【小説】あなたの声で牛を被る
「かなえ先輩、アメリカバイソンの鳴き真似してもらっていいですか」
イーゼルの向こうでユキちゃんが言った。
私は両手を体の前で重ねたポーズを保ちながら、ふうと息を吐いた。ユキちゃんの鳴き真似リクエストは今朝からすでに八回目だ。それもホルスタインとかテキサスロングホーンとか牛ばかり。いくら私が今、ジャージー牛を模した被り物を頭に被っているからって、何度もモォーやブォーと言わせないでほしい。
「お願いします」
ユキちゃんが重ねて言った。被り物越しの耳にもはっきりと、透明な雫み