11月の推奨香木は「やや曲(くせ)がある真那賀」


いろんな機会に繰り返し申し上げており恐縮に存じますが、沈香の真那賀は現在では極めて入手が困難な状況になってしまい、六国(木所)の特徴を具える香木の不足には益々拍車が掛かっているように見受けられます。

沈香の真那賀に代わって販売されることが多いのはいわゆる「伽羅系」の真那賀ですが、この「伽羅系」とは即ち「伽羅である」ことを意味します。
つまり、真那賀として販売されながら実体は伽羅と言うことになります。
その辺りのことは『香木三昧』に書きましたので省略しますが、やはり六国(木所)を意識して聞香されるのであれば、個人の好みは別にして、沈香に特有の香気を識別し、味わいを堪能して戴きたいと願ってやみません。
殊に沈香の真那賀からは伽羅には無い「ア」を聞き取ることが出来ますから、貴重です。

その「ア」が、とても柔らかく控え目に出て来るタイプの真那賀(例えば「仮銘 そむる衣」)もあれば、いわゆる「伽羅立ち」、つまり沈香でありながら伽羅を思わせる香気を放つ真那賀(例えば「仮銘 雲ゐの花」や「仮銘 夢の浮橋」)もあり、香木の持つ奥深さや味わい深さは果てしないように思えます。
(下の写真は「仮銘 夢の浮橋」)

夢浮橋

そして11月の推奨香木に選んだのは、掲題の通り「やや曲がある真那賀」です。

古人の真那賀に対するイメージは…あくまでも古人の感覚・表現ですが…『匂ひ軽く艶なり、早く香のうするを上品とす、香に曲ありて、例えば女のうち恨みたるが如し。』(出典=『六国列香之辨』)というものでした。
(「早く香のうする」とは「早く香気が無くなってしまう」ことを意味しており、「曲」とは「一般的でない、真那賀に特有の性質・傾向」を意味します。)

実際に炷いて確認していただければ面白く、楽しめると思いますが、前半部分の「軽やかで艶めいた香り」は「仮銘 そむる衣」の通常部分や「仮銘 雲ゐの花」、「仮銘 夢の浮橋」の比較的に樹脂化した黒っぽい部分を聞くことで何となく理解できる気がしますし、「早く香のうする」は「仮銘 雲ゐの花」及び「仮銘 夢の浮橋」の樹脂化が進まなかった白っぽい部分を聞けば、納得できると思います。

ただ、「早く香のうする」が上品すなわち最上級であるという古人の説には、香雅堂としては納得し難いものがあります。
何故なら、高密度に樹脂化を遂げた優良な部分を的確な火合(火加減)で加熱すると、例外なく長時間に亘って真那賀に特有の芳香を放ち続けるからです。
もしもそのような優良な部分が真那賀らしくないと決めるのであれば、それはそれで一つの見識と言えるかも知れないのですが…。
(お決めになるのは御家元・御宗家なので、正しくは師説を受けねばなりません)

さて、「曲」に戻ります。
この「曲」という感覚が何を表わし、どんな香気を指しているのか…
そんな「百聞は一聞に如かず」の一例として挙げることが出来る稀少な真那賀を、推奨します。

仮銘 山ざくら①

この塊は、数十年前の昭和時代には既に京都に在ったもので、先代から学んだ典型的なシャム沈香(真那賀)の「顔」を持ち、香気には特有の「曲」があります。
それは伽羅には出せない「ア」の中に微かに感じ取れる感覚のように思えますが、皆さまはどのように聞かれるか…果たして「女のうち恨みたるが如き曲」と納得されるのか…楽しみは尽きません。

仮銘は、以下の証歌から「山ざくら」としました。
朝日いでてのどけき峰の山ざくら花も久かたの光なりけり
                   (宗良親王)(宗良親王千首)

なお、分木は、下の写真の状態で縦に割って短い短冊状に截香するのを標準としますが、ご希望があれば約0.4gの小片+αにいたしますので、ご一報下さいます様、案内申し上げます。

仮銘 山ざくら③


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