3月の推奨香木『仮銘 にごらぬ波』について

いよいよ3月から分木を開始するとのことで、『仮銘 にごらぬ波』をお奨めする理由などについてまとめてみます。
はじめに、前回の投稿で「いかにも黒油らしい」と書いたのが「いかにも紫油らしい」の間違いであったと訂正し、お詫び申し上げます。

にごらぬ波②

そもそも伽羅を「黒油」とか「紫油」・「緑油」・「黄油」などと呼称するのは、「昔ながらの上質の伽羅は幾つかの類型に分類することが可能で、その類型は結果として塊の外見が ‟なんとなく黒っぽく見える” などという特徴と一致することが多い」と言うような理由からだと思われます。
ところが黒油か紫油かの違いは外見の色合いだけで断定することは難しく、やはり香気の特徴を精査した上で慎重に判断する必要があると改めて思い至らされました。
この伽羅は一見して「黒っぽく」見えるのですが、実は紫なのでした
(真っ黒に見える黒油伽羅と並べてみるとよく解りますので、こんど試してみます)。

にごらぬ波⑧

この伽羅の仮銘は、後醍醐天皇の御製
「てらしみよみもすそ川にすむ月もにごらぬ波の底の心を」   (新葉集)
から採らせていただきました。
放たれる香気に、なにか透明感のような涼やかさを感じたからでした。
その、潔さとも言い表せる特有の好ましい香気の特徴を挙げるならば、「苦味と辛味との調和が絶妙で、しかもそれが火末まで変わらずに持続する」ことかと思います。
つまり、決して大向こう受けする「甘い伽羅」では無いということです
(もちろん上質の伽羅らしい甘みも具えてはいます)。

採集・輸入年代が古いことは割れ目に滲出した樹脂分が結晶化して固まっている箇所が散見されることからも推し量れますが、大きめの塊であったこともあり、樹脂化の密度には若干の斑(むら)があります。
しかしながら密度が濃い箇所もやや薄い箇所も「匂いの筋」は共通しており、品位の高い香気を長時間に亘って堪能して戴けると期待しています。
ぜひ遠めの火加減で、ゆっくりお愉しみ下さいます様お奨め申し上げます。



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