第1回:リーグの構造とクラブのファイナンス
はじめまして。
オトナのスポーツファイナンスゼミ「山田塾」にて、スポーツファイナンスを学んでいる武政泰史と申します。
いよいよ始まりました山田塾の公式note。
初回の投稿では主催者の一人である福田拓哉さんが、山田塾の概要、塾長や講師陣の紹介、また全12回に渡る新プログラム等について説明をして下さいました。
山田塾って何?と気になる方はコチラをご覧ください。
さて、今回は塾生の一人でもある私が、5月28日(金)に開催された第1回目の講義について実際に学んだことや感じたことなどをネタバレし過ぎない程度にまとめていけたらと思います。
(夜な夜な講義の文字書き起こし&整理中の写真。講義はZoomとFacebookを併用したオンラインなので、アーカイブでじっくり復習することも可能です。)
当日の講義は、サッカーファイナンスに精通されている講師お二方が前半パートと後半パートをそれぞれ担当し、最後に講義を受講している塾生(参加者)とのQ&Aパート(リアルタイムで質問を募りその場で双方向に議論!)を設けるような形で実施されました。
1. 講義で語られた主なポイント(客観的視点)
1-1 : サッカークラブファイナンスの定義
前半パートの講師は、サッカーベルギーリーグのクラブである「シント=トロイデンVV」でCFOをされている飯塚晃央さんです。
まずはじめに飯塚さんは、ファイナンスを学んでいくにあたり、そもそも論として大事なことがあると切り出しました。それは「サッカークラブは何故、ビジネスとしてお金を生み出せるのか?」という問いです。
その問いを考える上で、今から遡ること160年ほど前にイングランドの地で初めてのプロサッカークラブが生まれ、そこから観戦チケットの有料化やTVでの生放送の開始など、どのようにお金という要素がサッカーに紐づいていったのかを「サッカーの歴史」として振り返りました。
そこから見えてくるのは、人々を代表して戦う「チーム」と、それを運営する「クラブ」の2つが、サッカービジネスの価値という「お金を生み出す源泉」であることです。つまり、チームとクラブが価値を生み出し、人々が持つ良質なコンテンツ欲求やアイデンティティを最大化させた結果お金が生まれ、またそれを循環させるというサイクルです。
こうしたサッカーの歴史、お金を生み出す源泉を踏まえた上で、私たちが今後共通の理解を前提にファイナンスが学べるよう「サッカークラブ経営におけるファイナンスの定義」を決めました。
定義
「クラブビジネス上の何処に優先的にお金が使われるべきかを決めること」
もちろん多様な意見が存在することも踏まえ、飯塚さんはアイデアベースとして定義されています。ここでも塾生の意見がリアルタイムで吸い上げられ、有益な議論が行われたということも併せて書いておきます。
1-2:リーグがクラブファイナンスに与える影響
では、前述の定義を踏まえファイナンス視点でクラブというものを捉えると、「お金をクラブ運営のどこに使うのか?」、またそれを実行するためには「どのようにお金を準備するのか?」という問いが運営をしていく上で生まれます。
その問いに密接に影響してくるものの一つが、プロのクラブがサッカーをする上で必ず所属する必要がある「リーグ」という存在、またその役割や制度ということです。
その情報量の多さ、濃さから、今回講義で語られた内容をすべて記載することはできないのですが、その中でも代表的な例として「開放型リーグと閉鎖型リーグ」という特徴が挙げられます。
開放型:シーズンの競技成績に応じて昇格・降格があるリーグ
閉鎖型:参入権が与えられた特定のクラブのみ競技が行われる昇格・降格がないリーグ
この2つの型がどのようにクラブファイナンスに影響するのかを考えていくと、開放型は上位リーグと下位リーグの階層間で経済格差が生まれやすいという特徴があります。つまりお金を調達する上での大きな要素である営業収入に差が生じやすいということです。また、階層が分かれているがゆえにクラブとしての優先順位が「上位リーグへの残留」に傾いてしまい、それを実現するための「お金の使い方(予算)」や「調達方法」を考えるようになります。
「開放型と閉鎖型」の他にも、リーグフォーマットや規約の制定、管理/外国人枠の規制/オーナー参入規制/クラブライセンス承認、管理/放映権の管理分配等といった「リーグが果たす役割」を踏まえつつ、ベルギーやポルトガル、日本のJリーグといった異なるリーグの特徴の違いも交えながら、ファイナンスへの影響例を学ぶことができました。
例えば、外国(選手だけじゃなく資本も)に対してオープンな姿勢を取るか否か、放映権収入の管理をリーグ主導で行うのか否かといったリーグの特徴によって、クラブのファイナンス(お金の使い方と調達の方向性)が変わるというわけです。
1-3:クラブとリーグの相互依存関係
ここまでの講義を聴いていると見えてくるのが、クラブとリーグの「相互依存」の関係性です。リーグの役割や特徴、クラブに与える影響については上述しましたが、その関係は決して一方通行ではないということです。
クラブはコンテンツホルダーとして、試合をして価値を生み出す一方で、リーグに所属しないと試合自体をすることができなくなります。そして所属している以上は、リーグとしての価値を向上することに貢献・関与していく必要があり、リーグにとってはクラブの成長がリーグ収益と価値の向上をもたらすという相互に依存し合った関係となるわけです。
1-4: ESL構想からみる欧州サッカーの問題
前半パートの飯塚さんによるリーグの構造とクラブのファイナンスの話を受けて、ここからは後半パートに移ります。
講師は、Wharton MBAホルダーでファイナンス専門家であり、プロスポーツの経営にも関わられてる山田塾の塾長、山田聡さん。
前述のようなクラブとリーグの関係が、「両社間のパワーバランス」といった論点を生むことにもなっているわけですが、最近になってその論点に関連する出来事が欧州サッカー界で起こりました。それが「欧州スーパーリーグ構想(ESL構想)」です。
山田さんは、このESL構想の一連の出来事から見えてくる欧州サッカーの問題を、5つの切り口に分けてファイナンス視点で話をして下さいました。
(5つの切り口)
・リーグ内の格差の拡大
・コロナ影響による大幅な経営状況の悪化
・UEFA Champions League(CL)の構造的問題
・米国4大スポーツと比較して効率の悪い経営
・株式市場の期待
こちらもすべてを書くことはできませんが、大きくまとめて書いていきます。
まず山田さんは、「クラブ業績×SNSフォロワー数」による格差比較データを用いてプレミアリーグとラ・リーガの上位クラブと下位クラブのいびつな状況(経済格差)があることを1つ目の問題として指摘されました。
同時にそうした格差がある中でも、ESLに参戦する意思を示した15のビッグクラブはコロナ禍の影響で財務状況悪化に苦しんでいたということ、つまり下位クラブだけでなく上位クラブも財務状況を改善するための「何か」が欲しかったという、背景的な問題も指摘されています。この問題は、15のビッグクラブが抜けたあとの既存リーグの価値の低下と、残った他のクラブのファイナンスへの更なる悪影響を与えるという側面もあります。
そしてその構想に拍車をかけた一つの要因でもあるのが、ESL構想で得られるクラブ収益と比較した際のUEFA CLの相対的な価値の低さです(賞金総額や、それを試合数で補おうとした際の過密日程問題など)。つまり、放映権収入がメインとなるイベントゆえ、放映権が高く売れるトップクラブ同士の試合をいかにして供給できるかが収入規模を増やすポイントとしたときに、UEFA CLの価値はESL構想に比べて相対的に低くなってしまうということが問題の一つとして挙げられるのではないかということです。
また、欧州サッカーと米4大スポーツとの規模・効率性の比較を、リーグの「開放型と閉鎖型の違い」や「戦力均衡策」があるかないか等の特徴を用いて話されていたのですが、ここは前半パートの内容と大いにリンクする点でした。中でも「1試合の価値、おもしろさ」を高めるため(消化試合をなくす等)、圧倒的に強いガバナンスを効かしてリーグ運営をしているNFLの事例は大変示唆に富む内容でした。
そして最後5つ目が、市場の期待値という観点から見たESL構想の是非です。実は当該期間において、株式上場しているMANU(マンU)とJUVE(ユベントス)の2つのクラブの株価が上昇していました。このことは、多様な見方がある中ではありますが、少なくともファイナンス視点ではESL構想は各クラブの価値を上げるものだと評価されていたことになるというわけです。
2.講義を聴いて思ったこと(主観的視点)
ここからは私自身が講義を受けて感じたこと、思ったことを書いていきたいと思います。
まず最も印象的だったのが、リーグ制度・設計の文脈で何度か出てきていた「意思入れ」という言葉です。
これは誰が、何に対して意思を入れるのかというと、「リーグ運営者が、リーグのレギュレーション一つひとつに対して」意思入れをする必要があるのではないか、という意味です。
そして、ここに飯塚さんの講義の最後に出てきた「クラブとリーグの相互依存関係」を照らし合わせると、意思入れをすることはリーグだけがするものではなく、クラブ側にも求めらえるものだということが容易にわかります。
Q&Aセッションで出た話題ですが、例えばJリーグによる放映権収入の分配方法の一つである理念強化配分金は、クラブ側がリーグへ活動報告を行わないと分配がストップしてしまうという話がありました。つまり、リーグはクラブへ「理念を強化してほしい」というメッセージを、配分金というカタチで伝える。またクラブは、それに対して確り活動を報告することで、クラブの意思をリーグへ伝えるという、まだに相互の意思入れの形です。そしてこの「意思入れ」というものは、配分金であれ外資規制であれ、すべてにおいて必要なものだということです。
なんかここまで考えると「何かに似てないか?」って思いました。考えてみると、それは一般企業の「VISIONや理念、中期経営計画」等でした。引いては、1対1のコミュニケーションを含む「すべてのビジネス活動」において必要なことだと思いました。
未来のことは誰も予測できない、ゆえにVISIONや中計というカタチで各々が意思入れを行うわけです。そこに共感し自らの意思を入れる人もいれば、異なる意思を持った人もでてくる。
そう感じたからこそ、もう一つ強烈に印象に残ったのが、究極の戦力均衡、「Parity」をリーグの理念に掲げているNFLです。NFLは「スポーツの魅力」を以下のように定義しているとのこと。
定義
「スポーツの魅力とは、『最高のレベル』で、『戦力の均衡したチーム』が、繰り広げる『競争状態』である。」
この定義、本当に素晴らしいレベルの「意思入れ」だなと思ったんです。
米スポーツは「閉鎖型」&「戦力均衡策」で放映権価値を最大化していますが、「どこが勝つかわからないという価値」がある一方で、ELS構想や既存リーグにもあるような「人気クラブ同士の対戦価値」みたいなのもあるわけで、多様な価値があるわけです。
そして、ファンを含む多様な関係者、多様な価値があるからこそ、「旗」としての意思入れが大切になってくるという関係性であり、リーグ制度やクラブとリーグの相互関係もまさに同じであると、個人的に理解しました。
ファイナンスというどこか「定量的」なテーマの講義を聴いて、一番印象的だったのが「定性的」な言葉だったのが面白いなと思うのですが、おそらく講師の方々の意図としても数字を扱う前提として特別重要な要素であるからこそ、第1回の講義の内容に取り入れたのではないかと推測しています。
3.まとめ
講義の最中、それぞれの講師から塾生へこんな問いかけがされました。
Q「リーグとクラブのパワーバランスとしてはどちらが良いと思うか?」
a. リーグ>クラブの方が良い?
b. クラブ>リーグの方が良い?
Q「欧州スーパーリーグ構想についてあなたはどちらが良いと思うか?」
a. グローバルな需要のあるトップクラブ同士の試合を増やし、そこで得た収 入を選手やファン体験に還元していこうというスーパーリーグ構想
b. サッカークラブの伝統・アイデンティティを大事にし保持していきたいという保守構想(規模の小さいクラブからすると人気クラブとの試合収入減等、格差拡大にもつながる)
こうした、数字の計算とは違った「簡単に答えの出ない問い」に対して、自分なりに考えを巡らせ、みんなで議論できる場が山田塾にはあります。(もちろんザ・ファイナンスと言えるような学びも沢山あります。)
終わってみれば、90分という時間があっという間に感じましたし、事前の「ワクワク」、講義中の「夢中」、事後の「充実」の3拍子が揃ったとても楽しい講義でした。
講師のお二人はそれこそファイナンスの専門家なのですが、小難しい言葉やデータが並ぶわけでもなく、本来であれば難しいことを大変「わかりやすく」講義してくださったので、私のようなファイナンス素人でも楽しく学べたのだと思います。
講師お二方を含めた主催者の方々、また一緒に講義を受けた熱量高い塾生の方々に改めてこの場をお借りして感謝いたします。
今回あえて書きませんでしたが、講義の後半で実施されたQ&Aパートも大変盛り上がりました。(質問も4~5つほど出て、その議論に時間もしっかり確保されていました。)
Q&Aのやり取りとその内容や、今回書くことが出来なかった講義本編の内容を知ることは、ある意味山田塾塾生の特権だとも思いますので、今回のnoteを読まれて少しでも気になった方はぜひ参加を検討されてはいかがでしょうか。
もし記事に少しでも共感、興味などお持ち頂けたなら「スキ」や「フォロー」をして下さると、このnoteの執筆者としてとても嬉しいです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
(執筆:武政泰史)
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#Jリーグ
#クラブマネジメント
#リーグマネジメント
【この講義を以下にて公開します】※2022年5月4日追記
1年間の講義を終え、シーズン2に突入する山田塾。
お陰様でシーズン1は140名もの塾生の方と熱くフットボールファイナンスの学びを共有できました。ご好評につき、今月5月よりシーズン2が始まります!!
つきましては、
「山田塾、興味あるけど美味しいの!?」
「雰囲気とか中身とかチラッと試食したいよね」
なんて声も聞こえたこともあり、今回シーズン1初回講義を公開します!
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講義資料と動画
初回講義資料は下記Google Driveより閲覧が可能です。
塾生の中にはタブレットを活用し、資料のスクショ→動画を見ながらペンで書き込む、といった学びのスタイルを採用している方もいらっしゃいます。
他者に資料を送ることや、その画像をウェブ上にアップすることは禁止ですが、上記のような個人的な使い方は是非どんどんやってみてください!
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