見出し画像

ゆる天文学ラジオ オーディションに応募した用例日記

この記事は、YouTubeチャンネル『ゆる天文学ラジオ』の新しい聞き手として立候補した、とある用例の日記だ。淡々と書いていくつもりだ。

記事の内容の一部は下記動画からも見れます。


8月3日 オーディション告知

8月3日。その日がきた。

『ゆる天文学ラジオ』、聞き手募集オーディションが告知された。

簡単にこのチャンネルについて説明する。TRPGプレイヤーとしても知られる越山嘉祈さんが、自身の趣味である天文学の知識・うんちくを話すチャンネルだ。

その越山さんの聞き手は、書家・夏生嵐彩さん。彼女もまた、『ゆる書道学ラジオ』というチャンネルを立ち上げている(そこでは越山さんが聞き手)。

この2つのチャンネルは、作家での堀元見さんが主催した『ゆる学徒ハウス』という企画で誕生した。(この企画では、上記2つを含めて6つの『ゆる○○学ラジオ』が誕生した)。

そんな『ゆる天文学ラジオ』で、夏生さんに変わる新しい聞き手の募集が始まったのだ。

詳しい事は下記の動画を参照

この募集動画を見て思った。やりたい。参加したい。

8月が忙しくなる。


一次選考

撮影

相方になるといっても、どうすれば良いのか。二度の選考を経る必要がある。

まず一次選考。自分の話したいことを5分以内にまとめ、動画として投稿する。その際、「ゆる○○学ラジオ」の形式にする。

「○○学」とはいえ、実際に学問的に価値の高い動画を作る必要は無い。それは「ゆる天文学ラジオ」でずっとケプラーやガリレオの話をしているのと同じで、「○○学」に関連していればいい。専門家相手のチャンネルではないのだ(過去の選考動画には、「ゆるVTuver学ラジオ」なるものもあった)。

さて、私はどんな動画を撮るべきか。

大まかな概要、「ゆる○○学」の「○○」の部分については決めていた。

気象学でいこう。

普段自分が自身のYouTubeチャンネルで投稿している内容ではない。しかし、自分の仕事にも関係するし、気象予報士試験の勉強もしている。今の自分にとってもっとも関連する学問が気象学だと確信していた。

では、気象学の何について話そう。

そこで、越山さんの動画を見返した。

上記したように、今回僕が聞き手として応募する『ゆる天文学ラジオ』は、『ゆる学徒ハウス』という企画で誕生したものだ。そして、その『ゆる学徒ハウス』の立候補者も今回僕がやっているのと同じように、まず5分の動画を作成し、堀元さんに審査してもらう。

その一次選考で越山さんが作ったのが以下の動画だ。

天文学の未来はとても暗いという話だった。

背景や話しぶりと裏腹に、わりとネガティブな内容だ。

そして、このネガティブだという点が、自分の持ち合わせる気象関連知識とマッチしてしまった。

投稿

『気象学』と『未来が暗い』。この2つから連想されるのは、『気象庁』だ。

気象庁の予算は600億円ほど。これは国民一人あたり500円程度だ。コーヒー1杯分の予算、「コーヒー予算」として揶揄されている。

あまりの予算不足により。例えば地震予知を担当する課が統廃合されたり、動植物の観察が大幅に縮小されるなど、気象庁「ならでは」が消えていった。

これはインパクトがある。そう思い台本を作った。

5分にまとめることもうまくいった。それで出来たのが以下の動画。

要点は以下の2点
・気象庁の予算は600億円弱で、国家予算の0.05%以下、国民一人あたり450円ほどでしかない。
・あまりの予算不足のため、地震予知や桜開花予想、動植物の観察などの気象庁『らしい』分野がどんどん統廃合されている

自分としては良いできだと思った。日本の省庁で最もメディア露出が多い気象庁、その予算が600億円、国民ひとりあたりコーヒー1杯分で運営されているというショッキングさは審査員(越山さん)の感情を揺さぶるに違いない。

一次通過を確信し、応募フォームに投稿した。8月8日のことだった。

一次通過

8月19日。一通のメールが来た。

「一次審査通過」と書かれていた。通過したのは合計12名だという。その一人に選ばれた。

そして2日後、『ゆる学徒カフェ・オープンマイク』で公開された。

1本目 ゆるむし学ラジオ

僕の動画の一つ前には、『ゆるむし学ラジオ』の動画が公開されていた。

投稿されたのは8月20日。投稿者はあんとれさん。彼は『ゆる学徒ハウス別館』で活動されている。

この別館というのは、企画『ゆる学徒ハウス』で一次採用にはなったものの、二次審査以降で不採用となり独自の『ゆる○○ラジオ』を持つことが出来なかった方々が集まりキャッキャウフフする時空だ。

ここで気づいた。「別館の人とも闘うことになるのか」と。

あんとれさんもそうだが、別館の人はみんな話がうまい。馬に詳しい人、虫に詳しい人、料理に詳しい人などがそれぞれ話題を持ち寄っている。そのおかげで、各人が個性を発揮しながらも、素人にもわかりやすい言葉で素人離れした説明をする。

社会活動家の茂木健一郎氏が「オックスフォードでは1つのテーブルを数学者と物理学者と人文学者と社会学者が囲って議論する。こういった知の広がりが日本の大学にはない。」と著書で書いていた(と記憶している)けれど、その意味では、ゆる学徒ハウス(ならびに別館)は『ゆるオックスフォード大学』と言えよう。茂木はこのチャンネルを褒めた方が良い。

そんな、ゆるオックスフォード出身のあんとれさん。フンコロガシの話をしていた。

フンコロガシは自分の場所を正しく知るために、太陽や月の動きを利用するという。では、月の見えない夜は?という話。

日本でフンコロガシと言えば、鈴木拓(ドランクドラゴン)だけれど、その生態を見ると天文学と関連する、ロマンチックな内容もある。

2本目 ゆる気象学ラジオ

そんなあんとれさんの『ゆるむし学ラジオ』が公開された翌日21日、僕の動画が公開された。

公開されたものを見て、気づいた。

これ、越山さんの下位互換だ。

再度越山さんの一次選考動画を見てみる。

内容は少し暗いものの、周りに星空のカーテンやティッシュ型テンガ、チップを置くなど、かなりユーモラスなビジュアルにしている。そして話もうまい。

一方自分はどうか。

殺風景すぎじゃない?

黄色いカーテンだけって何?いくらレンタルルームだったとはいえ、もうちょっとなんとかならなかったの?あとビミョーに開いているの何?

有名ユーチューバーは概して部屋がごちゃごちゃしている。それはひとえに、視覚情報の多さを意識してのことだろう。

私はそれを意識していなかった。

話も越山さんみたいにスラスラ出てこないし、手の動きが多いし、投稿したときにはあれだけ自信があった動画なのに、アラが目立ってしょうがない。

それでも、一次は通過した。あとは二次審査で最善を発揮するしかない。

以下、一次選考動画が公開された順に簡単な感想を書いていく。

3本目 ゆる神話学ラジオ

面白すぎる。これ何かのプロだろ。

ざっくり言うと、審査員の越山さんは地獄行きが決定している。この前提から始まる。地獄行きを逃れる方法もあるが、それもほとんど救いがない。

なぜこの人が昨年のオーディションに現れなかったのが謎である。

その面白さは数字にもあらわれている。この記事を書いている時点で彼女の動画再生数は2800回を超える。これは僕(1500回ほど)の倍近い数字であり、他のゆる学徒の動画よりも数百多い。

ゆる学徒カフェ公式も『オススメ』している。

ちなみに、公式ではあんとれさんの『ゆるむし学ラジオ』もオススメされている。

奇しくも僕の動画は、2つの『オススメ動画』に挟まれた『オススメされていない動画』となっている。公式もなかなかエグいことをする。

4本目 ゆる食文化学ラジオ

知的内容の動画において投稿者のビジュアルをいじるのは良くないかもしれない。しかし言及せずにはいられない。

ビジュアルと声が一致しない・・・。

背景の黒さも合わさって、ロシアの某祈祷僧を想起させた。しかし声が思っていたより高くて軽く驚いた。

もちろん内容も申し分ない。羊羹、紅茶、ワインなど、多種多様の飲食物の歴史や蘊蓄をたった5分の動画に混ぜ込んでいて、それでいてゴチャゴチャしていない。

ちなみに、この食文化という分野はゆる学徒ハウスでは結構ジャンル被りしがちなのである(後述)。

5本目 ゆる料理学ラジオ

『料理学』と『食文化学』、若干かぶってしまった・・・。

ちなみに、『ゆる料理学ラジオ』のケイさんは、あんとれさんんと同じく、ゆる学徒ハウス別館の住人である。やはり、(ゆる)オックスフォードの人間は違う。

タイトルにある『塩対応』という言葉、日本では冷たい事務的な態度をとることの喩えだが、ネタバレすると文字通りの『塩対応』である。詳しくは動画をご覧ください。

『伯方の塩』に始まり、塩味という味覚についての科学的知見を展開。純粋に意外で面白かった。

6本目 ゆる鉄道学ラジオ

やられた。この一言につきる。

わずか5分しかない時間のうち、初めの30秒を茶番(敬意をもってこう書かせてもらう)に使うとは、思い切ったなという感じだ。

実は、僕も二次選考で、最初の30秒で茶番を演じる予定だ。それをやられた。

しかも、なんなら僕のより上手い。鉄道の音がうますぎる。

もちろん内容も面白い。鉄道と時間の関係、そこから天文学と関連させたのは構成として面白い。

後日、カフェでお会いして話をしたが、その知識量に圧倒された。静かなる狂人とはこのことか(褒めてるつもり)。

7本目 ゆる遊戯学ラジオ

遊戯と学という、一見相反する2つを融合するという荒業。それでいて構成も申し分ない。

それでいて、ゆる言語学ラジオでもしられるたゐきさんだ。306秒に込められた内容は濃い。

8本目 ゆる水泳学ラジオ

個人的に1番面白かった、ゆる水泳学ラジオ。

みんな知っている『平泳ぎ』とは何か、実はその定義はあまり知られていない。それをゆるく解説してくれている。

この人もまた、公式にオススメされていた。

胸筋を動かして応援できるというアピールが面白い。
ちなみに、カフェでお会いしたらめっちゃ明るい紳士だった。動画とは怖いものである。

9本目 ゆる馬学ラジオ

この方もまた別館、すなわちゆるオックスフォード出身だ。星座における馬との繋がりを余すことなく解説している。

しかし、普段のトークが面白いと知っているので、僕としてはもっと期待していたというのが本音だ。

ただ、小惑星と馬など、自分の知らない分野についての話には期待している。

10本目 ゆる世界遺産学ラジオ

1番優しい語り口で、1番狂ったことを言う。それがこの動画だ。

本物の狂人は静かだと聞いたことがあるが、その典型例だ。

なんでも、このオーディションが行われるゆる学徒カフェが世界遺産になると主張しているのだから。

しかし、動画を見ると、その主張を完全否定することは難しくなる。

オペラハウスの例から新しい施設も世界遺産になりうると、ヴァルトブルク城とゆる学徒カフェの共通点を見出して世界遺産の可能性があると、優しい語り口で解説する。これこそ世界遺産マイスターの為せる技か。

11本目 ゆる文房具学ラジオ

サムネから醸し出される大物感は本当だった。

高級万年筆と高級車のグラムあたりの値段を比較し、文房具の高級性を示している。

ネットのジョークで「1gあたりでいえばフェラーリよりのりたまが高い」というのがあるが、それを体現している。

ゆる世界遺産学にも言えるが、「それは過言では?」と思われるような言説も、その人の雰囲気や話し方によっては何の抵抗もなく信じられるものに変化してしまう。このゆる文房具学ラジオがそうだった。

文房具屋で、万年筆を見てみようと思った。

二次選考

さて、一応一次審査が終わり、二次審査へと進む。その内容をどうしようか。

これも、ある程度考えてはいた。越山さん、ならびに視聴者が食いつく内容がいいと。

そこで、強風オールバックという案を思いついた。

2023年上半期を席巻した一曲、これが幸いにも「強風」という気象現象を取り扱っている。ゆる気象学ラジオとして取り上げないわけにもいかない。

実を言えば、自身のYouTubeチャンネルで取り扱っていた内容だ。だから台本を書くのもそこまで難しくないと踏んだ。

ただ一つ、この題材は欠点があった。

先を越されるおそれだ。

強風オールバックという曲はあまりに有名で、話題性に富む。だからこそ、某阪大理系YouTuberあたりがネタにする可能性がある。

僕がオーディションに出る前日にでも投稿されたなら、完全でないにせよネタかぶりを指摘されるかもしれない。二番煎じに見られるのは避けたかった。

だから、いざというときのために、もう一つ台本を作った。

それは、地球温暖化の嘘という内容だ。といっても陰謀論ではない。地球が全体として温暖化しているという主張は支持するものの、その説明があまりにも単純で雑で、嘘と言わざるを得ない。そういうことを言おうとした。

というわけで、プランAでは強風オールバック、プランBでは地球温暖化の嘘という内容で決まった。

順番

メールが届いた。オーディションの日時についてだった。

「カワウソさんは9/2の15時からお願いします。」

トップバッターだった。

緊張すると同時に、幸運でもあった。戦略が明確になったからだ。

得てして、トップバッターは基準にされやすい。M-1グランプリで審査員がまず最初のコンビに85点をつけ、以降そこと比較して点をつける。

だから、M-1でもなんでも、トップバッターが優勝することは稀だ。

このオーディションでも同じだ。2日にわたり11人が闘うのだから、M-1以上のものがある。その大会で1番手。「そこそこ上手い」では絶対に残れない。

これを防ぐにはどうすればいいか。

狂えばいい。

これが僕の出した答だ。

すなわち、評価の基準にさえならなければ、一番手でもある程度勝負できる。それに賭けるしかなかった。

そこで、歌った。最初の30秒、歌うことに決めた。

一次審査動画でゆる鉄道学ラジオの岡本さんが最初の30秒で茶番を演じていたが、それと同じ事をやることにした。

ちなみにプランB(地球温暖化のウソ)では、頭にアルミホイルをかぶり、視聴者に「皆さん、政府の陰謀に気づいてください」と呼びかける、という茶番を計画していた。今振り返ればカフェを出禁になるおそれがあり、あらためてプランAで良かったと思っている。

オーディション前日

前日。池袋に来た。カフェの下見、というようなものではなく、ちょっとだけ緊張をほぐしに来た。

夜7時だったと思う。すでにできあがっていた。

相席を選ぶ。目の前に、どこかで見た顔。岡本さんだった。

鉄道の話も面白かった。某大手私鉄の、ここでは書けないような話も聞けた。

そして何より、持参されていた雑誌のチョイスがえげつなかった。

古本屋で買った、戦前の科学雑誌だという。読むと、『らんまん』でおなじみ牧野富太郎や、赤痢菌の発見で知られる志賀潔など、そうそうたるメンバーが寄稿していた。


僕の座っていたテーブルは、この雑誌に夢中だった。

何せ、こんな高名な科学者が寄稿している一方で、『脳の重さと知能』だの、『優性遺伝子(ヒトラーのイラスト付き)』だの、現代からすると疑似科学または道徳的にまずい主張がいくつも載っているのだから。

極めつけは、『日本は世界、世界は日本』という、ある東大教授の主張。氏によれば、九州はアフリカで、四国はオーストラリアなのだという。

QuizKnockのネタは、もう何十年も前に東大教授が寄稿していたのだ。それも、科学雑誌に。

相席した別の方も、クイズ作成者でクイズバーを全国で運営されていたり、北海道のアイヌの話に詳しかったりと、『ゆる学徒カフェみ』を感じる人たちばかりだった。

その晩は閉店までいた。健闘しようと岡本さんと酌み交わし、最高の夜を過ごした。

オーディション当日

朝起きると、寝不足だった。なぜカプセルホテルを選んだのか、これほど後悔した朝はない。新大久保の民度なめてた。

チェックアウトギリギリまでぼーっと準備をする。

新大久保から新宿、そして高円寺へ向かう。

オーディションのちょうど1週間前、気象予報士試験を受験した。受験後X(ツイッター)を見て、この神社の存在を知った。

気象神社の名にふさわしく、いい天気だった。

僕が来たときは中に誰もいなかったが、僕がお参りを終えてから何人か訪れてきた。これだけでも、何か僕は幸運だと思った。

高円寺のカラオケ店に入る。発声練習もかねて『強風オールバック』を歌う。

60分ほど歌い続けたついでに台本練習もする。本当は15分くらいにおさめるところに22分もかけていた。少し調整し、19分まで縮めることができた。

その後、高円寺と池袋で100均に寄る。おもちゃのリコーダーがあればと思ったが、無かった。

午後2時。少し高鳴る胸。ゆる学徒カフェに向かう。

ゆる学徒カフェ

カフェにはすでに大勢の人がいた。相席だった。
テーブルには、戦前の科学雑誌があった。「岡本さんがカフェに寄贈したのかな」と思っていると、本人がやってきた。

2日連続、岡本さんと相席することになった。

その後すぐ、オーナーの堀元さん、そしてゆる天文学ラジオの越山さんが入ってきた。

堀元さんは30を超えているはずだが、異常に若々しかった。童顔とかそういうわけではなく、社会人に見られる切なさが感じられなかった。

かき氷 かき込み 駆け込んだ 数式書き込み 夏期講習

これは現代の俳人・堀元衒学斉による自由律俳句だが、ここから想起されるような気忙しさがない。本人はとても忙しいはずなのに。

衒学斉が僕に話しかけた。一次動画で僕が言った「天文学は夜空を見上げて発展し、気象学は昼に空を見上げて発展した」が印象的だったと。向こうにどんな意図だったかはわからないが、少し緊張がほぐれた。

越山さんともお話した。仕事仲間とお付き合いしていると報告されていたので、そのお祝いとして賄賂を渡した。三重の人に海産物を渡すのは挑発かもしれないと一瞬思ったが、彼は喜んで受け取ってくれた。


音響の調整が始まり、2時50分、いよいよオーディションが始まった。


10分のオープニングトークが終わり、いや、終わらなかった。堀元さんと越山さんの話が盛り上がりすぎて20分くらい経っていた。緊張が緊張する。

オープニングが終わる。私が入り、衒学斉が出る。

越山さんと、どういう感じで始めるかを軽く話す。「最初の30秒ほどは待っててくれ」と伝え、了承してもらう。

少しの沈黙のあと、私のラジオが始まった。

外でた瞬間終わったわ 天気はいいのに進めない 風強すぎてお亡くなり 定期定期的にオールバック  (『強風オールバック』ゆこぴ)

最初、上手くいったと実感した。聞こえないはずの観客の笑い声が聞こえた。

一つ気になったのは、音響調整の人が失望の声を漏らしたことだった。僕が歌い始めた瞬間、終わった顔をした。

後で聞いてみて気づいたが、マスク越しのせいで、かなり僕の声がくぐもっていた。越山さんと比べて、かなり音が悪い。一人語りの一次選考では気づかなかったが、対話になるとその差は歴然だった。

ラジオにおいて、音が悪いのは一番のタブーだ。特に、オーナーの堀元さんは厳しい。僕はそのことを知りながら、犯してしまった。

職業上、マスクを外すという選択肢はなかった。しかし、もう少し声の通るマスクを買うことは出来た。なぜ、よりによって、普通の不織布マスク、それも大きすぎるものをつけたのだろう。

その他にも反省点はいくつもあった。まず、常識と、越山さんの推測力を舐めていたという点。「春に吹く強い風」と言えば誰もが『春一番』と答えるだろう、そう思っていたし、逆に『おろし風』はややマイナーだと思っていた。

逆だった。彼はおろし風しか知らなかった。

開始5分でオチを読まれたのは、さすがに想定の範囲外だった。これが『台本ブレイク』なるものか。ゆる学徒の洗礼を受けた気分だった。

そして、内容が(気象学を習った人にとって)基礎的すぎて、コメントで先読みされた点。これは後で放送を見て知ったのだけれど、「なぜ低気圧だと風が強いか」について、僕が言う前にチャット欄でネタバレされていた。

これはどういうことか。視聴者目線で言うと、以下のようになる。

チャット欄で「これは○○という風です」とコメントされた後で、僕が「これは○○という風です」と話す。

「コリオリの力の説明がない」とコメントされた後で、僕が「この説明ではコリオリの力を省略しています」と説明する。

僕がチャット欄から得た知識を披露しているかのようだった。越山さんがどの程度コメントを読んでいたかは知らないが、対応に困っていたかもしれない。

越山さんの察しの良さとチャット欄という2種類の台本ブレイクに会い、僕のラジオは終了した。もっと構成力を磨き、音質を意識する必要がある。それに気づくのが遅かった。

オーディションのどうでも良い追記

ちなみに、これは後で思い出したことだが、収録中、越山さんが強風オールバックの歌詞を検索し、「地下に潜りたいって歌詞があるけど、群馬に地下ってありましたっけ?」と聞かれた。

そこではうまく答えられなかったが、自分の記憶の奥底に、その答があった。

土合駅

ホームから駅改札まで70メートルほどあり、『日本一のモグラ駅』というあだ名もある。

うっすらとした知識はあったのだが、そのとき都合良く思い出せなかった。

あのときスラスラと答えていれば、結果は少し変わっていたかもしれない。



オーディション後

僕のオーディションが終わり、マダカさん(ゆる文房具学ラジオ)が始まった。カフェ内で聞いていたが、正直なところ、よく聞こえなかった。

これはマダカさんが悪いわけではない。彼女と話した時、別段声が小さいとは思わなかった。なんなら、めっちゃ仕事の話で盛り上がった。

越山さんの声がデカすぎたのだ。そのせいで、相対的にマダカさんが聞こえにくくなった。

そして、藤井亮輔さんによる、ゆるおちんc)失礼、ゆる水泳学ラジオが始まった。

これもまた、一部しか聞こえなかったが、めっちゃ盛り上がっているのが聞こえた。とりあえず、全裸で泳ぐと気持ちいいらしい。

嫉妬した。嫉妬しかなかった。越山さんをここまで喜ばせることができるなんて。

ただただ、酔っ払って二人の笑い声を聞いていた。僕はNTRが好きだが、彼女を寝取られた男はこんな気分なんだろうなと思った。

本当は19時から始まる岡本さんのゆる鉄道学ラジオを聞いてから帰るつもりだったが、藤井さんのラジオで意気消沈したのと、酔いが結構回っていたのとで、彼のラジオを聞く前に帰った。バス停で時間を持て余し、聞いておけば良かったと後悔した。

ちなみに、東京駅八重洲口でバスに乗るのに、1時間くらいバスタ新宿にいた。酔いは相当まわっていたらしい。

なお、現時点で、他の回のラジオはまだ聞いていない。


結果

9月3日18時過ぎ、結果が発表された。越山さんの新しい相方は誰になるか。

僕ではない。それはわかっていた。あきらかに藤井さんに負けていたから。なんなら、彼に優勝してほしいと、夜行バスの中で思っていた。

その思いは通じた。

新しい相方の名は、ゆる水泳学ラジオ・藤井亮輔だと発表された。

僕はこの人には勝てない。そう思った人が優勝した。これは、自分ごとのようにうれしい。

この場を使い、改めて書く。藤井さん、おめでとうございます。

なお、僕がリベンジするかは、今の僕にはわからない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?