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山田古形の小説

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山田古形が書いた小説の一覧です。楽しいヘンテコ話がたくさんあります。
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#コメディ

紙風船ガム

 紙風船を持った人とやけにすれ違うことに気づいて、沢井燕は早足気味の歩調を緩めた。  休日昼過ぎの商店街は、それなりに多くの人出で賑わっていた。そのうちの三割ほどが、手のひら大の小さな紙風船を持ち歩いている。美しい色や模様のもの、鳥や魚の造形を模したもの、Wi-FiやBluetoothのマークが全面に描かれたもの。彩り豊かな風船たちは、通りがかりに眺めるだけでも目に快い。  賑々しく楽しげではあるが、日常の風景にしては少々紙風船の数が多すぎる。  イベントか何かで配っているん

花なし花見の始め方

 頭上に広がる桜の枝を眺めながら、小木野が手元の紙コップに唇をつけると、砂糖たっぷりのホイップクリームを思わせる濃い甘味が口内へ流れ込んだ。  コップの中身を一息に飲み干し、小木野は「ふほう」と気の抜けた声を漏らした。レジャーシートに置いた1.5リットルサイズのペットボトルを開けて、こぽこぽとコップに液体を注ぎ足す。 「小木野さん? 何してるの?」  蓋を閉めて二杯目に移ろうとしたところで、背後から訝しむような声がかかった。  小木野は頬の筋肉をへんにょりと緩め、コップ片手に