見出し画像

蟹洗温泉はメルヘンかと思ったら。

「メルヘン屋」をハシゴしたことで、いわき市に来た目的は果たされました。
せっかく来たからもうちょっとどこかに行きたいな、と地図をひろげてみると、気になる地名を発見。
「蟹洗温泉」ですって。
蟹を洗うの? 蟹が洗うの? なにを?
メルヘンの香りがします。
よし、北上だ!

海を眺めながら海岸沿いを走ります。
途中に灯台があったので、寄ってみました。
車を止めると、かすかに歌声が聴こえます。なんだろう。
そこには、美空ひばりさんの記念碑があり、おばさまおじさまがわらわらと集っていました。名曲「みだれ髪」の舞台が、ここ塩屋岬だそうで。青い海、青い空、緑の丘の上に立つ白い灯台。ザ・風光明媚。そりゃ歌の一曲や二曲できますわな。絵手紙の一枚や二枚書きますわな。

再び走り、赤い桟橋を渡ってたどりつくという弁天島にいこうとしましたが、通行止めで断念。残念。とぼとぼ歩いていたら、小さなお寺を見つけました。獅子のかざりが、みんな半笑い。




薬師如来がまつられている「波立薬師」でした。
薬師さんの言うことにゃ、
「オンコロコロ センダリ マトウギソワカ」
ととなえると、身も心も安らかに生活を送れるそうです。
魔法の呪文。えいっ!
オンコロコロ センダリ マトウギソワカー!
よし、これで大丈夫。

さらに北へと車を走らせます。
蟹洗温泉に到着!
正式名称は「太平洋健康センター いわき蟹洗温泉」。ロビーに入ると、木彫りの巨大なカニたちがお出迎え。
椅子でした。


さあ、ひとっぷろ。
海を眺めながらの露天風呂を想像していたのですが、微妙に見えないので、ときどき立ち上がって海を確認しながら、ドライブの疲れを癒しました。
脱衣所は、化粧水やティッシュなどの備品すべてに、マッキーででっかく「カニ」「カニ」と書かれています。蟹洗温泉のだから持ち帰らないでねってことなのか、カニ用のだからカニ以外は使っちゃいけないのか、どっちでしょう。

館内着に着替えて、施設のなかをうろうろ。
おみやげコーナーを見ますが、なんと、まさか、カニグッズがありません。蟹洗温泉ハサミ、とか、横歩きにしか反応しない蟹洗温泉万歩計、とかがてっきりあるものだと。レストランにもカニ料理がありません。せっかくの「蟹」なのに。館内着もピンクですけど、赤い方がいいですよね。蟹なんだから。蟹に期待しすぎたか。

① 磯でたわむれる蟹が大波に洗い流されることから。
② 鉱山の鉄を海で洗っていたので「金洗」という地名だったけれど、鉱山がなくなり、いつのまにか「蟹洗」になった。

という正式な由来を聞かなかったことにして、ここが「蟹洗温泉」と呼ばれるようになった昔話を勝手につくりたいと思います。


「カニのおんせん」

カニたちは、海岸ぞいを北へ北へと旅していました。
あるとき、砂浜をぞろぞろと横歩きしていると、あたたかい水辺をみつけました。
「おやおや、こりゃあ温泉じゃないか」
「あったかくて気持ちいいなぁ〜」
「ずっと入っていたいなぁ〜」
「………………はっ!  いかん! こんなことをしてたら、ゆであがってしまう!」

カニたちはぞろぞろと温泉から出て、話し合いました。
「こんなに気持ちいいんだから、みんなに温泉に入ってもらいたいものだなぁ」
そこで「おんせん、あります」という看板を立てました。
けれど、お客さんはあんまり来ません。

「このハサミをつかって、お客さんの毛を切るのはどうだろう」
カニたちは、とこやさんをはじめました。
「おんせんと、とこや、あります」
チョキチョキチョキ。お客さんがちょっと来ました。

「もっとみんなに温泉に来てほしいなぁ。よし、このハサミをつかって、ごちそうをつくろう」
カニたちは、レストランをはじめました。
「おんせんと、とこやと、レストラン、あります」
チョキチョキチョキ。チョキチョキチョキ。お客さんがまあまあ来ました。

「もっと、もっとだ! よし、ハサミだけじゃなく全身を使って、みんなの服を洗おう」
カニたちは、せんたくやさんをはじめました。
「おんせんと、とこやと、レストランと、せんたくや、あります」
ぶくぶくぶく、ごしごしごし、じゃぶじゃぶじゃぶ。
たくさんの足を使って、服を切らないように気をつけながら、
ぶくぶくぶく、ごしごしごし、じゃぶじゃぶじゃぶ。
体もきれいになって、服もきれいになって、お客さんはとても喜びました。

せんたくやは大繁盛し、温泉も大にぎわい。
看板には「おんせんと、せんたくや」とだけ書かれるようになりました。
いつしかその温泉は「蟹洗温泉」と呼ばれるようになりましたとさ。

おしまい。


福島県いわき市のメルヘン旅、これにて。
それではみなさまのご多幸をお祈りして、この言葉で締めくくりたいと
思います。

オンコロコロ センダリ マトウギソワカ!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?