マガジンのカバー画像

山田古形の小説

27
山田古形が書いた小説の一覧です。楽しいヘンテコ話がたくさんあります。
運営しているクリエイター

2020年6月の記事一覧

天狗とポン酢の颪和え

 風に乗って飛んできた白いポリ袋に視界を塞がれ、笠野絵真は「もげ」と間の抜けた声を上げた。  ポリ袋はそのまま絵真の顔に張りつき、即席の仮面となった。袋からはほんのりと柚子のような香りが漂い、絵真の鼻腔を微かに刺激する。  絵真がもげもげと呻きながら袋を引き剝がすと、香りは吹き荒ぶ風にかき消えていった。  はあと荒い息を吐き、絵真は手に持ったポリ袋を睨むように見た。ばさばさと風に揺れる袋の表面には、黒地に朱色の混じった翼を広げ、両手に瓶を掲げて踊る烏天狗の絵が印刷されていた。