5月の推奨香木は、「伽羅系ではない」羅国♩

様々な機会に言及していますが、「六国」あるいは「六国列香」という概念を体現することが可能な、すなわち「木所の特徴を示すことが出来る香気を具える」香木が、近年では益々稀少になっています。
そのために、本来であればベトナム産沈香から選ばれるべき羅国や、同じくタイ産の沈香から選ばれるべき真那賀には、いずれも「伽羅らしくない伽羅」が用いられるようになっています。

「伽羅らしくない伽羅を伽羅と認めない」という考え方は有り得るかも知れませんし、そのことを六国の分類上の規範とされる流派が存在するとしても不思議はないと思います。
しかしながら、どんなに伽羅らしくない伽羅であったとしてもそれは伽羅であり、羅国として或いは真那賀として聞くことは無理があると考えます。

そこで香雅堂は「伽羅じゃない羅国とはどんな香木なのか?」という実例を推奨香木として紹介して参りました。
近年に発見されて弊社によって仮の銘を付されたものたちよりも説得力に優れるという理由もあって分木を決心した『香久山』(百二十種名香)は、その最たる例でした。
『香久山』を聞くことによって、「伽羅と羅国とは明らかに異なるんだ!」と納得して下さった方々は多かったのではないかと想像しています。

『香久山』は歴史的名香であり、残っていた塊は大きくはありませんでしたから、分木すると言っても僅かな数量で、申し訳なく思っています。

そして、今回も小さな塊でありながらもベトナム産沈香の典型的な一例として、「仮銘  宿の春」を推奨します。

小さい塊ですが、古くに渡来したと思われる、いかにもベトナム産らしい沈香です
小さい上に真ん中あたりが朽ち果てて無くなっており、残念です

古の書『六國列香之辨』において「自然と匂ひするどなり、白檀の匂ひありて多くは苦を主る、譬へば武士の如し」(早川甚三著『香道』参照)と説明されている内容に果たして皆さまは共感できるか否か、ぜひ味わって下さいます様お奨め申し上げます。

仮銘は、以下の和歌から採らせて戴きました。
 雲の上ここのかさねの宿の春 嵐も知らぬ花ぞのどけき
                    (伏見院)(玉葉和歌集) 








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