6月の推奨香木は穏やかな羅国♫

以前から事あるごとに触れていますが、十数年前以降に羅国を購入されたという場合、そのほとんどは「伽羅系の羅国」であろうと推察します。
ピンからキリまで意外にも豊富に存在する伽羅よりも、木所の特徴をきっちり出せる沈香(ベトナム産・タイ産)の方が遥かに稀少だからです。

「伽羅系の羅国」は即ち伽羅ですから、いかに仄かに甘く柔和で好ましい立ち方をしても、本来の羅国の「匂いの筋」を持ち合わせてはいません。
ですから、昔ながらの沈香の羅国が絶滅?してしまわないうちは、出来れば伽羅を羅国とみなして用いることは避けて戴きたいと願っています。
例えば組香に際して試香に羅国として炷き出されない限り、「伽羅系の羅国」を羅国と聞くことなど不可能だからです。幸い、香雅堂には昔ながらの沈香の羅国が幾つか残っていますので、順を追って公開して参りたいと考えています。

この木肌の色合いや木目の雰囲気…まさしく典型的な羅国の「顔」と言えます

今月は、かなり古くから渡来していたと思われる上質のベトナム産沈香を採り上げてみます。
すでに案内済みでご好評を頂戴している「伽羅立ちの羅国」(『仮銘 神路山』・『仮銘 曙の空』・『仮銘 ふるき梢』)や『仮銘 春吹く風』・『仮銘 花と月』・『仮銘 昔の袖の香』などが持つ「伽羅には出せない甘」の内容に大きな違いは無いものの、その出方に特徴が感じられます。
すなわち、炷き始めから仄かな甘・辛・鹹がバランス良く醸し出されて中程から火末まで安定して持続し、途中で味の出方が大きく変わることが無いように思えるのです。

味の出方が変化せずに持続するという点においては『仮銘 雪間の草』と似ていますが、『仮銘 雪間の草』は羅国に特有の「匂いの筋」つまり「辛」を特徴的に出し続けるように感じられますので、かなり立ち方が異なります。

先月の推奨香木と ‟桜色つながり” になりますが、春の名残りに思いを寄せる心から、次の和歌を証歌として『仮銘 花の袂』と付けさせて戴きました。
持続的に穏やかに香気を放ち続ける古木の味わいをぜひご堪能下さいます様推奨申し上げます。

桜色の花の袂をたちかへてふたたび春の名残りをぞ思ふ
                   (前大納言忠良)(玉葉和歌集)





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