10月の推奨香木は、遠い記憶を呼び起こすような真南蛮♫
これまでに推奨させて戴いた真南蛮には、様々なタイプがありました。
江戸時代の某藩の家老職に無銘のまま手付かずの状態で保管されていたとされる『仮銘 朧月夜』は、仄々と優しく落ち着いた香気を放ち続けますし、『仮銘 花のあたり』は華やかな立ち初めと蛮ならではの「甘」に特長が見られますし、当初は2.5㎏を超えていた極めて大きなタイ産沈香であった『仮銘 白雲』は、安定して力強く「蛮らしさ」を出し続けるタイプと言えます。
このほど推奨する香木は、典型的なタイ産のシャム沈香の顔をしながら特有の「鹹」を立ち初めに放つと言う点で他とは異なる個性を持つ真南蛮です。
この鹹(=かん=しおはゆい≒しおからい)は真南蛮の特徴とも言えますが、注意すべきは志野流香道において「佐曾羅」として用いられるインドネシア産沈香のもつ「鹹」と似ており、紛らわしいことです。
ぜひ『仮銘 あをば』や『仮銘 霞める空』などの推奨香木と聞き比べていただき、真南蛮と志野流の佐曾羅との違いを確認して戴きます様、推奨申し上げます。
「鹹」とともに「辛」や「苦」がバランス良くほのかなハーモニーを奏でるうちに、やがて忘れかけていた「甘」が控え目にあらわれるような印象から、以下の和歌を探し出して『仮銘 夢の枕』と付けさせて戴きました。
かへりこぬ昔をいまと思ひ寝の夢の枕ににほふ橘
(式子内親王)(新古今和歌集)
お詫びとお知らせ(2021.10.10追記)
この記事を公開後、複数の方々から「御家流佐曾羅の『夢の枕』と重複している」とのご指摘を頂戴しました。
それまで若干の違和感を抱きつつも気付かず、誠に申し訳ございません。
熟考した結果、老山古渡白檀の佐曾羅を、『仮銘 軒の橘』と改めさせて戴くことにいたしました。
何年も前に分木させて戴いた皆さま、また最近の「聞香会セット」を購入して下さった皆さまには新たな仮銘の栞と差し替えさせて戴きますので、お手数を掛けて畏れ入りますが、お申し付け下さいます様お願い申し上げます。
なお証歌等は以下の通りです。
うたたねのとこ世をかけてにほふなり夢の枕の軒の橘
(二条為明)(新続古今和歌集)
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