5月の推奨香木は、「伽羅立ちの羅国」!

神路山①

3月の聞香会でもテーマの一つに採り上げましたが、「伽羅系の羅国」と「伽羅立ちの羅国」とは似て非なるものです。
前者は「堂々とした❝伽羅らしい伽羅❞とは言えない伽羅」で、後者は「伽羅のような立ち方をする、品位の高さを感じさせるベトナム産沈香」であり、その典型的な一例として炷き出したのが『仮銘 遠の霞』と『仮銘 神路山』(上の写真)でした。
伽羅には出せない、羅国に特有の「甘」を穏やかに柔和に放ち続ける『仮銘 春吹風』や、樹脂化の度合いが全体的に低く必ずしも上質とは言えないまでも羅国らしい「匂いの筋」を確かに具えて組香には用い易い『仮銘 雪間の草』等と比べ、際立った個性を輝かせていました。

『仮銘 遠の霞』は徳用版シリーズの最上質ドロ沈香爪の中から聞香会用に選び出した一片で、もともと数グラムしか存在しませんでした。
ご参加の皆さまから分木のリクエストを頂戴しましたが、残念ながら残りが少なく、当日に参加できなかった皆さまのために用意した「羅国 聞香会セット」をお求めいただくしかなく、誠に申し訳なく思っております。

そこで、『仮銘 遠の霞』と同様に参加者の皆様からの評価が高く、とてもお喜び戴けた『仮銘 神路山』を、5月の推奨香木に抜擢することにしました。

外見から、いかにも最上質のドロ沈香(=ベトナム産沈香)と判断できる顔付きで、香気も期待通りです。
ただ、截香してみて判ったのですが、内部には殆んど樹脂化しなかった部分が隠されていて、完璧に樹脂化を遂げた優良部分が想像したより遥かに少ない状態でした。
これも聞香会で触れましたが、私たち専門業者は、輸入する際に香木の不良部分を出来る限り掃除して貰います。支払いは「目方でナンボ」ですから、使えない部分を少しでも減らした上で購入たいからです。
掃除は、現地の人々が独特の手製のノミを駆使して行ないます。
(そして、その掃除の結果が、香木の姿を形作るのです)
でも、さすがに塊の内部までは見通せませんし、掃除しろとも言えません。

沈香には良く見受けられることなのですが、沈香樹の外側が高度に樹脂化を遂げていても、中心部にまで樹脂化が及んでおらず、香木らしい香気も感じられないということがあります。
輪切りに挽いてみて初めて発覚するのですが…『仮銘 神路山』も、その一例でした。

神路山②

断面の黒く見える部分に比べて、薄茶色の部分が遥かに大きな面積を占めています。
別の箇所ですが、少し拡大してみますと…

神路山③

こんな感じです。
薄茶色の部分は沈香樹の細胞組織が樹脂化せずにそのまま残っているようで、加熱してみても、優良部分ほどの高貴な味わいは期待できません。
そこで、皆さまに分木する対象からは外します。

神路山④

他の推奨香木でも同様ですが、徳用版シリーズ以外は、常に優良部分だけを厳選して分木することを心掛けています。

神路山⑤

(短冊状に割った端が欠けている場合には、なるべく切り落としています)

伽羅のような立ち始めで、でも伽羅らしい力強さは感じられず、むしろ優しい品の良さが好ましく思えて、「こんなに気高い羅国もあるんだ!」と感心していただける…ことを期待して、『仮銘 神路山』を推奨申し上げます。
(もし薄茶色の部分も聞いてみたいと思われる場合には、その旨、お書き添え下さいませ。ご参考までに、サービスで少し入れるように心掛けます)

なお、仮銘の証歌は以下の通りです。

神ぢ山あふぐ心のふかきをもいはでおもへば色にみゆらん
                        (後鳥羽院)(御集)


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