのスタイルにしてもらおうと、再び注文をしていました。

「本当にめんどくさいでしょう、母は、こだわりがあるんですよ」と私が言うと

先生はにこやかに笑いながらこう言いました。

「ブティックに行って洋服を、私のサイズにしてくださいとか、レストランに行って、私の味にしてくださいとは言えませんけれど、美容院だけはオーダーメイドのヘアに注文できるんですよ。

いくらでも言っていただければ、私の中に引き出しはいくつもありますから。希望のスタイルを言っていただいた方がいいんですよ」と

一瞬、先生の目の奥から鋭い光が放たれたような気がしました。

”相手が満足できるスタイルを作り出す引き出しをたくさん持っているのがプロ”
母もその言葉に感動したようです。

「今度、ブログでハサミの魔術師を書いたらええねえ・・・、先生お顔をしっかり見せてください、マスクもとって・・・」

というと、先生は照れながらマスクを外してくださいました。

母は先生の顔をまじまじと見つめて・・・

「いいお顔されてるんですねー、覚えとこ・・・」とイラストに描く意欲満々で美容室を後にしました。

そして、私は今日「ハサミの魔術師のことば」をブログに書いています。

【毎日がバトル：山田家の女たち】

　《母は難しい人でイケメン好き》

我が家のリビングで、ハサミの魔術師のことばの記事について、母と会話していました。

最近はバトルになることはありません。タイトル倒れでごめんなさい。

「お母さん、今回のヘアスタイルは気に入っとる」
「あんた、わたしはヘアーが気に入らんかったら、家に帰る前にぐしゃぐしゃにするけんね」

「ほんと、難しい性格じゃねー」と私

「何十年たっても、この性格は変わらんねー、私は、ヘアーも、先生も、美容院の雰囲気も気に入っとるよ」

「先生お上手だしね・・・」

「人となりが素晴らしいわい、
　カットしてもらう時はいっつもマスクかけとろ・・、太い眉毛と目しか見えてないけんね・・」

「それで、マスクをとってみてください、って言うたん」

「マスクとったら、これがまた、人懐っこいハンサムで、マスクかけん方がええなと思たねー」

「お母さん、イラスト描くんにも力が入るね・・」
「上手いこと描けるかな・・先生が細めに書いていよったけんねー、
　がんばろをわい」

出来上がったイラストを先生は気に入ってくれるのでしょうか・・・
心配です。

【ばあばの俳句】

　　山裾をほのかに染めし冬紅葉

冬紅葉は周辺が冬になって、枯れを深める中での紅葉のことです。紅葉の色はさらに濃く、周辺の風景に際立って、山裾にほのかな彩を見せてくれます。

母は、ブログを通じて、生き生きと過ごす自分の姿を冬紅葉にたとえて詠んだようです。冬紅葉には秋の紅葉の華やかな美しさとは違った、凛とした静かな美しさを感じます。

▽「ばあばの俳句」「毎日がバトル：山田家の女たち」は毎日、音声配信しています。読んでいただけたらうれしいです。

今日もたくさんの記事の中から私たち親子の「やまだのよもだブログ」にたどり着いてご覧いただきありがとうございます。明日も配信します。