香木アワー#5~② 『仮銘 にごらぬ波』を截香!

にごらぬ波②

今回は、予定通りに『仮銘 にごらぬ波』の截香を行なうことができました。
先ず鉈を使って上の写真のほぼ真ん中の位置で木目に沿って縦に割り、続いて鋸で厚さ約4㎜に挽いてみました(下の写真参照)。

にごらぬ波③

この伽羅はとても上質で品位の高さを感じさせる香気を放つのですが、緑油伽羅のようなしっとりとした滑らかな感触は皆無で、むしろ「縮油伽羅」を彷彿させる‟かちんかちん”な感じが大きな特徴です。
更には、挽き粉が部分的に何故かサラサラすることも、上質の伽羅には珍しい現象です。
とは言え、挽く途中で鋸の目が粘り気の多い樹脂分で詰まってしまい押すことも引くことも出来なくなるのは、紫油伽羅や黒油伽羅に見受けられる特徴と言えます(下の写真参照)。

にごらぬ波⑤

このように鋸の刃に詰まった挽き粉は、樹脂分が摩擦熱で溶けて粘り気を帯びた後に固まったものですから、取り除くのに苦労します。
熱湯をかけつつ金属ブラシ等でこそぎ落とすことは簡単なのですが、それでは貴重な伽羅の挽き粉を下水に流してしまうことになりますから、なるべく手荒い方法は避けたいのです。
つまり、指先…人差し指と親指と…で刃を摘まんで、引っ張って取ります。
鋸には、歯振(あさり)と言って、挽く際の摩擦を軽減して刃の通り道を確保するために刃先を広げる工夫がなされていますから、刃を摘まんで引くと皮膚が切れます。
痛いですし皮膚は傷だらけになりますが、血が出る寸前まではがんばって指で取ります。
貧乏性かな?とも思いますが、塵も積もれば…で、立派に再利用することが出来ますから、もう普通に習慣になっていて、特に苦労とも思っていないのです。
(耐え切れなくなったら、火箸の先など細い金属で歯振を一つずつ掃除してゆきますが、切れ味に影響する恐れがありますので、結局はやむを得ず洗面所で洗います。)

にごらぬ波④

こんな感じで、無事に截香は終了しました。
ところで今回の截香で判明したのですが、『仮銘 にごらぬ波』には樹脂化を遂げた後に何らかの原因で生じた割れ目があり、滲出した樹脂分が空気に触れて固まった痕跡が残っています。
それらの変化が何年、何十年、何百年の歳月を経て起きたものかは見当も付きませんが、香木の不可思議さを如実に物語る光景を目の当たりにできて、幸せでした。
その樹脂分を削ってみた粉を、写真に撮ってみました。

にごらぬ波⑥

判り辛くて申し訳ありませんが、飴色の細かい粒が、固まった樹脂分です。
削る前の欠片は、次の写真の通りです。

にごらぬ波⑦

せっかくの機会ですから、通常の部分と上の写真の部分とを炷き比べてみました。
通常は、樹脂化の密度が高い香木を加熱すると断面、すなわち管状の組織の切り口から樹脂分が溶け出すのを見ることができますが、上の部分を加熱すると、光って見える樹脂分の結晶がそのまま溶け始めて、やがて沸騰する様子が確認できました。
この伽羅の神髄をまさにダイレクトに味わうことができ、その香気の気高さ、豊かさに感銘を受けました。
同時に、前回は「黒油伽羅」と案内していましたが、よくよく聞いてみると「紫油伽羅」ではないかと感じ始めるきっかけにもなりました。
また別の機会にゆっくり炷いて、自分なりの結論を出したいと考えています。

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