6月の推奨香木は「ほのぼのと品の良さが薫る伽羅」♪

波路の舟①

既に様々な機会で触れていますが、ひと口に伽羅と言っても、タイプは色々あります。
塊の外見が何となく緑っぽく見えるものは「緑油伽羅」、黒っぽく見えるものは「黒油伽羅」、同様に「紫油伽羅」・「黄油伽羅」等々です。

面白いことに、タイプの違いは外見の色味にとどまらず、樹脂分の性質や、香気の内容にまで及ぶことがあります。
(もちろん、それはある程度上質の伽羅に限って言い得ることですが…)
それらの違いを実感するには実際に聞香するのが一番ですが、例えば「緑油伽羅」であれば『仮銘 東雲』が典型的なタイプであり、木所の持ち味である「苦」という味がどのような香気かが理解できるでしょうし、「黄油伽羅」であれば『仮銘 風の梅が香』が最適と思われます(伽羅に具わる「辛」がどのような香気か、知ることができます)。

6月の推奨香木に選んだのは、先ほど列挙したタイプとは異なる、かなり珍しいタイプの伽羅です。
何がどのように珍しいかと申しますと、先ず、「香木の種類としては間違いなく伽羅なのに、樹脂分の粘着性が弱く挽き粉に粘り気が感じられない」という点を挙げることが出来ます。
そして香気の特徴として「堂々とした伽羅らしい伽羅とは全く異なり、繊細な味わいを感じさせる」ことが挙げられます。

殊に、遠めの火加減により低温で加熱し始めると、あたかも最上質の真那賀であるかのごとく、ほのぼのとした穏やかさの中に、上品で透き通るような艶めいた香気を放ちます。それは「嫋やか(たおやか)」という表現が相応しい?と感じられるような、言葉では表し難い優美さに満ちている様に思えて、とても好ましいのです。
もちろん火末に至る頃にはちゃんと伽羅らしさを感じさせてくれるのですが、極めて面白いタイプの伽羅としてお愉しみ戴きます様、推奨します。

ほのぼのとした印象から春の和歌を探して、仮銘を『波路の舟』と付けさせていただきました。証歌は以下の通りです。

かすみゆく波路の舟もほのかなりまつらが沖の春の明けぼの
                   (伏見院)(玉葉和歌集)

波路の舟②


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